7 ハーレム建設の件
◆◇◆
夕食。
忙しいから執務室でアイリとキキィと仕事を処理しながら食べる。
メイドさんがパンや肉料理、スープを運んで来てくれる。
なんとメイドさんが、「あーん」してくれた。
俺は書類に目を落としながらモグモグする。
24時間戦えますか的な生活を強いられているが、メイドさんがお世話してくれるのは感激だ。
料理はけっこう美味しい。
俺がスープを熱いと言うと、メイドさんが「ふーふー」息を吹きかけて冷ましてくれる。
俺は大事にされていると感じるので、やる気が出てくる。
次々に決裁のサインをしていく。
「陛下は仕事が早いですねー 押さえるべきポイントは押さえているしー」
執務机の対面に、椅子を持ってきて座っているキキィ。
俺は前世で40代だった。若い頃より判断力が高くなったと感じていた。暗記をしにくくなっていたが。
転生して、体が18才でも、頭の回転の速さは40代相当に感じている。
それに俺は前世で学んだ社会、経済、政治、法律に関する知識がある。
中世的なノルデン王国はいろいろな点で遅れているから、上から目線で対処できるのだ。
「陛下、ハーレム建設の件ですがっ」
唐突にアイリが話しかけてくる。
モグモグしていた俺は舌を噛んだ。
いってー
「本当に今晩から、私以外の女性とも閨をともにしていただきますねっ」
アイリがこともなげに告げた。
げほっげほっげほっ
咽せまくる。
「陛下、どうなさったんですか」
アイリが立ち上がって心配そうに寄ってくる。
「げほっげほっ ハーレムの件は考え直しているんだよね」
俺はなんとか答える。
「ええええーー昨晩、同意して下さったじゃないですかっ」
アイリが俺の前言撤回を責めてくる。
「ブレて、すまない。でもさぁ国中の女性と性的関係を持つというのは鬼畜な話だよ。俺はすごく良心が咎めるんだ」
1万人とかに子種を授けるとかありえなくないか。
あと能力を授けるためには性交渉が必要だなんて設定は、それなんてエロゲって感じ。前世だったらフェミニズム団体が抗議してくるだろう。
「はぁ。陛下は勘違いをなさっているような気がします。世界が変われば価値観も違うのですよ。転生者の私よりも、この世界に生まれ育って、聡明なキキィちゃんから話してもらった方がいいですね」
アイリはため息をして、キキィの方を見る。
「私には陛下が何を気にしていらっしゃるのか、さっぱりわからないんですけど……」
キキィが困惑している。
「俺の前いた世界では、男が多くの女性と関係を持つのはいけないことだとされていたんだ」
罪悪感を覚えている点を端的に伝える。不倫はいけないよね。
「へ……ノルデン王国では男が多くの妻を持つことは珍しくありませんでしたけど」
「そうなんだ……でもさぁ、夫の愛情が多くの妻に分散するのは良くないでしょ」
俺は話を嚙合わせるのに苦労する。
「ふふっ 夫が一人の妻しか愛さないなんてダサいことしないでください。妻を一人しか持てない男性なんて、女から見て魅力がありませんよー」
キキィに鼻で笑われた。
ダサいって、そこまで言うかよ……
「……いや、夫婦間には愛情というものが必要で……」
俺は恥ずかしいことを言っている気がする。夫婦の暮らしを経験していないので、想像で言っているだけではある。
俺の幻想かもしれなくて、言葉に自信がこもってはいない。
「大事なのは、ちゃんと女性を守って下さることですよー 帝国軍にレイプされたら、女性は種を選べない上に、養育費をもらえません。帝国の奴隷にされて悲惨な境遇に堕とされます」
「む……百歩譲ってハーレムがOKだとして、俺なんかじゃダメでしょ……」
「ご謙遜を。陛下はイケメンで、優しくて、賢明でいらっしゃいます。みんな大歓迎ですよー」
キキィは真顔。お世辞を言っている風ではない。
ツンロリちゃんにしては意外に素直なコメント。
ノルデン女性の美的感覚はよくわからない。
世界が変われば、価値観も変わるようだ。
ハーレムは女性を軽んじているのではなく、むしろ大事にしているのかな……
妻のアイリがいいと言うなら、問題ないということになる。
ハーレムを拒否できなさそうな空気。
当面の俺の一日のスケジュールは、日中に内政や軍議。
夜はできるだけ多くの女性たちと閨をともにするのだそうだ。
寝る時間はあるんだろうか……
いや、寝ることなど気にしていてはいけないのかもしれない。
俺が女性にこんなに頼りにされることはなかったんだから。
転生前のブラック労働で、鍛えられているからな。その点は大丈夫だ。
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