18 奇策
夜。
俺は歩兵隊や魔法使い隊の女の子と閨をともにさせられる。
敵が攻めて来たから子作りは中断。戦う女の子たちに能力を授与しないといけない。
本日、5人目の子に能力授与を終える。
俺はバスローブ姿でベッドに一人座って、休憩。
サイドテーブルのお茶をゴクゴク。
窮地を脱する名案はなかなか思いつかない。
閨をともにした誰かが特別な能力を獲得しないか期待してるけど、そう都合良くはいかない。
「たっ大変ですっ 夜襲ですっ」
アイリが部屋に駆け込んで来た。
「帝国軍が上陸してきたか!?」
夜襲は想定していた。
ノルデン湾沿岸で歩兵隊や魔法使い隊に交代で見張りに当たってもらっている。
「いえ、王都の各所で火災や爆発が起きてますっ 食料庫が炎上しているみたいですっ」
アイリがわめき散らす。
「何だって!?」
ただでさえ乏しい食料が焼かれているだと
俺は慌ててサイドテーブルの上の服を手に取る。
王宮の外に出ると――
月のない闇夜だが、街の方を見ると各所で火柱が上がっている。
逃げまどう人の声や、消化作業に当たる人の叫びが耳に入る。
帝国の密偵による破壊工作だ。
瞬間移動の魔法が存在する世界では、破壊工作を起こす方より防ぐ方が格段に難しい。
一応、食料庫とか重要施設は歩兵隊が警備しているけれど、やはり防げなかった。
帝国の密偵が食料庫の近くに瞬間移動して、火属性魔法をぶっ放せばいいだけだからな。
ファンタジー世界で治安を保つのって不可能じゃないか……
空を見上げていると、闇の中で突然眩い光が生じる。光は線になって、地上に刺さる。
どんっーー
爆発音。
魔法使いが空を飛んでいるのか!?
空から爆撃するように、王都の施設を攻撃しているんだ。
マルーか。
マルーが悪魔の羽を生やして飛んで逃げていった時の姿を思い出す。マルーなら、羽で空を自在に飛び回れるし、王都のどこに食料庫があるかも知っている。
地上からじゃあ、真っ黒な空のどこにマルーがいるか見えない。
魔法を放つ時に光が見えるけど、その瞬間にマルーを攻撃しても遅い。もう別のところに飛び去られてしまう。
一方的に攻撃されるばかり。
俺とアイリは呆然として立ちすくむしかなかった。
◆◇◆
翌朝。執務室。
俺とアイリは執務机に並んで座る。
レオーナ、ルナ、キキィが向かって立つ。我が国の最高幹部たちが事態の打開策に頭を使っているのだ。
食料庫は焼かれ、井戸の多くが爆破された。
各自の家に貯めてある水や食料でしのぐとして、もって数日。
ゴーレムが井戸の瓦礫を掻き出して復旧に努めているものの、水を汲めるようになるにはかなり時間がかかりそう。
それに復旧させたとしても、またすぐ密偵やマルーに破壊されるからキリがない。
早く帝国軍を追い払わないと食料も水も欠乏する。
だが大艦隊を打ち破る方法を思いつかない。
こっちが偵察したところでは帝国軍の艦艇は500隻以上。3万人は乗員がいる。
大部分は奴隷の漕ぎ手だとしても、魔法使いが数千人、戦士も数千人いるはずである。
しかも艦隊の中央部には、皇帝の乗船らしき巨大な船がある。
皇帝自ら出陣したとあっては帝国軍の士気は極めて高いだろう。
つけいる隙が見当たらない。
大艦隊を少数の味方の艦隊で勝利した事例といえば、三国志の赤壁の戦いがすぐ思い浮かぶ。
曹操軍の大艦隊 対 孫権軍の小艦隊の戦いだったが、孫権軍の司令官周瑜は奇策を巡らした。
味方の武将黄蓋を曹操に裏切ったように偽装して、曹操軍の艦隊に接近させ、火を放った。
おりしも曹操の艦隊の方に風が吹いていた上に船どおしが鎖でつながれていたため、燃え広がることになった。
こんなに上手くいったらいいのになと思うけど、現実は厳しいね。
最近のノルデン湾はほとんど風が吹いていないから火計は無理。
ヒルデガルドの海賊船が裏切ったことにして、接近していくことも不可能だろう。海賊など全く信用されず、帝国の数千人の魔法使いによって攻撃魔法を雨のように降らされることになる。
帝国の艦隊に疫病が広がったとして、何か月も先だろう。その前にこっちの食料が尽きる。
正面攻撃は無謀というものだし……
こっちの魔法使いは50人だけ。しかも王都にいるのは30人。残り20人はノルデン隘路から動かせないと来た。
百年に一人の天才魔法使いのルナがいるけれど、帝国艦隊には同等の強さのマルーがいる。
八方塞がりか……
「こうなったら、皇帝を暗殺するしかありませんねー」
キキィが俺の目をじっと見て言い聞かせる。
「え、皇帝を? 確かに総大将を討ち取れば勝ちってことはあるけれど。大艦隊だし、別の男が代わりに指揮を取るんじゃないかな」
「いいえ。帝国は皇帝の独裁。家臣どもは皇帝の機嫌を取ろうとゴマ擦り競争をしてるんです。家臣どおしは憎しみあっているから、皇帝がいなくなれば、帝国軍は瓦解しまーす」
キキィは外交が得意。他の国の事情もよく知っている。
「むう……皇帝だけ倒せばいいのか」
俺は腕組みして考える。
一筋の光明が見えた。帝国軍全てを圧倒する戦力は俺たちに無い。だが皇帝を集中攻撃すれば、もしかしたら勝てるのかも……
「だがどうやって皇帝に近づくのだ? 皇帝の船は艦隊の中央だ。敵船が十重二十重に取り囲んでいて到底近づけはしない」
レオーナが割り込んでくる。口調には悲壮感が漂った。
「うーん。俺たちは飛んでいけないから、船で行くしかないよね」
【全世界瞬間移動】が使えるキキィなら、皇帝のそばに遷移できる。だがキキィは非力だから暗殺なんてできないだろう。
俺たちの船が向かって行けば、帝国の船から魔法や矢を浴びせられて火ダルマになる。
「私に考えがありますっ」
アイリが割り込んできた。
「え、何!?」
俺たちはびっくりして、アイリに注目した。
「私の考えが正しいかどうか確かめに行きましょうっ 着いてきて下さい」
アイリは立ち上がり、すたすた扉の方へ歩いて行く。
俺はキキィと顔を見合わせる。
「何なんだろう」
「さあー」
みんな、よくわかんないけどアイリに着いて行くことにした。




