1-1 ルークの過去と現在。
小さな村、ペゾスに、ルークという名の少年がいた。
彼は、自称「魔法使い候補生」だ。
ただし、あくまで「自称」だ。
その実態は、ロクに魔力を持たないただの少年だ。
だから、彼は魔法を使うことができない。
よって、自称は、しょせん自称でしかなかった。
ルークはこの村で生まれた子供ではなかった。
彼は、ルーニア皇国のとある貴族の子供として生まれていた。
だから普通に考えれば、貴族の子として育つはずだった。
ところが、そんな彼は4歳の時、家を追い出されることになったのだ。
理由は至って単純だった。
魔力適性が無かったからだ。
ルーニア皇国では、4歳になった時点で、魔力適性が検査される。
魔力適性があれば、将来、その少年・少女は有力な地位に就くことが約束されていた。
逆に魔力適性が無ければ、用済みとなるのだ。
だから、本来は密かに殺されるのだ。
ところが、乳母の女性が、ルークを殺すことに反対したのだ。
そして、誘拐同然で、ルークを連れ去ったのだった。
ルークの両親はあえて、乳母を捜索しなかった。
家を出た時点で、もはや関係ないと判断したのだ。
それに、暗殺行為を行えば、皇国内での評判に影が差しかねない。
よって、何もしなかったのだ。
ちなみに、ルークは正妻の子供であった。
その母親にも見捨てられたのだ。
毒親と言ってもよいのだが、この皇国では、これが普通なのだ。
魔力無き者は、貴族にすらなれない時代だったのだ。
おかしいというのは、誰の目にも明らかであったが、当時の常識がそれを許さなかった。
よって、ルークは捨てられることになるのである。
乳母は、生まれ故郷であるペゾスの村に逃げるようにやってきた。
村長に事情を話し、村から少し外れた小屋に住むことになった。
以降、6年間、彼は、乳母を母のように思い、育つことになる。
ところが、ルークが10歳の時、不幸が訪れる。
乳母が病気で亡くなったのだ。
病気はとても重く、回復術師をもってしても、治療不可能だった。
彼女は、ルークの行く末を心配していた。
何もできないままいなくなることを、ひたすら彼に謝っていた。
だが、ルークは、彼女の死を受け入れるには、幼すぎた。
彼女が死んだ後、しばらく彼女を探すように村中を歩き回っていたのだ。
村長や村人の説得により、ようやく乳母の死を受け入れたのは、1年後のことだ。
以降、彼は村人たちに育てられることになる。
そして、ルークは15歳を迎えていた。