28完 頑張った証
◆◇◆
王宮に寄って、旅人服に着替える。
こっそり準備しておいた荷物のリュックを背負う。
俺が旅に出ると知られたら、大騒ぎになる。国中の女性たちが引き止めて行かせてくれないだろう。だから何も言わずにぶらっと出て行く。
こそこそ物陰に隠れながら歩いて、王都を出る。
田舎道を通り抜ける。
ノルデン隘路。
かつてここで帝国軍との激戦があった。
隘路を抜けて、平原に出る。
開けた場所に俺が思っても見なかった光景がある。
レオーナやサーシャはじめビキニアーマー姿の歩兵隊約300人。
ルナやゾフィー、メリッサはじめローブ姿の魔法使い隊約50人。
神官隊約20人。
一緒に戦った仲間たちが横に並んで立っている。
サーシャら子供を出産して子供を抱いている者、妊娠中でお腹が膨らんだ人もいる。
「どうして……」
俺は、ポカンとする。
なんでみんなが待っていたのか、わけがわからない。
レオーナが俺の前に歩み出てくる。
「陛下が旅に出ようとしているって、キキィが勘づいていたんですよ。遠慮しいの陛下のことだから、アイリ王妃が出産した直後に絶対こっそり出て行こうとするって」
レオーナはまだ妊娠していない。国を守る責任者として、出産は後回しでいいそうだ。
「国境のちょっと先まで行って帰って来るだけだよ。日帰りだから」
俺はなんとかごまかそうとする。
「陛下は呪いを解明する旅に出ると。キキィは目的も見抜いていますよ」
完全にバレている。
さすがは一番身近で、俺と内政の仕事をしているキキィだ。
俺の普段の何気ない仕草から、俺が何を考えているか推理していたらしい。
キキィ自身はこの場にいないけど、レオーナたちに全力で俺を引き留めるよう頼んだんだろうな。
「で……先回りして待ってたってのか……俺なんかのために」
俺はみんなに気を遣わせたくなくて、アイリにしか告げなかったってのに。
紫のローブ姿のメリッサが流し目を向けてくる。
「陛下ぁ アタシは男なしじゃ生きてけないんだから、アタシは穴奴隷として連れてってよね」
元娼婦で、ビッチゆえの誤解を招く発言だ。
「変態のメリッサさんは黙ってろ。オラこそ連れてってくれ。オラはメイドもできるから、ご奉仕する」
ゾフィーが割り込んでくる。
「あんたはゴーレム作りの仕事があるでしょ。あんたがいないと国が回らないんだよ」
メリッサとゾフィーが言い争っている。
「陛下、子供を置いて行かないでください」
サーシャら子連れの女性たちが子供を抱えて、突き出してくる。
光輝くようなかわゆい子たちを見せられると決心が鈍りそう。
お腹を大きくした女性らもお腹を撫でてアピールしてくるし。
「うう……でも、この子らを守るための旅だから。悪いけど、俺は行くよ」
毅然として見せる。
「私はもう未亡人になるのは嫌なんです。絶対に私より長生きしてほしいのに」
サーシャが涙を流す。サーシャと俺は結婚式を挙げたわけじゃないけど、サーシャとしては俺と結婚している気になっているんだろう。
「みんなのおかげで俺は強くなった。死ぬことはありえないよ」
いろんな属性の女性と閨をともにして能力をもらっておいたからな。
物理攻撃も黒魔法も白魔法も多種多様に使えるようになっている。
灰色のローブ姿のルナが近づいてくる。
21才になったルナだけど、外見はまだ少女のままに見える。
ルナはレオーナ同様に国を守る双璧として、妊娠は後でいいと言っていた。醒めているようで責任感の強い子。
「私だけは連れていくべき。私は古代魔法に詳しい」
ルナの顔がちょっと赤い。
普段クールなルナとしては大胆な告白なのだ。
俺と一緒に二人で旅をすれば、夫婦みたいな関係になる。
「う、うん……ルナには付いて来てもらおうかなって思った」
男を死滅させる呪術を突き止める旅。
魔法の知識だったらルナの方が俺より遥か上。
ルナは研究に大いに活躍してくれるだろう。
そして天才魔法使いルナと一緒だったら旅は心強い。
「だったら私は行く」
真剣に訴えてくるルナ。
だが俺は首を振る。
「ルナは王国を守っていてくれ。突然、新手の呪いを掛けられたりするかもしれない。もしそうなったら対処できるのはルナだけだ」
「……わかった。王国は私が守ってみせる」
ルナが聞き入れてくれてホッとする。
一緒に行こうとする者、引き止めようとする者。様々だが、1人で行くっていう俺の決意は揺るがない。
背後から馬車の疾走する音が聞こえて来る。
振り返ると、宰相公用の白い馬車だ。
馬車は俺のそばで止まる。
「ふぅ 間に合いましたー」
青いドレス姿のキキィが降りて来た。キキィは3年経ってもあまり姿が変わらない。10才くらいの幼女の外見のままだ。
キキィの後にアイリも降りて来た。アイリは病院の白い寝巻のままだ。
「アイリ!? 出産直後なのに」
俺はびっくり。さっき別れのキスをしたけど、足りなかったのか。
「先生っ 私やっぱり先生と離れられないです」
アイリは涙目で抱きついてきた。
「無理をさせてすまん。だが、俺は絶対に帰って来る。心配いらないぞ」
「でも……でも……先生が大好きだから。うう……先生なしじゃ生きていけない」
「アイリ王妃は王様が好きすぎますもんねー 他の女の子もみんなそうですけど。わ、私もだし」
ツンロリのキキィが少し顔を赤くして呟く。
「困ったな……行かないわけには行かないんだが」
「陛下、魔術書の収集は別の者に行かせてはどうでしょうか。何パーティーかで探索させた方がたくさん収集できますよー」
キキィがもっともらしい提案。確かに我が国の歩兵と魔法使いから選抜したら、強力なパーティーが組めるだろう。
「けど、古代語が読めないからな。関係ない書物をたくさん持ち帰っても無駄だし。それにみんなを危険な目に遭わせたくない。あ、俺なら大丈夫だ。俺最強だからな」
みんなを心配させたくなくて軽口を言ってみせる。
「先生はやさしすぎます。いつもみんなのために一生懸命で」
「はは、社畜精神が骨の髄まで染みついてるんだよな。働いてないと落ち着かないって言うか」
「ふぅ やっぱり引き止めは無理ですねー 陛下は聞き入れてはくれないと思ってました。だからせめて、みんなでお見送りしようってことになったんですよ。思い出のこの場所でね」
キキィが嘆息してから、周囲を見渡す。
「そうだったの……」
俺がみんなの顔を見回す。レオーナらが頷いた。
わずか300人ほどで帝国軍10万の侵略を防いだこの隘路での戦い。俺は忘れたことなどない。
女の子たちと力を合わせて、国を守ったっていうものすごい達成感があった。
こんなに大勢の女の子たちが見送ってくれることこそ、俺が頑張った証だろう。自分を褒めてやりたい。
「どんな外敵がやって来ても、ここを通しはしません。我らは陛下のお帰りを待っています。お帰りになった日には私にも子種を授けてください、約束ですよ」
レオーナが顔を赤くさせて伝えてくる。確かに俺が帰ってきた時には、呪いの謎を解き明かし、王国の守りは盤石になっているだろう。
「行って来る。正直、帰るのはいつになるかわからない。ごめん」
俺はアイリを引き離す。
「ううう……」
泣き崩れるアイリ。
俺は「行くの止めた」と言いたいのを堪えて、女の子たちの横を通り過ぎて行く。
「無事に帰ってこないと許さないからー」
「先生のことをいつも想っていますからねっ 離れてても永遠に大好きです」
アイリはじめ女の子たちの声が背中に届く。
俺は幸せ者だよ。大勢の女の子に悲しまれながら出発できるんだから。
俺は王国のみんなを守るための旅に出る。
振り返ることなく、地平線を目指して行った。
最後までお読みいただきまして、ありがとうございます。
ご評価いただきますと、次作投稿のモチベーションが大変高まります。
下部の星マークでご評価出来ますので!
☆☆☆☆☆→★★★★★
何卒よろしくお願いいたします。m(_ _)m
次作は↓のリンクから飛べるようにしております。こちらもお読みいただきますとありがたく存じます。




