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21 策が上手くいきすぎる

 ◆◇◆


 日没後。

 港からヒルデガルドの海賊船旗艦が動き出す。

 帆船はちょうど沖合に向かう風を捕らえた。


 船首には、降伏の印として白旗を掲げている。夜でも旗が見えやすいように、かがり火をそばで燃やしている。


 俺は黒ずくめの服装でかがり火の隣に立つ。サングラスかけてるし、肌に黒い粉を塗りつけて日に焼けたように見せかけている。

 髪型も筋盛りにした。鏡で見た自分の姿はバッカスそっくりだった。


 港では、キキィが見送ってくれた。

 俺たちが失敗したら、後はキキィに託す。


 ノルデン王国はキキィが使者となって、帝国軍に降伏する。

 徹底抗戦を続ければ帝国軍が乱入してきて、女性たちに死者が出たり、輪姦されたり、被害は大きくなる。苦渋の選択だが、降伏した方がまだマシなのだ。


 降伏した場合、我が国の女性は全財産を没収され、身分に応じて帝国貴族の側室にされたり、奴隷にされることだろう。

 サーシャら俺の子供を宿している女性は多分、堕胎を強制される。

 歴史上、滅亡した国はこういう過酷な目に遭って来た。

 

 もし、皇帝を討ち取ることに成功したら……合図を送って、港の奥に隠している我が国艦隊が出動し帝国艦隊を急襲する。皇帝が死んで大混乱になっている帝国艦隊なら追い払えると踏んでいる。


 成功するにしろ、失敗するにしろ、ノルデン王国の運命はあと数刻で決することになる。


「絶対に負けられないな」

 俺は行く手を見つめている。


 アイリが俺の隣に立つ。アイリは縄で縛られて、捕らえられたように偽装。ただし、縄はすぐに解けるように細工してある。


 ゴーレムが漕ぐガレー船ではなく海賊船にしたのは、海賊の裏切りを偽装するためだ。ヒルデガルド自らが船に乗って指揮してくれている。


 レオーナとルナは甲板の影にしゃがんでいる。


 ヒルデガルドは船に残って、突入はしない。


 突入するのはレオーナ、ルナ、アイリ、俺の4人。我が国最強の戦士と魔法使いと一緒とはいえ、小人数で突っ込んでいくのは勇気がいる。


 あとミイナが同行を志願して船室に隠れている。ミイナは戦闘力がないが、【ドロップ率(大)】の能力を持っている。もし皇帝を討ち倒し、帝国軍を追い払うことができたら……莫大なアイテムを落としていくはずだ。


 ミイナは真剣に俺に訴えていた。

「あたしは今まで何の役にも立てなかったから、せめて勝った時のボーナスを獲得するために連れて行ってよー」


「危険だよ」

「陛下たちが負けたらノルデン王国は滅亡。あたしは帝国軍にレイプされちゃうよ。どこにいても危険なんだからさ。あたしは敵に犯される前に死ぬけどね」


 ミイナの決意はみんなに感銘を与えた。

 小悪魔っぽくて、小ズルいところのあるミイナをみんな正直あまり良く思っていないところがあった。でもミイナは俺たちと一緒に戦う仲間になる機会を待っていたのだ。


 海賊船はノルデン湾の奥で停泊する帝国艦隊に接近。

 今晩は満月で、帝国艦隊の威容が見える。


 帝国艦隊では俺たちの接近を警戒する鐘が打ち鳴らされる。


「止まれ。帆を下ろすんだ」

 最寄りの船が伴走しながら、大声で呼び掛けてくる。


 俺はすうっと息を吸い込んでから声を張り上げる。


「俺様は美の女神に愛された男にして、ノルデン王国貴族バッカス・ギルナーだ。皇帝陛下に献上する美女を連れてきた。急ぎ皇帝陛下に御目通り願うため、通してもらおう」

 バッカスをマネた痛々しいセリフは口にするのが恥ずかしい。だが恥ずかしがっていては正体がバレる。俺はバレないでくれとハラハラしながらバッカスを演じる。


「馬鹿のバッカスだと!? 確かに黒ずくめのおかしな恰好(かっこう)をしているが」

 右を伴走する帝国の船から、オッサンの驚いた声が伝わってくる。

 やはりバッカスは帝国内で馬鹿として広く知られた存在だった。


「ああ。俺様は長らくノルデン王国に潜伏していたんだぞ。ようやく隙をついて、王妃をさらい出すことに成功した。皇帝陛下がお待ちだ、通せ」

 俺は上から目線な感じで話す。


 ここで下手に出てしまえば、相手の言いなりで停船を強要されてしまう。

 相手をムカつかせると攻撃される恐れが濃厚だが、あえて強気で押していくしかない。


「ならん。止まれ。止まらないと攻撃するぞっ」

 怒鳴りつけられる。


「ああん。貴様は何者だ? 足止めしたことを皇帝陛下に報告するぞ。早く王妃を抱きたい皇帝陛下がさぞやお怒りになるだろうなァ」


「むうぅ 確かに王妃の外見は聞いている話と一致するが」

 帝国船のオッサンがアイリの方を見てうなっている。やはり帝国軍の中ではアイリを捕らえろという命令がなされていたんだ。


「わかったら、さっと通しやがれ!」 


「ちっ いいだろう。行け」

オッサンがしぶしぶうなずく。


 帝国船が離れていく。

 海賊船は邪魔されずに進むことができた。


 途中何度も停船を命じられるものの、その都度、バッカスのふりをした俺がアイリをさらってきたという小芝居で切り抜けることができた。

 帝国軍はまじで、皇帝の独裁状態。全員が皇帝を恐れていて、機嫌を損なうことを避けようとする。

 やすやすと帝国艦隊の中心にたどり着いた。


 皇帝の船は巨大。

 海賊船の十倍くらいに見える。巨大な帆が張れるようになっているから、主に風を受けて進むんだろう。さらに両舷に無数の櫂が突き出ている。大勢の奴隷が櫂を漕ぐことで風がない時でも推進できるようになっている。


 先端に、黒いローブ姿の魔法使いが立つ。フードをかぶっている。


「俺様はバッカス・ギルナー。王妃アイリを捕らえて来た。皇帝陛下にお目通り願いたい」

 大声で告げる。


 魔法使いはフードを払った。


「久しぶりね」

 マルー。


 俺はハッとした。

 こいつには声で俺だとバレる。変装が通じない。


 マルーはノルデン隘路でルナたち魔法使い隊と戦い、かなわないと見て逃げて行った。以来、行方不明。また俺たちに嫌がらせをして来るだろうとは思っていたが、やはり皇帝のすぐ近くにいた。


「予想どおりね。わざわざアイリを運んできてくれてありがとう。皇帝はお待ちかねよ」

 マルーは何もかもお見通しだったかのように言う。


 俺はアイリをダシにして、皇帝の船に接近できたと思っていた。だが、こっちが罠に嵌められたみたいじゃないか。

 策が上手くいきすぎる気がしていたが、マルーの手はずだったのか……俺たちをすんなり通すように、帝国軍に厳命してあったのかも。

 

 追い詰められた俺たちは皇帝を奇襲する他ないと読まれていたんだ。マルーはわかっていて待ち受けていた。俺たちがアイリを連れてきた方が、戦いの混乱に巻き込まれてアイリが死ぬのを避けられる。


「私がマルーと戦う。陛下たちは行って」

 ルナが宙に浮き上がって、皇帝の船の甲板に立つ。


 振り返ったマルーと対峙した。


「行きましょう」

 レオーナがアイリを肩に抱いて跳躍。

 皇帝の船に飛び移った。


「さ、陛下」

 レオーナが手を伸ばしてくれる。


「お、おう」

 俺はレオーナに引き上げてもらって乗り移った。


 甲板では、ルナがマルーを見据えている。

「陛下たちが中に行くまで待って」


「いいわよ。どうせ皇帝にはかないっこないし。私はあなたとサシで決着を付けたいわ。どっちが本物の天才か、はっきりさせましょう」

 マルーが邪悪な笑みを浮かべる。


 百年に一人の天才魔法使いと言われるルナと、匹敵する実力を隠していたマルー。

 マルーはルナを倒して、自らの強さを証明したいのだ。


「ルナ、絶対に勝ってくれると信じているぞ」

 俺はすれ違いざまに声をかける。


 ルナは無言でうなずいてくれた。


 俺たちは甲板を走る。

 船室の入口は護衛の兵士が大勢立ち塞がっている。


「雑魚はどけ」

 レオーナが大剣を一閃。


 兵士たちは宙に吹き飛ばされた。


 レオーナが扉を蹴破って突入。

 俺も後に続いた。


 船室の中には階段がある。皇帝がいるのは下の階だろう。レオーナを先頭に俺もアイリも階段を駆け下る。

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