9-6 侯爵領に行きました。
馬車は快速に進み、夜には都市グルードに到着した。
王都に最も近い都市と呼ばれているところである。
馬車は城外門で軽いチェックを受けた後、そのまま城に向かって走り出す。
ルークは外の様子を眺めていた。
人が賑わっている。
都市ラークネス並みに人が多くいるようだ。
ここにも本屋があるかもしれない。
今度寄ってみることにしようと考えた。
やがて、馬車は城に到着し、ルークは馬車から降りる。
そして、侯爵に従い城内へと入るのだった。
応接室に通され少し待った後、クロムワルツ侯爵と若い男性が姿を現す。
そして2人は、ルークの対面に座った。
「ルーク、こやつが、我が息子ウェイツだ。」
ウェイツと紹介された青年は憔悴していた。
どうやら、かなり反省しているようだ。
ウェイツは軽く頭を下げるのみだった。
ところが、侯爵がウェイツを思いっきりビンタしたのだ!
「しっかりせんか!!
おまえがそんなことだから、私が苦労することになったのだぞ!
そして、ようやく協力してくれる魔導士を見つけたのだぞ!
もっとシャキっとせんか!!」
明らかに怒っていた。
ルークは心の中でビクッとビビっていたのだが、表面に出さないようにしていた。
ぶたれたウェイツは、父親に叱られてようやく、シャキとする。
だが、目が暗いままだ。
「さて、彼は魔導士ルークだ。
魔導の腕は、随一と言ってもいい。
火系統、水系統を使いこなす、希少な魔導士だ。
彼ならば問題あるまい?」
それを聞いて、ウェイツは驚きの表情を浮かべる。
そう、二系統の魔法を扱えるものは、稀な存在なのだ。
三系統なんて、今のところいないのだ。
ましてや、全系統使いこなすものなんて、ルークくらいなのだ。
「二系統ですか?
それは本当なのですか?」
ウェイツの質問にルークは答える。
「はい、まだ水系統の合格結果は頂いてませんが、火と水系統を扱えます。
それに、この魔導衣が魔導士である証拠ですよ。」
ウェイツはルークの姿を見て、納得する。
「さて、理解したな?
では、仔細を話すのだ、ウェイツ。」
「はい、父上。
実は、ハルムホルン伯爵の嫡男アーカイアと、
ある言い争いをしてしまったんです。
その内容は、どちらの専属魔導士が優秀かを競ってしまったんです。
僕はその争いに乗ってしまい、魔導士同士の勝負を持ちかけてしまったのです。
結果、アーカイアは了承して、一週間後に勝負をすることが決まったんです。
ところが、僕の専属の魔導士がそれを聞いて、僕の専属解任を申し出ました。
僕は、突然のことに途方にくれました。
父上も巻き込んで、多くの魔導士に相談したのですが、誰も助けてくれず。
当然ですよね。
魔導士は、互いに競い合うために使う道具ではないと気付いたんです。
だから、今回はほとほと困り果てました。」
「そうなんですね。
ちなみに、期限の一週間って、いつになるんですか?」
「明日です。」
これには、ルークは絶句する。
ホントにギリギリの状態だったのだ。
「もし、今回の件、世間にばれてしまえば、笑われるのは必至。
侯爵家の名折れとなるところでした。
だから、来ていただき本当にありがとうございます。
僕は、反省しました。
このようなことは二度としません。
だから、今回は力を貸してくれませんか、ルーク殿。」
ウェイツは頭を下げる。
ウェイツは必死だった。
そんな反省した彼を責めることは、ルークにはできなかった。
だから、了承することにしたのだ。
「わかりました、お力添え致しましょう。
では、対戦の詳細を教えてもらえますか?」
「ありがとうございます。
対戦の詳細ですが、簡単です。
互いに魔法を繰り出し、決着をつける。
それだけです。」
「禁止の魔法とかはないんですか?」
「特に取り決めしてません。
だから自由です。」
「わかりました。
じゃ、明日頑張ります。」
「私からも頼む。
息子の為というわけではないが、勝ってくれ、ルーク。」
最後に侯爵本人からも頭を下げられ、困ってしまうルークだった。
この日は、城内にて食事と宿泊を許された。
ルークは一泊することになるのだった。