13 黒ギャルと偽装結婚⁉︎
「ミイナは俺のこと、好きでもないのに、結婚だなんて」
俺は政略結婚に乗り気ではない。
「あたいは、おーさまのこと大好きだよ。あたいの肌の色を素敵って言ってくれてうれしかった。優しいおーさまが好きで好きでたまらないんだ」
ミイナは熱に浮かされたように話す。
……
無碍にするのはかわいそうになる。
船首で、俺はミイナとアイリとひそひそ相談。
俺はアイリと結婚している。いくら一夫多妻が認められた世界とはいえ、もう一人の女性を妻にするのは非常に抵抗感がある
ノルデン王国で俺は多くの女性と閨をともにしているけど、彼女らとは結婚はしていない。
未亡人のサーシャとか、亡き夫の代わりに子種を授けている。どうしても子供が欲しいという女性の気持ちに応えるため、俺としては奉仕活動みたいなものだ。あくまで人助け、そう思わないとやってられない。
でも結婚するとなると、一回閨をともにするだけってわけにはいかない。
ミイナにはアイリ並みに気配りをしてやらないといけないだろう。
女は、男の体の浮気は許せるが、心の浮気は許せないと聞いたことがある。
妻にとっては心のつながりが大事。
俺の愛情がミイナにも分散してしまうのは、アイリにとっては耐え難いはずだ。
実際、さっきからアイリは死んだ魚のような目をしている。
「……でしたら結婚するふりだけでいいよ。この船で結婚式を挙げてよ」
ミイナが食い下がる。
「偽装結婚か……でもなあ」
俺としては嘘をつく罪悪感が拭えない。
「おーさまはしょせん、あたいたちハルザ同盟の女の子を対等には扱ってくれないんだな」
ミイナは目に涙を溜めて拗ね始める。
妻のアイリと対等に扱うわけにはいかないよ、と言い掛けて止める。言ったら、ミイナを傷つけちゃう。
「いや、そうじゃないって」
苦笑。
「守るって言うのは口だけで、本当はあたいたちを奴隷にするつもりなんでしょ。途中、どこかであたいたちを売り飛ばしちゃうんじゃない? お金は全部奪ってから」
「し、しないよ。するわけないじゃん」
「奴隷として売られちゃうくらいなら、みんなで海に身を投げるからな」
ミイナは脅迫してくる。他の女の子たちのために必死だというのはよくわかった。
「どうしよう、アイリ」
俺は困り果てた顔をアイリに向ける。偽装結婚でも、アイリの許可が必要と思う。アイリに決めてもらいたい。
「はあぁ仕方ないですよね。結婚するふりだけならいいですよ」
アイリが魂の抜けたような声を出す。
「まじ? ぐすっ ちょーうれしいんだけど。ありがと」
ミイナが指で涙を拭う。
「ふりだけだよ」
俺も念押しする。エッチなことをするつもりはないとほのめかしているつもり。
「はーい。第二夫人として身の程をわきまえとくからね。なにとぞよろしくお願いいたしまーす」
ミイナがぺこりと頭を下げた。
◆◇◆
ただちに甲板で、結婚式が執り行われることになった。
ミイナとしては俺とアイリの気が変わらないうちに、形式を整えたいんだろう。
着替えたりはせず、みんなに俺たちが結婚したことを宣言するぐらいの簡単な儀式だ。
甲板の真ん中あたりで、ハルザ市の女の子十人が座る。
俺はミイナと向かって立った。
アイリは悲嘆にくれて船首の壁にもたれかかり、海を見ている。
「ノルデン王国とハルザ同盟の結びつきの証ってことで、あたいをおーさまの妻にしてもらったからね」
ミイナが笑顔で報告。
ぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱち
盛大な拍手が起こる。
俺は照れくさい。
「えーと、ミイナと結婚したからにはハルザ同盟の人たちとは身内ってことだからね。俺はみんなを見捨てたりはしない。だから安心して」
俺の言葉で、みんな明るい表情になる。
「陛下と閨をともにすると、すごい能力を授けられるんでしょ」
「ミイナはどんな能力を授かるのかな」
女の子がひそひそ話しているのが聞こえてきた。
「しまった」
【能力授与】を忘れていた。
ハルザ市の人たちは俺が【能力授与】ギフトを持っているって知ってるんだった。
先日キキィがハルザ市に行って援軍を要請した時に話したんだ。ノルデン王国に男は俺一人だけど、チートスキル持ってるって。
「ミイナが帝国を打ち破るすごい能力をもらったりして」
「ハルザにすぐに戻れるかもしれないわね」
女の子の間にものすごい期待が高まっている。
俺は心臓がバクバクしてきた。
ミイナと閨をともにしなければ能力を授けられない。偽装結婚がバレてしまうんじゃ。
ちらと隣のミイナを見る。
ミイナは、ふふん、と得意げな顔をしているような気がする。
偽装結婚を俺に受け入れさせておいてから、俺に閨をともにするよう追い込んでいく。
ミイナは最初から計算ずくだったんじゃ……
頭がゆるい女の子に見えて、意外にミイナは狡猾なのか。
いや、これくらい誰でも思いつくか。うっかりしていた俺のミス……
果たして、ミイナとは閨をともにせずに済むんだろうか。猛烈に心配になって来た。
ミイナがドレスの腰に取り付けたポーチに右手を差し込む。ベルベットの小箱を取り出した。
「おーさま、結婚の証として、指輪を一緒にさせてほしーんだけどさ」
ミイナが箱を開ける。プラチナの指輪が二つ。
「結婚指輪ってこと?」
この世界で指輪をしている人は珍しい。結婚指輪の習慣は聞いたことがない。
ミイナがうなずく。
「母の肩身なんだ。結婚する男性に身に付けてもらえるようお願いしなさいって」
「何か特別な謂れがあるの?」
俺としては指輪はあまりしたくない。アイリが指輪を見るたびに落ち込みそうだ。
「ハルザ市じゃあ、夫が交易の旅に出て、長い間いなくなるからね。残された妻は、夫と同じ指輪を身につけることで離れていても夫の存在を感じられるんだってさー」
「な、なるほどね……」
「だから、おーさまにも私と同じ指輪をしてもらいたいんだ」
ミイナが指輪を一つ摘んで差し出してくる。
指輪をしないと不自然なのか……
俺は横目で、観客の女の子たちを見る。
みんな、じーっと俺が指輪をするのか注目している。
「わかった。指輪をさせてもらうよ」
偽装結婚を信じ込ませるために、ハルザ市を奪還するまでは指輪をしておこう。
臥薪嘗胆てやつだよ。やりとげなければならないことを忘れないためなのだ。
あ、でも、指輪ってどの指に嵌めるんだっけ。前世を通して、嵌めたことないからわからないや。
「左手の薬指ね」
ミイナが教えてくれる。
俺が左手を差し出すと、ミイナが嵌めてくれた。
「よかった。指の大きさがぴったりだ」
ミイナはとても嬉しそう。
そしてミイナはおずおずと小箱を差し出して見せる。俺の手で、もう一個の指輪をミイナに嵌めて欲しいのだ。
俺は空気を読んで、指輪を摘んだ。
顔を赤くしているミイナが、左手を差し出す。薬指に嵌めてあげた。
ぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱち
また盛大な拍手が沸き起こる。
ミイナは左手の甲をかざして、女の子たちに指輪を見せつける。
本当にハルザ市では指輪が特別な意味があるんだと感じさせられた。
「いいなあ、ミイナ」
「私も陛下と結婚したーい」
めっちゃうらやましがられている。
「ありがと、おーさま。最後に誓いのキスをしよ」
ミイナが思ってもみないことを言い出す。
なに!?
俺はものすごくびっくりする。
エッチなことはしない約束なのに。キスはエッチじゃないのかよ。
偽装結婚がバレないよう、驚きを顔に出さないようにするのが大変。
「あたいは生涯、おーさまだけの物であることを誓います。もちろん、おーさまは私だけの物じゃないからさ。誓ってもらわなくていいよ」
ミイナが目を閉じて、唇を窄めている。
キスしないとおかしい空気だ……
見えない力が俺の背中を押す。これが空気という同調圧力。
前世から俺を苦しめた謎の力は、残念ながらこの世界にもある。
ミイナと唇を重ねた。柔らかくて甘い味がした。
ひゅーひゅー
囃し立てる声。
俺は唇を離した。
アイリの方を見る。アイリはがっくりとうなだれていた。結婚式に興味なさそうだったけど、キスシーンはしっかり見られてしまった。
結婚式が始まってしまえば、流れはミイナが仕切ってしまえる。
ミイナは予め全ての展開を計算していたのだろう。ミイナはかなりの策略家だ。
大商人の娘だからな。客に商品を買わせるまでのクロージングをしっかりと仕込まれているみたい。
ヤバいなこれは……俺は黒ギャルの罠にハメられつつある。




