15 美少女と金銀財宝が満載だからね
◆◇◆
昼下がり――
俺たちの船団は航海を続けている。
「敵襲、敵襲――!」
先頭の海賊船のマストの見張りが叫び、鐘が打ち鳴らされる。
俺は船室から甲板に駆け上がる。
無事にノルデン王国に帰れるとは思ってなかったが、やはり敵の船が現れた。
船首に立つ。
行手を遮るように50隻ほどのガレー船が並んで進んで来るのが見える。
アイリは戦いを避けて船室に隠れているように言っておいた。
ヒルデガルドが俺の横に立つ。先刻、俺と航路の打ち合わせを兼ねてランチを共にしようと乗り移っていた。
「あれはマイン市の艦隊だ。ハルザ同盟加盟都市だったが、帝国の手に落ちて乗っ取られたな。奴ら、こっちの船は美少女と金銀財宝が満載だと知っている。こっちを取り囲んで降伏させ、捕獲しようとしてくる」
「是が非でも美少女を捕まえたいよね。渡すわけにはいかないがな。どうすんの? 逃げる?」
「もちろん殱滅する」
「敵の方がはるかに多いけど」
しかもこっちは非戦闘員がほとんど。
「あんたにもらった能力があるからな」
ヒルデガルドがニヤリとする。
数で負けていても、個々の強さで圧倒するつもりらしい。
「じゃあ、威力を見せてくれ。しょぼかったら、すまん」
「ふんふーん、帝国の犬のどもめ。【火嵐】をくらいなっ」
ヒルデガルドが鼻歌まじりで右手の平を突き出す。
無数の火球が敵の先頭の船目掛けて乱舞する。
ボオオオオンという爆音を立てて、火球が甲板やら側面に命中。
火柱が立って、船は一瞬で轟沈した。
「あはははははは、強いじゃん、これ」
ヒルデガルドは愉快で堪らないみたい。
俺も【火嵐】がこれほどの威力と思ってなかった。
「俺もやっとくか。【神雷】」
俺が呟くと、敵の船の一つに雷が滝のように降り注ぐ。
甲板が弾け飛び、敵兵が黒焦げになるのが見えた。
雷は船底まで破壊したみたいで、あっという間に沈んでいく。
俺とヒルデガルドの使う魔法の威力は絶大。連発できれば勝てるんだけど、いかんせん一度使うと数分休まないといけない。
その間に敵船が間合いを詰めてくる。
「面舵いっぱい! 回避しな!」
ヒルデガルドが叫ぶ。
敵は船首をこっちの横腹に突撃させて大穴を開けようとしてくる。
ギリギリでかわした。
俺は他の海賊船に目をやる。
ボンッという音がして、砲弾みたいなものが敵の船に飛んでいく。
敵の船の側面に突き刺さったのは巨大な鉄製の銛だ。
この世界に火薬は発明されていない。だけど大弩はある。巨大な弓の弦の力を使って矢を飛ばすのだ。
銛には太い縄がつながれている。
海賊船は縄を引き寄せて、敵船の横側に近づいていった。
間隔が5メルトルくらいになったところで――
「ひゃっはー」
海賊たちがマストからバラバラと飛び降りる。
敵船の甲板にいる兵士と斬り合いに。
「おりゃあ」
「死にたい奴からかかってこいやあー」
敵兵を圧倒。斬り殺したり、海に蹴落としたり暴れまくる。
「貿易船じゃないからお宝は積んでないでしょ。全部沈めて構わないよ」
ヒルデガルドが叫んで指示。
「へいっ」
海賊たちは元気良く応じる。
船室に油を注ぎこんで火をつけた。中の敵兵やら、漕ぎ手の奴隷やらは火だるまだ。容赦なさすぎる。
炎上する船から、海賊たちは元の船に飛び移る。
「【火嵐】」
ヒルデガルドが叫ぶ。
火球が次々と敵船に炸裂し、燃え上がる。
「あはは楽しー 男たちはみんな黒コゲね。美少女を犯そうっていう獣には当然の報いさ」
「ああ、良心の呵責は感じないな」
俺も同意。
その後も、ヒルデガルドと俺は【火嵐】と【神雷】で遠隔攻撃。
接近して来た敵船には、海賊たちが乗り込んで行って破壊する。
50隻もいた敵はみるみる数を減らすが、こっちは一隻も沈まない。
敵は半分くらいになって、逃げ出し始める。
楽勝だ。
「ふんふーん【火嵐】」
ヒルデガルドは魔法の威力が半端ないのが楽しすぎるみたい。
追撃して、さらに5隻沈めた。
「陛下、勝ちそうですねっ」
アイリが隣に駆け寄って来た。船内に隠れて戦況を伺っていたが、もう大丈夫だと出てきた。
「ああ、海賊のみんなのおかげで大勝利だ」
ヒルデガルドが俺の方を振り返る。とても機嫌がいいみたいでニコニコしている。
「あんた最高だよ。すごい能力をくれて、ありがとうよ」
「海賊の親玉に礼を言われるとは光栄だね」
「またアタシを抱いてくれよ、もうアタシはあんたなしじゃ生きられない」
ヒルデガルドがあっけらかんと言う。
隣でアイリが頬を膨らませている。
夫婦関係に亀裂を走らせる発言は止めてほしい。




