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12 ファーストレディ

 ◆◇◆

 

 避難するため港に集まった約500人の子女。

 子たちの姿を見て、俺は目を丸くする。


 全員が女の子だから。

 女子を逃がすと聞いていたけど、本当に男子が一人もいない。

 15才前後の若い子が多い。


 上等な布地の服を着て、キラキラ輝いて見える。

 全員が重そうなスーツケースをいくつも持っている。


「商人にとって大事なのは娘ですからな」

 フォーゲル市長が重々しい口調で告げる。


「息子よりもですか」

「商人の家は存続が最優先事項。バカ息子に跡を継がせたら家が潰れます。優秀な店員を娘の婿にして跡を継がせるのですよ」


「なるほど……」

 息子はどうでもいい存在なんだね。むしろ邪魔なくらい。


「息子の出来は選べませんが、婿は選べます。全ての家で、娘には素晴らしい婿を見つけて家を再興するように言い聞かせているはずです」


「しかしノルデン王国には男が俺一人しかいませんが」

「でしたら陛下が全員の婿になればよろしいのです」


「いや、それは……」

「ぜひぜひ娘たちに陛下の素晴らしい子種と能力を授けてやって下さい」


「ご冗談を……」

「追い詰められた状況で冗談は言いませんぞ」


「俺は商売のことがわかんないですよ」

 前世では高校教師だったし。

 民間企業で働いたことないから、物の売り買いについては素人。

 やり甲斐搾取されてたから、逆手に取ってブラック労働のさせ方ならわかるけど。

 

「大丈夫です。どこの家も娘を商人の女主人になれるよう育てていますからな。一通りの商売のやり方はわかります」

 市長の話し方は真剣そのもの。本気で女の子全員が俺の嫁になっても構わないと言いたげだ。


「女の子だけでも商売を始めるんですか」

「ええ。それに女の子はみんな、金銀や宝石をありったけ持たされていますよ。全員の分を合わせれば国家予算の何十年分にもなるでしょう」


「ひいいい」

 仰天してしまう。

 大事な娘さんたちと全財産が俺に託されている。


 俺が奪ったり、女の子を陵辱するとか思わないんだろうか。

 市長はじめハルザ市の商人たちは俺を信じることに決めたということなんだろうな。責任の重さを痛感する。


「女の子たちが持ち出す財産は商売の元手になります。もちろんノルデン王国に避難させてもらう御礼として、たっぷりと貢ぎ物差し上げますよ」


「いえ、別に何ももらうつもりはありません。困った時はお互い様です」

 先にノルデン王国が帝国と海戦をやった時はハルザ同盟に助けてもらったからね。


「女の子をみんなハーレムに入れていただいた方が安全が保証されるというものなのですが」

 市長がとんでもないことを言っているのでスルーする。


「まずは女の子を避難させます。後で、必ずハルザ同盟を帝国から解放する軍事作戦を起こします」

 俺は考えていることを伝える。


「何ですって!?」

 市長が息を呑んでいる。


「ノルデン王国の女性はとても強いんです。力になってくれるよう説得します」

 俺が能力を授けたからね。


 王国を守るためじゃなくて、他国のためでは戦う気が起きないかもしれない。

 でもハルザ同盟はノルデン王国の安全保障上、不可欠な友邦だと俺が説明したらわかってくれるんじゃないかな。

 俺は同盟にただ乗り(フリーライド)できるとほくそ笑んでいたが、もはや戦いは避けられない。


 レオーナはじめ歩兵隊は協力してくれそうだ。ゾフィーもきっと力を貸してくれる。ゴーレム艦隊に歩兵隊を乗せて出撃だ。

 ハルザ同盟の都市に上陸して、占領している帝国軍を撃破し、解放する。


 帝国軍をいっぱい捕虜にすればきっと人質交換ができる。奴隷として連れ去られた人々を取り返すのだ。


「ありがとうございます。王様の言葉を希望にして、苦難に耐えていけますよ」

 市長が頭を下げる。

 俺の言うことは気休めだと思ってそうだ。


「さあ乗れ」

 埠頭に立つヒルデガルドが手を振る。


 女の子たちは緊張の面持ちで両手いっぱいに荷物を持つ。

 海賊に身を委ねるのは怖くて仕方がないだろう。

 だが他に道はないと覚悟を決めた顔で、桟橋を歩いていく。


 アイリが身を寄せてくる。

「陛下のハーレムに500人追加……妻として複雑な気分です」


「いやいや、ハーレムに入らないから」

 俺はハルザ市の女の子は一時的に避難するだけということにしておきたい。


「ノルデン王国の女性たちは陛下を取り合う相手が増えたと怒るかもしれませんね。難民問題の勃発です」


「広い心で迎え入れてもらいたいのだが……」


「ハルザ市の女の子たちは心細い境遇ですからね。陛下と閨をともにして能力と子種を授けて欲しいってせがむに決まってますっ」

 アイリは俺が情にほだされてハルザ市の女の子と閨をともにすると言いたげ。


「大丈夫だって……」

 俺は否定するけど、いずれ板挟みに苦しむのは想像がつく。


 港には西向きの強風が吹いている。帆船でノルデン王国に向かうには絶好の状況だ。


「碇を上げろ。ただちに出港する」

 ヒルデガルドの指示で海賊たちが動き回る。


 船団がハルザ市を出港。

 ヒルデガルドの旗艦を先頭に沖合目指して進む。

 俺の船は海賊船20隻に囲まれている。守ってくれているのか、人質なのかよくわからない感じだ。船にはミイナら、市の最高幹部の娘10人が乗っている。


 アイリとミイナは後部甲板に立って、ハルザ市の町並みを名残惜しそうに見つめる。


「ううう……新婚旅行が。ぐすっ」

 アイリが鼻を啜る。


 楽しかった新婚旅行は帝国軍の襲来で強制終了させられた。慌ただしく逃げ帰らないといけない。


「父さん……」

 ミイナは涙を目に貯めている。

 普段威勢のいい黒ギャルがしょんぼりしているのはギャップが大きい。


 ハルザ市に残った家族は間もなく奴隷にされて悲惨な目に遭う。自分だけが逃げて、いいのかと自責の念に囚われていることだろう。


 振り返れば、甲板では女の子たちがみんな、めそめそしている。

 この船にはハルザ市を支配していた大商人の娘たちが集まっている。


 みんな、お金持ちのお嬢様で、何不自由ない暮らしから一転してしまった。

 家族と別れる悲しみに加えて、これからどうなるんだろうという不安でいっぱいなのだ。


 ミイナが突然抱きついて来た。

「おーさま、私たちを見捨てないでよね」

 巨乳が押し付けられてドキッとする。


 他の女の子もミイナのまねをして、たくさんすがりついてくる。

「わたしもなんでもご奉仕しますからぁ」

「妾になって陛下のお子をたくさん産みますから」

 何十人も俺の周りにひしめいて身動きできない状況。


 ぐらっ

 突如、船尾が傾く。


「きゃあああああ」

 女の子たちが悲鳴を上げて倒れる。


 俺はミイナを押し倒すようにして倒れた。

 甲板で仰向けになったミイナとキスしそうなくらい顔を近づけたところで、なんとか手をついて支える。


 ミイナが顔を赤くする。


「みんな、陛下の周りに集まりすぎですっ 船のバランスが崩れて沈没しちゃいますよっ」

 アイリが隣でへたりこんで叫ぶ。


「だ、大丈夫だよ、俺がみんなを守るから。落ち着いて前の方に動いて行って」

 俺は上半身を起こして指示。


「王様、やさしい」

「素敵すぎ」

 うるうる涙を流しながら女の子たちが甲板の前の方に這って行く。


 半分ほど女の子が甲板の前半分に移って、船の傾きが元に戻る。


「ふうぅ」

 俺は胸を撫で下ろした。

 ミイナの右手を握って、起こしてやる。


「ごめんね、ケガはない?」

「大丈夫だよ。ありがと」

 ミイナの顔は赤いまま。


「あ、あのさ、おーさま、厚かましいお願いだってわかってるんだけどさぁ」

 ミイナがうつむいてモジモジしている。


「ん、何でも言ってよ」


 ミイナが真っ赤な顔を上げる。

「あたいと今すぐに結婚してよ」


「いいい!?」


「あたいが陛下の妻になれたら、ノルデン王国とハルザ同盟が固く結ばれるってことになるだろ。他の女の子たちも安心できるさ」


「ま、待って待って、それはなしで」


「あ、あたいみたいなブスで不作法な女が、おーさまの妻になんて、ありえないって思うけどさ。でもでも、いちおーあたいがファーストレディなんで、どうかお願いします」

 ミイナらしくなく下手(したて)に頼み込んでくる。ミイナからは心細い女の子たちを安心させたいという真剣さが溢れていた。


 かつてアイリはノルデン王国の姫として、国を守る責任感でいっぱいだった。

 今はミイナがファーストレディとしての責任に目覚めた感じが伝わって来た。

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