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10 女子を連れて逃げる

 ◆◇◆


 港からハルザ市の艦隊50隻が出動。

 俺は真ん中の船の甲板に立つ。


 ガレー船は本来、船どうしでぶつけ合って戦うためのものだ。だが甲板にいる2百人ほどの兵士が矢や魔法を放って陸を攻撃することもできる。


 艦隊はハルザ市の港湾を出て、旋回。大陸の方へ向かって行く。


 大陸側では、帝国軍の奴隷の男たちが(むし)のように土嚢(どのう)を担いできて海に投げ込んでいる。奴隷は奴隷頭に鞭打たれて、さぼることが許されない。


 さっき城壁で見た時よりも埋めたてが進んでいる。すでに数十メルトルが埋めたてられた。このままのペースでいけば1週間経たずにハルザ市に到達するだろう。


 奴隷を可哀想とか思わず、埋め立てを阻止しなくちゃ。


 俺は頭上に両手をかざす。

「【全員攻撃力向上】!」


 光のドームが艦隊を包む。

 これで味方の攻撃力が一時的に1.5倍になる。


「おおお」

 なんか力が漲ってくるぞ

 甲板の男たちがうめく。ハルザ市民軍。主にハルザ市の商人の次男や三男で組織されているらしい。

 みんなハルザ市で生まれ育ったから、市に愛着がある。士気は高い。


「【全員魔力向上】!」

 俺はさらに魔力を1.5倍にする。


「こんな広範囲に効果を及ぼすなんてよ」

「ノルデンの王様、すごすぎだろ」

 褐色のローブ姿の魔法使いたちが驚いている。


 ハルザ市民軍には魔法使いもいる。市民の中で魔法の才能がある者と、金で雇われた傭兵の魔法使いの混成だ。


 味方の人たちはパワーアップに感動しているけど、俺は楽観していない。ハルザ艦隊は陸を攻撃することをあまり想定していない。はたしてこっちのわずかな戦力で帝国軍を打ち破れるだろうか。


 俺から見える範囲では帝国軍には奴隷しかいなくて、弓兵や魔法使いの姿はない。

 こっちが一方的に遠距離攻撃して、帝国軍からは反撃されなさそうだが……


「ありったけの矢と魔法で攻撃してください」

 俺は隣のハルザ艦隊司令官の髭面のおっさんに要請。


「よし。弓矢の射程に入ったら、一斉攻撃だ!」

 おっさんが手を振って指示する。


 船は海岸まで100メルトルまで接近。

 これ以上近づくと浅瀬で座礁しそう。

 甲板から矢を放つ。


 矢は黒い雲のようになって、土嚢を担いでいる奴隷に降り注ぐ。


 矢が奴隷の頭、胸、背中に突き刺さる。

 バタバタと倒れていった。


 どうか転生して、異世界で幸せになってくれ……

 俺は奴隷たちの冥福を祈る。俺も転生前はブラック労働者で、奴隷みたいなものだったから、とても親近感が湧く。申し訳ない気持ちでいっぱいだ。


 こっちの攻撃で帝国軍の埋め立て作業が止まるかと思いきや、後ろから次の奴隷の集団が出てくる。


「お前らは死んでも土嚢を海に投げ込め。さすれば転生先で、ハーレムが手に入るぞ」

 奴隷頭の掛け声が響いてくる。


「これで死ねる」

「ハーレムだ、ハーレム」

 虚ろな目の奴隷たちはむしろ喜んで死のうとしているような……この世界でも異世界転生が盛んなのか。


 つらい現実からオサラバしたくてしかたないみたいだ。

 前世の自分を見るようだ。むしろ死なせてやった方が感謝されるから、罪悪感が薄らぐ。


 2回目の矢と魔法による一斉攻撃。

 無防備な奴隷たちに当たりまくるし、威力1.5倍だから殺傷力抜群。新手の奴隷はほとんど討ち果たした。


 しかし、さらに奥から次の奴隷が出てくる。


「キリがないな。だが攻撃を続けていればいつかは終わる」

 俺は海岸を見据えて独りごちた。


 その時――

 遠くから黒い物体が飛んでくる。


 物体はみるみる接近。

 巨大な岩だ――


 この船に直撃――

 と思った瞬間――


 岩は右隣の船の甲板に落下した。


 盛大な水柱を上げて、轟沈。


 俺は飛沫を浴びながら、帝国軍の投石機による反撃だと悟った。


 海岸線の奥から次々と岩が飛来する。


「まずい」

 こっちには岩を撃ち落とす強力な魔法の使い手がいない。


 投石機がどこに配置されているのかこっちから見えないから、潰しようがないし。


 周囲に水柱がいくつも立つ。


 今度こそ、この船に当たる!?

 

 どおおおおんっ

 すぐ隣で巨大な水柱――


 外れた――

 飛沫が降りかかって来る。


 胸を撫で下ろすが、帝国軍にはきっと観測役がいる。誤差を修正して、もっと正確に射ってくるはずだ。


「こ、これはもう撤退した方がいいですよ!」

 俺はハルザ艦隊司令官に叫ぶ。


「し、しかしここで引いてはいけないのでは」

 司令官は戸惑っている。

 

 俺が攻撃しろと言い出して、今度は撤退しろというのは振り回しているだけだ。


 でも、こっちは敵を攻撃できないのに、敵はこっちを攻撃できるっていう一方的に不利な状況だ。

 このままでは全滅するのは確実。

 引き返して、別の対策を考えるしかない。


 しかし対策はあるんだろうか。

 おそらくハルザ市はもう詰んでいる……そんな気がしてならない。


 ハルザ艦隊は回頭し、港に引き返した。


 ◆◇◆


 昼夜を問わず、帝国軍は埋め立て工事を続けている。

 明日にも土嚢で作った陸地は島に到達する。

 投石器が城壁のそばに設置されて、壊しにかかるはずだ。


 市庁舎の会議室では、市の幹部のジジイ達が対策を話し合っている。といってもこの事態に陥った責任をなすりつけあっているだけ。


 俺も座っているが名案は思いつかない。


 ハルザ同盟に加盟する他の都市から続々と帝国軍侵攻の報告がもたらされる。他はもう陥落したり、陥落寸前。援軍を寄こしてもらうことができない。


 フォーゲル市長が俺の方を向いて悲壮感たっぷりに話す。

「もはや陥落は避けられません。かくなる上はハルザ市の女子500人ほどをノルデン王国に避難させていただきたい」


 城壁が突破されるのは時間の問題だ。帝国軍が雪崩れ込んできたら、市の住人は殺されたり、奴隷にされる。女性は見境なく犯されてしまうことだろう。


「もちろん受け入れます。ですが俺たちが乗ってきた船に500人も乗れませんよ」

 小さい帆船だ。10人くらいしか乗れない。


「わかっています。ハルザ市の軍艦で運びたいところですが、難しい」

 市長の表情はますます硬くなる。


「ガレー船を漕ぐ奴隷が反乱を起こしちゃうんですね」

 俺には市長の悩みに思い至る。


 ハルザ市の艦隊は約50隻。数は十分にあるんだが、漕ぎ手が問題だ。

 奴隷は形勢不利だと見ると、すぐに反乱を起こす。忠誠心ゼロで、鞭打たれながら(かい)を漕いでいる奴らだ。


 敵に寝返った方がご褒美に奴隷の身分を解放してくれるかもしれないとあっては、おとなしくしているはずがない。

 船に乗った女の子たちに、汚い奴隷の男たちが群がって……地獄のような光景を想像してしまう。


「すでに市内各所で奴隷が暴動を起こして、市民軍は抑え込むのに手いっぱいの状況。やむをえません。ハルザ海の支配者、女海賊ヒルデガルドの船を借ります」

 市長の口ぶりにはヤバい気配が漂う。この世界に、頭目が女の海賊がいるとは知らなかった。


「いったい何者ですか?」

 海賊って、奴隷よりマシなんだろうか……


「ヒルデガルド一味はハルザ同盟公認の海賊です。ハルザ同盟の許可を得た船は襲いません。許可をもっていない船が勝手に交易をしようとすれば襲って、積荷を奪います」

 市長の説明で、俺にはピンとくる。


 俺が転生する前の世界には昔、私掠船(しりゃくせん)と呼ばれた海賊がいた。

 国王の許可を得て、いわば合法的に海賊をやっている。奪った物資の一部は国王に上納する。


 日本の戦国時代に瀬戸内海には海賊がたくさんいた。通行許可証を買った船は護衛をしてもらえるが、金を払わなければ全て奪われる。

 つまり、ショバ代を払えというヤクザな商売だ。


 400年ほど前のイギリスは特にやり口がひどくて、私掠船の上納金が国家予算の何割も占めていた。


 ハルザ同盟の独占的な交易を他所者(よそもの)に荒らされないため、ヒルデガルド一味とは持ちつ持たれつといった関係なんだろう。


「ヒルデガルド一味の船は帆船ばかり。奴隷を使っていないから反乱を起こされる心配はありません。ハルザ海の風と海流を知り尽くした奴らですから、無事にノルデン王国までたどり着いてくれるでしょう」


「船員は大丈夫なんですか。荒くれ男たちに襲われるんじゃ。まさか全員が女ってことはないですよね」

 海賊って、筋肉ムキムキで、刀傷やタトゥーがびっしりのヒャッハーな奴らだろ。

 若い女の子がたくさん乗り込んで来たら、かっこうの餌食にされちゃうんじゃないか。


「ヒルデガルド一味は鉄の規律を誇ります。ヒルデガルドの命令は絶対。女に手を出すなと命令してくれれば大丈夫でしょう」


「ほう。それなら良かった」

 俺は胸を撫で下ろす。ハルザ市の大事な女子を無事に避難させられそうだ。


「問題はヒルデガルドが素直に応じてくれるかどうか。何を考えているかわからない女ですから……ここはノルデン王にヒルデガルドの説得をお願いできないでしょうか」


「いい!? なんで俺に!?」


「我々ジジイはハルザ市に残ります。海賊にノルデン王国へ女子を連れて行っていただくのはノルデン王に託すことになります。あなたがヒルデガルドから信頼を得られるかどうかに全てがかかっていると言っていい」


「市長らは逃げないんですか……」

「逃げません。船に乗れる者には限りがある。未来ある若者に席を譲らねばなりません」

 

 市長の言葉に俺は感動する。

 前世のジジババに聞かせてやりたい。

 ジジババが若者を蹴落として生きながらえる、若肉老食(じゃくにくろうしょく)のゴミの国だった。


「ヒルデガルドに使いをやって、面会できるように手配いたします」

 市長には俺に有無を言わさない気迫がこもっている。

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