9-8 ルーク暗殺。①
「なっ!?
急いでヒューゼを助けるんだ。
急げ!」
アーカイアは急ぎ自分の配下たちに命令を下していた。
それに対して、ウェイツはあまりの凄さに感動していた。
まさか、初級の魔法で相手を圧倒するとは思わなかったからだ。
しかも、あんな極大の火球を創り出すとは思わなかった。
ルークが戻ってくると、ウェイツは、感動の言葉を発していた。
「ルーク殿、いや、ルーク様、ありがとうございます。
まさか、あなたほどの魔導士がいたなんて。
しかし、どうして初級の魔法であれほどの威力が?」
「あー、まぁ、簡単な理論なんですが。
魔法力を大幅に増大したんですよ。
結果、あんなに極大な火球ができたんです。
まぁ、できると思って試したんですけどね。」
「魔法力を増大!?」
これは、普通の魔導士には不可能なことだった。
それをルークはこともなげにやってみせたのだ。
「お願いがあります、ルーク様。
私を弟子にしてください。」
突然の告白に、ルークは固まる。
「あの、ウェイツ様、それは、ちょっと困るといいますか・・・」
そこで、変な弟子入り問答が始まるのだった。
ヒューゼはなんとか生きていた。
だが、酷いやけどで重傷だった。
すぐさまアーカイアの配下が馬車へと運び、回復術士の元へと運ばれていくのだった。
「ウェイツ、今回の勝負、君の勝利だ。
だが、次の勝負、僕が勝つからな!」
アーカイアはそう言い捨てると、馬車に乗り込み、自分の領地へと帰還するのだった。
「とりあえず、終わりましたね。
さて、我々も帰りましょうか。」
ルークに促され、ウェイツも帰還することにした。
勝負は、ルークの勝利で決着したのだった。
これで、噂が流れれば、ハルムホルン伯爵家は名折れとなるであろう。
ハルムホルン伯爵家に恨みはないが、今回の件は致し方なかった。
だが、この勝負に納得していない者がいた。
ヒューゼであった。
彼は回復術士により回復したものの、深手を負っていたのだ。
右手が不自由になってしまったのだ。
他、全身いたるところに、やけどの跡が残ってしまったのだ。
そして、最悪なことに、雇い主であるアーカイアからも見捨てられる結果となる。
彼は、絶望した。
そして、復讐を誓ったのだ。
あの、ルークという名の魔導士に。
ヒューゼは暗殺者を数名雇った。
そして、暗殺者たちは、動き始めるのだった。
その日の夜。
ささやかながら、祝勝会が行われていた。
なんと侯爵家の全員が参加していた。
祝勝会はすなわち、夕食会であった。
侯爵は家族総出で、ルークを祝ったのであった。
ただ、人数が多かった。
十数名いたのだ。
ほぼ初対面だった。
そんなわけで、ウェイツに紹介してもらうことになったのだ。
全員紹介されたものの、名前は覚えきれなかった。
あとで、反芻してみよう、ルークはそう考えたのだった。
「ルークを祝って、乾杯!」
祝勝会は、夜中まで続くのであった。
翌日。
ルークはまだ眠かったが、侯爵の呼び出しに応じて、応接室へと出向いていた。
「ルーク、誠に大儀であった。
感謝しかない。」
「あ、ありがとうございます。」
昨日の祝勝会で、何度も聞かされた言葉に、ルークは相槌を打つ。
「して、物は相談だが、我が家に仕える気はないか?
ウェイツがおまえの弟子になりたいとうるさくてな。
どうだ?」
侯爵は上機嫌なままだ。
「いえ、それはお断りしてますので、勘弁願いたいです。
それに、ウェイツ様も、火系統の魔導士と伺いました。
僕と同じ立場の方ではありませんか。」
しかし、すぐさまウェイツが反論する。
「確かに、同じ立場にいますが、実力では天と地ほど差があります。
それに、初級の魔法を、高位の魔法と同等の魔法力にまで高めること自体、
私には真似できません。
ですから、弟子入りを希望しているのです。」
「いえ、でも、それは何というか・・・」
ルークは困り果てる。
そこで、侯爵が一つ提案するのだ。
「ふむ、ならば、我が娘を与えるから、我が家の一員にならぬか?
そうすれば、ウェイツの弟子入りも認めてもらえるというものよ。」
「それはいいですね!」
ウェイツはすぐさま賛成する。
「いやいや、ちょっと待ってください!?」
今度は、ルークと侯爵の問答がしばらく続くのだった。
「残念だが、ルークを強制するわけにもいくまい。
だが、感謝の気持ちに変わりはない。
これは、約束の報奨金だ。
受け取ってくれ。」
「はい、ありがとうございます。」
ルークは、小さな袋を受け取る。
ぎっしりと金貨が詰まっているようだ。
「ルークよ、困ったことがあれば、私を頼るといい。
無論、ミルドベルゼ子爵を頼るのも良い。
我々は、ルークによって助けられたのだ。
恩義はきっちり返すのが我が家の流儀だ。」
そう言って、侯爵は笑う。
「ルーク様、改めてありがとうございます。
僕は、これからは父上にも迷惑をかけないよう、いや、
次期領主としての心がまえが出来た人間になれるよう精進します。
ルーク様も、“大魔道士”を目指して頑張ってください。」
どうやら、大魔道士の件、ウェイツも知っていたようだ。
こうして、ウェイツの一件は解決したのであった。