9-7 魔導士対決に参加しました。
翌日。
ルークはウェイツと共に馬車に乗り込み、都市グルードから離れた荒野へと移動した。
都市内部や市街地で、魔法勝負を行うわけにはいかない。
よって、人が全くいない、荒野で勝負することになったのだ。
念のため、周囲に被害が発生しないための措置である。
馬車が到着した際、既に到着している馬車があった。
どうやら、対戦相手の馬車のようだ。
ルークとウェイツは馬車から降りると、その馬車に近づく。
向こうは既に馬車を降りて待っていたようだ。
近づいて来ることに気が付いたのか、こちらに振り向く。
「やぁ、アーカイア。
お待たせしたかな?」
アーカイアと呼ばれた青年は笑っている。
「やぁ、ウェイツ。
だいぶやつれているようだが、大丈夫かい?
君の専属の魔導士に逃げられたと聞いていたけど、
ようやく魔導士を見つけたようだね。」
完全にからかっていた。
「あぁ、見つけたとも。
それで、勝負を始めるかい?」
「あぁ、そうしよう。
どうせ、僕の魔導士が強いんだ。
すぐに決着がつくさ。」
アーカイアは余裕の表情だった。
アーカイアの隣には、魔導衣を纏った青年の男性が控えていた。
「彼の名は、ヒューゼだ。
風系統の魔導士として、非常に優秀な方だ。」
ヒューゼは軽く頭を下げる。
「そうか、“風のヒューゼ”、聞いたことがある。
こちらの魔導士も優秀なんだぜ、アーカイア。
彼は、火と水の二系統の魔導士だ。
名はルークという。」
ルークは紹介され、頭を下げる。
「二系統?
そんなわけないじゃん。
それに若すぎる。
どうせ、中級止まりなんだろ?」
アーカイアは明らかに、ルークを見下していた。
そして、ウェイツが変な魔導士を連れて来たのだと判断したのだ。
「試してみればわかる。
僕から言えるのはそれだけだ。」
ウェイツは得意げに笑うことはなかった。
いつものウェイツならば、得意げに笑っていただろう。
だが、反省してから心を入れ替えたのだ。
だから、ルークを信じることにしたのだ。
そして、父が嘘をつかないことも知っていたのだ。
だからこその言葉であった。
「ま、いいか。
じゃ、はじめちゃってくれ。」
アーカイアの言葉に、ヒューゼが動き出す。
「ルーク殿、頼む。」
ルークはうなずくと、ヒューゼに続き、動く。
2人は、アーカイアとウェイツからだいぶ離れた位置まで移動するのだった。
「二系統扱えるだと?
アーカイア様のおっしゃるとおり、中級止まりなのであろう、小僧。
今なら引き返せる。
不戦敗したらどうだ。」
歩行中に、ヒューゼが話しかける。
自分が勝つと信じているのだろう、調子に乗っているようだ。
だが、ルークは気にしない。
「試してみればわかりますよ。
一応、僕も魔導士ですから。」
「ふっ、その魔導衣も借り物なのだろう?
化けの皮をはがしてくれる!」
そして、両者は立ち止まる。
互いに対峙すると、ヒューゼは杖を構える。
ルークは特に構えることはない。
ちなみに、魔導士は杖を持つ者と持たない者の両者が存在する。
杖は魔力の安定化を図るための重要なアイテムであった。
そのため、魔法使いのほとんどは、杖を持っていた。
ところが、杖が無くても、十分な魔力制御を行って見せる者もいたのだ。
それが、ルークだ。
ルークは、杖に頼るつもりは全くなかった。
逆に、剣士である以上、杖は不要なのだった。
「杖も持たないとはな。
情けない魔導士だ。
さっさと敗れるがいいさ!」
ヒューゼはそう言うと、魔法を唱え、解放する!
「“風切矢”!!!」
複数の風の矢がルークに襲い掛かる!
だが、ルークは、矢と矢の隙間を縫うように、全て躱す!
「な、なにっ!?」
さすがに、躱すと予想していなかったのであろう、ヒューゼが驚く!
次はルークの番だった。
躱しつつ呪文を完成させていたのだ、すぐさま解放する!
「“風爆裂波動”!!!」
風の大爆裂がヒューゼを襲う!!
爆発が済んだ後、結界を張って堪えたヒューゼの姿があった。
「風の中級魔法だと!?
貴様、舐めているのか!?
私は、風使いなのだぞ!」
これは、あくまでルークの悪戯だった。
基本、風系統の魔導士に、同じ系統の魔法を唱えることはすなわち、侮辱行為であったのだ。
これは、魔導士間では常識であった。
特にルークは火と水といった、異なる系統の魔導士である。
同じ系統ならば侮辱にはならないが、異なる系統の魔導士があえて同じ系統の魔法を使ったのだ。
完全な侮辱行為である。
これで激高して、ペースを乱してくれれば、ルークにとって御の字である。
「貴様、私を馬鹿にしているのかっ!!
許さんぞ!!」
そして、ヒューゼは大魔法の準備を開始したのだ。
間違いなく、上級魔法を使うようだ。
見事に、ルークの策にはまったのだ。
ルークはこっそりと結界術を行使し、自分の全身を薄い皮膜のようなもので、防御する。
ルークの準備はすぐに完了した。
後は、ヒューゼの魔法が完成するのを待つばかりである。
「もはや許さん。
貴様は粉々に砕け散れ!!
“極大風凝縮爆発波”!!!」
途端、ルークを中心に、空気が高圧縮され、大爆発が巻き起こったのだ!!
「ふっふっふ、死んだな。
私を馬鹿にした罰だ!」
ヒューゼは得意満面だった。
大爆発の影響で土埃が激しく舞う状況だったが、ヒューゼは勝ちを確信した。
もはや、ルークは生きていまい。
そう思い、引き上げようとした、その時だった。
突然、土埃が掃除機に回収されるように消え去ったのだ。
そして、爆発地点には、ルークが立っていたのだ!
「ふむ、空気を高圧縮し、大爆発を起こす魔法か。
今ので一つ目を覚えたよ。
ありがと、ヒューゼさん。」
「な、なにぃぃっ!!?」
ヒューゼは驚くより他なかった。
まさか、風系統の上級魔法を耐え抜いたこと自体、信じられなかったのだ。
ちなみにヒューゼは、ルークの結界術に気が付いていない。
ルークの結界術は、魔導士協会に張られている結界並みに固いのだ。
上級魔法でも究極レベルのものでない限り、破壊することは困難なのである。
よって、ルークはある意味、無敵だった。
そんなヒューゼが驚いている中、ルークはゆっくりと右手のひらをヒューゼに向ける。
「じゃ、お返しだ。
初級の魔法だけど、甘く見ないことだね。
高位の魔法はあなたにはもったいない。
だから、これで、十分だよ。」
ルークは、魔法を解放する!!
「“火炎球”!!!」
そう、初級の魔法を使ったのだ。
ただし、規模が異なった。
極大の火球が出現し、ヒューゼに襲い掛かったのだ!
ルークが魔法力を操作し、極大の火球を創り出していたのだ!
魔法威力は、高位の魔法並みだった。
よって、結界で防ぎ切らないと、焼失するのだ!
「な、なんて大きさだ!!」
ヒューゼは慌てて結界を張るが遅かった。
大爆発が巻き起こり、やがて収まる。
そして、クレーターが出来ていた。
そのクレーターの中心には、ヒューゼが大やけどを負った状態で倒れていたのだった。