9-5 侯爵様の依頼を受けることになりました。
ルークは本屋を出た後、まっすぐに巨大な門に向かって歩いていた。
今日は王都を出た後、まっすぐに帰宅する予定だった。
だが、その予定は狂いだす。
「ルーク様!」
「へっ?」
ルークは呼ばれた方向を見ると、そこにはポールが立っていたのだ。
「ポールさん、お久しぶりです。
どうしたんですか?」
「いや、ルーク様、ちょうどいいところにいました。
お手数ですが、お屋敷に来て頂けないでしょうか?」
「はぁ、いいですけど、何かあったんですか?」
「えぇ、侯爵様が来ていらっしゃるんですよ。
そこで、ルーク様のことが話題になりまして。」
嫌な予感がする。
もしかして、ミレーナとくっつけるため、何か策略を巡らしているのかもしれない。
一瞬だが、そんな考えが頭をよぎったのだ。
「僕のことですか?
僕、何かしましたか?」
「いえ、違うのですよ。
何でも事件が起きたらしく、その助っ人にルーク様の名が出たのですよ。」
「助っ人?」
これはこれで嫌な予感がする。
「ともかく、お話はお屋敷についてから、侯爵様より伺うといいでしょう。」
ということで、ポールに腕を引かれ、ルークは屋敷に向かうのだった。
ミルドベルゼ子爵邸に到着後、早速応接室に通される。
応接室には、クロムワルツ侯爵、レイヴン、サーシャの姿があった。
ミレーナはいない。
「噂をすればなんとやらだな、ルーク。」
「あの、ホントに偶然なんですが・・・」
「その偶然に感謝しているんだよ。」
レイヴンは笑みを浮かべていた。
ルークがソファに座ると、本格的に話が始まる。
「ルーク、魔導士になったそうだな。
おめでとう。」
まずは侯爵の賛辞から始まる。
「ありがとうございます。」
「で、今日は何用で王都に来ていたのだね?」
「はい、実は、水系統の魔導士試験を受けてきました。
その帰りに、ポールさんに見つかりまして、ここに来たという訳です。」
「なるほどな。
水系統の魔法まで使いこなすか。
さすが、ルークだな。」
侯爵はルークを褒めたのだ。
「ほう、では、四つ目と五つ目の魔法を使ったのだな?」
レイヴンの問いに、ルークは首肯する。
「それは是非見てみたかったものだ。
私でも難解だった魔法だ。
それを使いこなすとは、“大魔道士”と言っても過言ではないかもしれないな。」
「ルークは、凄腕の魔導士なのですね。
私も水系統の魔法は使えますが、上級は扱えませんもの。
凄いことですわ。」
レイヴン、サーシャ揃って、ルークを褒めていた。
対するルークは、照れた表情を浮かべ、どう返答していいか困っていた。
「さて、ルークよ。
ここで偶然会えたのも何かの縁だ。
君に頼みたいことがある。」
侯爵がまじめな口調になったため、ルークは真剣に聞くことにした。
「なんでしょうか?」
「私の息子ウェイツが馬鹿な賭け事をしてな。
今窮地にあるのだ。
それを助けてはくれぬか?」
「馬鹿な賭け事ですか?」
「うむ、仔細を話すとだ。
息子ウェイツは、専属の魔導士が優秀ゆえ、
他家の魔導士と勝負すると言い出したのだ。
ところがだ。
我が家の専属魔導士がそのことを聞きつけ、
専属から解任を願ってしまったのだ。
元々彼は、競争というものを嫌っていたからな。
ウェイツの行為に怒ってしまったのだ。
そうしたら、今度はウェイツが進退窮まってしまってな。
親としては情けない話だが、手助けできる魔導士がいないか探していたのだ。
だが、声をかけた魔導士には、ことごとく断られてしまってな。
・・・まあ、内容が内容だけにだ。
これには、ウェイツも反省していてな。
だが、もはや引き返せる状況ではなくなった。
そこで、レイヴン殿に相談を持ち掛けていたところ、
君の名前が出たというわけだ。
ルーク、君に頼めないだろうか?
無論、報奨金は十二分に出そう。
私を助けると思って、力を貸してくれないか?」
侯爵は本当に困っているのだろう、わざわざ頭を下げたのだ。
その行為に、ルークは慌てる。
「頭を上げてください、侯爵様。
その、大したことはできませんが、僕で良ければ、力を貸しますよ。」
「相変わらず、人がいいな、ルークは。」
レイヴンがチクリと刺すが、悪い意味ではないようだ。
侯爵は頭を上げると、感謝を述べる。
「ルーク、ありがとう。
君には感謝せねばならないな。
さて、早速で悪いが、我が領地に来てほしい。
私と一緒に馬車で移動するとしよう。」
「あの、旅程はどの程度なのでしょうか?」
「ん、馬車で半日かかるくらいだ。
今から帰ると、夜になってしまうが問題あるまい。
さ、善は急げだ。」
侯爵はルークを立ち上がらせると、ルークを引っ張って、応接室のドアへと向かう。
「ルーク、あとで結果を教えろよ。」
レイヴンが後ろから声をかける。
ルークは答えることもままならぬまま、侯爵に連れていかれるのだった。
ルークは侯爵と同じ馬車に乗り込むことになった。
馬車は三台あり、残り二台は護衛が乗り込んだ馬車だったのだ。
同じ馬車に乗っていいのか疑問だったが、乗り込んだ以上、降りるわけにはいかなかった。
馬車が動き出すと、かなり早めの速度で動き出す。
揺れは多少あるが、気分が悪くなることはない。
ちなみに、ルークは馬車に乗るのが初めてだった。
そもそも乗ることなんてないだろうと思っていたのだが、まさかこんな形で乗せてもらえるとは思っていなかったのだ。
こうしてルークは、新たな都市へと向かうことになるのだった。