24 妻の愛
俺は死んでもいい。アイリは助けたい。
やってやる。やってやるぜ。
【捨身の一撃】発動――
心の中で念じる。
一体、どうなるんだ。
「現在のステータスでは【捨身の攻撃】を発動できません」
女の声。
「は……?」
事前に能力の説明がない上に、いざ使おうっていう時に使えないってどういうこと!?
「あなたはまだ死ぬ準備ができていません」
女の声が言い聞かせてくる。
「そりゃ死ぬのは怖いよ」
心の底じゃ、もちろん死にたくないって思ってる。
発動には心の底から死んで構わないって思わないといけないのかよ。
自分の無意識は、コントロールできるものじゃない。
【捨身の攻撃】は発動のハードルが高すぎる。ハズレスキルだ。
結局、俺には使える能力がもうない……
「すまん、アイリ。かなう相手じゃなかった」
俺は皇帝に向かって剣を構えながら、後ろにいるアイリに話しかける。
弱音を吐いちゃいけないけど、俺は元々しょぼい人間なんだ。
負けることを謝らずにいられない。
「奇襲は私が考えた作戦。陛下のせいじゃありませんよっ」
アイリは俺を責めないでいてくれる。
「ククク、ノルデン王よ。殺すのは少し待ってやろう。アイリに別れを告げろ。自決は止めろと言うんだな」
皇帝は俺にアイリを説得する時間を与える。
「……アイリ、君は生きてくれ。どんなにつらくても死ぬよりはマシだよ」
俺は振り返って、アイリに涙目を向ける。
アイリが皇帝の女にされるのは嫌だ。でも俺なんかの道連れでアイリを死なせてしまうのはもっと嫌だ。
アイリは俺なんかにはもったいなさすぎる女性。
まだ18才だし、生き残ってほしい。皇帝に記憶を改竄されたらアイリ自身は幸せなのかもしれないし。
「いいえ。先生が死んだら私も死にます。また一緒に転生しましょう」
アイリも涙ぐんでいて興奮状態。
「そんな気軽に転生しないでしょ」
たとえ転生できたとして、同じ世界に転生するなんて偶然は起きないはずだ。
「先生……転生したら、また私を妻にしていただけませんか」
アイリの両目から涙が流れた。
えっ――――
そんなにも俺のことを愛してくれてたなんて……
アイリは俺のことを好き過ぎだけど、これほどまでとは思わなかった。
アイリと俺は心が繋がった一体感で満たされる。
俺は最高の幸せ者。
これ以上、望む物はない。
「【捨身の攻撃】が発動可能です」
何――!?
いきなり発動条件が整った!?
なんでだ!?
…………
そっか……
【捨身の攻撃】に必要なのは死の恐怖の克服じゃなくて、人生の充実感だったんだ。
ああ、今の俺はアイリによって全てが満たされている。
やれる。
【捨身の攻撃】発動――
俺の体が輝き出した。
皇帝の黒いオーラがますます濃くなっていた
「戦いはワシの気をたかぶらせる。勝利の後に抱く女は格別だ。アイリとやらを突きまくってやるわ」
だが俺の体から出る光はどんどん明るさを増す。大きな部屋全体に光の粒が満ちていく。
皇帝の黒いオーラまでも掻き消してしまうくらいに。
「ど、どういうことだ」
初めて皇帝が動揺している。
「【捨身の攻撃】についてご説明します」
女の声が俺の頭の中で響いている。
「50パーセントの確率で、光の範囲内にいる敵を倒します。しかし99パーセントの確率で自分も死にます。ただし1パーセントの確率で、自分の命が助かる場合もあります」
今さらな説明。
まあでも説明を聞いてたら、使うのをためらってたな。
敵は50パーセントでしか倒せないのに、99パーセントの確率で死んじゃうんだから。
1パーセントの確率で生き残る方に賭けるのは少年マンガの常套手段だ。そして主人公は生き残る。
しかし前世で40代だった俺は現実が甘くないことを知っている。1パーセントなんて当たりっこない。
俺は確実に死ぬ。
アイリも俺を追って自決する。
運が超良ければ、一緒に転生できる。
また夫婦になれたらいいな。
「か、体が熱い。何だこれは。や、焼ける、ぐははあああ」
皇帝が苦悶する。
皇帝の体を光が包み、押し潰して行く。
「ぐおおおおおお――――」
断末魔が響いた。
皇帝の体が光の中に溶けていった。
「やった」
【捨身の攻撃】は成功。
邪竜の化身を倒すなんて、すごすぎ。
犬死にならなければ、御の字だよ。
ドクン
心臓が跳ねる。
全身がバラバラになりそうな激痛。
ああ、これが【捨身の攻撃】の代償。
死ぬんだな。
前屈みに倒れて行く。
俺の体にアイリがヒシと抱きついて支えてくれる。
「アイリ、皇帝を倒したんだから、君は生きてくれよ」
呟くけど、アイリの耳に届いたかわからない。
もう俺には声を発する力も残っちゃいない。
全ての力を出し尽くしたから。
「先生ーーーー」
アイリの絶叫が聞こえたのが最後、俺は意識を失った。




