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20 最悪のNTR

 ◆◇◆


 執務室に戻る。

 ちょうどティータイムで、メイドさん達がお茶とお菓子を運んで来てくれた。


 アイリは座って、お茶を一口飲む。


 メイドさん達が部屋を出て行く。俺は黙ってアイリが口を開くの待った。

 レオーナ、ルナ、キキィは立って、アイリを見つめている。


「バッカス君に話を聞いて確信しました。再度の帝国軍侵攻の目的は私を捕らえることですっ」

 アイリが真顔で告げる。


「なんだって!?」

 俺はあっけにとられた。


「まさか、王妃を……」

 レオーナも驚いている。


 帝国軍の侵攻は単に、領土拡大の野心からだと思っていた。さらには美女しかいないノルデン王国の女を性奴隷にすること。

 アイリ一人が目的とは思わない。アイリの自意識過剰に思える。だが確かにバッカスは、アイリが特別な能力を持っていると知っているのを隠そうとしていた。


 アイリが目的だとバレたら、アイリが逃走を計ったり、自決したりするかもしれない。アイリを手に入れられなかったら、皇帝は怒る。帝国軍が王都を占領した後、バッカスが生きていたら皇帝はバッカスのせいにして八つ裂きにするだろう。


「王妃の能力は確かに凄いですが、皇帝は王妃の何の能力を欲しがっているのでしょう。ま、まさか精力回復!?」

 レオーナが自分で言ったことで、気持ち悪そうにする。

 皇帝は高齢者。だが、いつまでも女を抱きたがっているというのはありそうだ。


「いいえ、多分、私がこれからレベルアップして獲得する能力ですっ 私は【王佐】のギフトで、陛下と閨をともにしなくても能力を獲得することがありますから」

 アイリは戦闘中に突如、【蘇生】の能力を獲得した。死人を生き返らせる大神官級の能力だ。

 そういえばマルーは上空から、アイリが【蘇生】を使うのを見ていたはずだ。


「これから……例えばどんな?」

 俺はアイリに尋ねる。


「権力者のジジイが欲しがるものなんて決まってます。【不老不死】や【若返り】ですっ」

 アイリが断言。


「ホントに!? そんなん獲得できんの!?」

 俺にはそんな超絶能力が存在するとは思えないんだけど。


 あ、でも【蘇生】も十分に特別な能力だな。死んだ人間が生き返ることに比べたら、【若返り】は低レベルに思える。

 しかも【若返り】を繰り返し使えば、【不老】と同じことなる。


「大事なのは、私が本当に獲得できるかじゃありません。私が獲得するかもしれないって皇帝が思っているってことですよっ」

「な、なるほど」


「皇帝のハーレムには美女が何千人もいるそうですね。今さら私なんかを加えることにさして関心はないでしょっ」

「い、いや、アイリは美しいが」

 俺はお愛想じゃなくて本音でつっこみを入れておく。


「老い先が見えてきた皇帝は、どうしても私を手に入れたい。ノルデン王国には一度大負けしてるのに、さらに莫大な金と労力をかけて再び攻め込んで来たのはちゃんと目的があるんですっ」

 力説するアイリ。


「た、確かに、帝国は圧倒的な物量戦を仕掛けてきた。ハルザ同盟を滅ぼして、さらにノルデン王国まで倒すにはむちゃくちゃ金かけてるな」

 帝国が新たな領地を獲得しても、採算が取れているのかは疑わしい。


 金とは別の目的が隠れているというのはありそうなことに思えてきた。

 アイリの推理に舌を巻く。


「頭いいですねー 筋が通っていると思いますよ」

 キキィも納得した。


「私は先生の教え子ですからっ」

 褒められてアイリが目を輝かせる。


「噂では、皇帝は滅した国のお姫様をハーレムに入れるのが趣味だとかー お姫様に記憶を改竄する魔法をかけて、皇帝に喜んで身も心も捧げるようにされるそうですよー」

 キキィの言うことに、ぞっとする。


 皇帝に捕らえられたアイリ……記憶が改竄されて、体も心も犯される。

 最悪のNTRじゃないか……


 さらにはアイリがレベルアップして【若返り】や【不老不死】を獲得。それを皇帝に施して、皇帝は永遠に若いまま世界中の美女を貪り続ける。

 世界の終わりと言ってもいい事態だ。断固として阻止しなければ。


「だ、だが、皇帝の目的がアイリだとわかったとして、どうするっていうんだ」

 俺には逆手に取る方法が思いつかない。アイリを差し出すから、撤退してくれと頼むわけにはいかない。


「陛下にはバッカス君に変装していただきますっ」

 アイリが思いもよらなかった作戦を言い出す。


「は……」

 キョトンとしてしまった。


「バッカス君が私を拉致したように偽装して、皇帝の船に近づくんですよっ 帝国軍には私を捕らえるように命令がされてます。きっと危害を加えられずに通してくれます」


「あ、そっか。バッカスは以前、皇帝の宮廷に出入りしてましたからねー 黒ずくめの服装は目立つから、バッカスを覚えている人は多そうですよー」

 キキィが興奮する。


「なるほど。脱獄して、王妃を拉致したように見せかけられますね。黒ずくめの服装はマネしやすいですし」

 レオーナも頷く。


「ですですっ バッカス君を利用しましょうっ まんまと皇帝の船に乗り込めたら、陛下とレオーナさん、ルナちゃんの3人で皇帝を討ち果たして下さいっ」

 アイリの作戦は、少人数で皇帝を奇襲するということだ。


 アイリが捕らわれたふりをすることで、戦わずに接近できるから。


「しかし、アイリを敵の真っ只中に連れて行くなんて……」

 俺にはものすごく抵抗感がある。最愛の妻を大変な危険にさらしてしまう。


 奇襲が上手く行けばいいが、失敗したらアイリをこっちからプレゼントしに行ったようなものだ。


「皇帝は邪竜の子と言われていますよ― 人間離れした強さで、相手を倒して領土拡大してきました。たった3人で討ち果たせるんでしょうか」

 キキィも疑問視している。


「他に方法はありませんよっ 手をこまねいていても、いずれ私は捕らえられます。もっとも先生以外の男に汚されるなら、私は自決しますっ」

 アイリが毅然として、覚悟を伝える。


 場が静まり返った。


 このまま海上封鎖されていたら、食料が尽きる。衰弱したところに攻め込まれたら、一方的に負ける。

 アイリは敵の兵士に捕まる前に死ぬ。アイリは俺が好きすぎるみたいだから、きっと本気だ。

 何もしなければ確実にそうなるって、わかる。


 アイリの言う通り、わずかでも逆転の可能性がある作戦に賭けるしかない。


「わかった。やろう」

 俺も覚悟を決める。敵の真っ只中に、少数で乗り込んでいくのはめちゃくちゃ怖い。

 でも戦闘能力がほとんどないアイリが行くって言うんだ。俺が行かないわけにはいかない。


「まずは陛下にバッカス君の変装をしていただきますっ メイドさーん」

 アイリが手を打ち鳴らす。


「うう……俺がバッカスみたいなアホなファッションをしないといけないのか」

 他に男がいないから、やむをえないよな。

総合評価が1000Pを超えました。


イタい話を書いているので、大変励みになっています。誠にありがとうございます。


あと10回くらいで完結です。

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