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8 黒ギャルと意気投合

 ◆◇◆


 その日の夕刻、迎賓館(げいひんかん)で歓迎の晩さん会が開催される。


 シャンデリアがたくさんある豪華な内装の大広間。

 俺とアイリはお誕生日席に座らされて、たいそうなおもてなしを受けることとなった。

 

 ロの字型のテーブルにはハルザ市の主要な商人や、他の同盟都市の大使というオッサン達と夫人が100人ほど着席している。


「ノルデン王国とハルザ同盟の友好を祝して、乾杯」

 フォーゲル市長が俺の前に立って音頭(おんど)を取る。


「乾杯」

 俺も杯を掲げる。

 中身はワイン。ちょっとだけ口を付けてから、テーブルに置く。


 ぱちぱちぱちぱちぱちぱち

 俺も拍手に加わる。


 会社の飲み会的なイベントは、前世にいた時から好きじゃない。


 アイリは笑顔を取り繕っている。

 お姫様として生まれ育ったから、社交の場には俺よりは慣れている。


 オッサンたちが俺たちに酒を注ぎに列をなしている。俺はいちいち挨拶するのがめんどくさいのだか、アイリは軽やかに捌いている。


「いやあ、美しいですなあ、王妃様は」

「そして若い」

 オッサンたちにアイリは絶賛されている。全部、お世辞ではなくて事実。


 ノルデン王国には男は俺一人だ。

 だが男がいれば、アイリを放っておかない。

 改めてアイリは俺にはもったいなさすぎる嫁だと思う。


「数多くの王侯貴族からの求婚を全て拒絶されていたそうですが、とうとう結婚なされて、おめでとうございます」

 とあるオッサンの一言に耳をそばだてる。


「うふふ。私は王様と結婚することにずっと決めてましたから」

 アイリは事もなげに応えている。


 そっか……

 アイリは俺より先にこの世界に転生していたもんな。


 幼い頃から可愛くて、縁談がたくさん持ち込まれたんだろう。

 

 政略結婚の話もきっとあったはずだ。ノルデン王国の友好国を作るために、アイリは外国に嫁がないといけない可能性があったに違いない。

 姫として本来は断れない立場だったのに、アイリは固く拒絶してくれていたんだ。

 

 俺と再び巡り合って、結婚するために。

 

 アイリが俺を愛してくれているのは当たり前のように感じているところがあった。でもやっぱり特別なことなんだよ。


 こうして旅に出ててみると、新しい発見があるものだ。俺はパーティーをそっちのけで感慨にふけってしまう。


「ささ、ノルデン王、一献」

「美しい王妃様がいらして、ノルデン王が実にうらやましい」

 俺は愛想笑いを浮かべて、オッサンたちから注がれるワインをほとんど無意識に飲んでいた。


 他の男がうらやむようないい女を妻にしているってのは、ものすごい優越感だな。

 アイリのおかげで俺は幸せ者だよ。


 ◆◇◆


 うう……気持ち悪い。


 晩さん会が始まって1時間ほど経つと、俺は酒に酔って、眩暈(めまい)がした。


 飲みニュケーションってやつで、あまり楽しくないことを仕方なくやってたが、酒を飲み過ぎてしまった。

 前世の俺は酒に強かった。この世界に新しい体で転生してからも酒の強さは引き継いでいたが、さすがに100人くらいの献杯はきつい。


 アイリは一口だけ飲んで、テーブルの下のバケツにワインを捨てていた。俺もそうするべきだった。


 まだ吐くほどじゃないけど、ちょっと気分転換しよう。


「ちょっと夜風に当たってくる」

 俺はアイリに断って、席を立った。


 会場にいたメイドさんに外気の吸えるところに案内してもらった。


 廊下の出入口から、中庭に出る。

 大きな噴水と花壇のある庭だ。

 噴水に月の光がきらめいている。


 誰もいないだろうと思ったら、噴水からちょっと離れたところに立つ純白のドレス姿が目に入る。

 ミイナが先に来ていた。ミイナは俺の足音に気づいて振り返った。


「王様!? どうしたの?」

「あ、いや、ちょっと休憩したくて」


 ミイナが俺の傍に寄って来た。


「王様もパーティーになじめなかった的な感じ?」

「まあ、そうだね。ミイナも苦手なのかい」


「うん……ファーストレディとして、ちゃんとしろなくちゃいけないのにさ。向いてないんだよねー」

 いつの間にかミイナは会場からいなくなってたらしいが、俺は全然気が付かなかった。


「いいよいいよ。気にしないで」

 職場の飲み会が楽しくないっていう仲間がいてくれた感じで、むしろ俺はうれしい。


「やっぱやさし」

 ミイナがほとんど聞き取れないような小さな声でささやく。


「お父さんから礼儀作法をしっかりしろって言われているんでしょ。大変だよね」

 俺も王様として堂々としていないといけないから、疲れる。


「ふん……あたいは肌の色がみんなと違うからさ、陰口を叩かれてるのが聞こえてきて」


「そうなん!?」

 びっくりして聞き返す。


「ハルザ商人は諸国に交易に行くけどさ。南国の女を妻として連れて帰ったのは父さんだけだよ。他の男はみんな、現地妻として置いているだけ。母さんを大事にしてくれた父さんは偉いって思うけど、やっぱつらい。叩かれるくらいなら、南の国にいたかったよ」

 しんみり話すミイナが可哀そうになる。


 ミイナは市長の娘なのに、悪く言われたりするのだ。

 どこの世界でも、人を外見で差別するゴミがいる。

 肌の色なんて特に、本人が選んで生まれてきたもんじゃないってのに。

 

 転生前の世界は、ほんのちょっと教室や職場で浮いているだけで俺はイジメられたからな。イジメられっ子どおしミイナには大変共感してしまう。


「俺はミイナを差別したりしない。ミイナはとても素敵だと思うよ」

 イジメへの憤りと酔っぱらっているのが相まって、俺は普段言わないような浮ついたことを口走ってしまう。


「まじ?」

 ミイナが、ぱあっとうれしそうな顔をする。


「うん。ミイナはとても美しい」

 俺は酔った勢いで普段女性に言わないようなことを口走ってしまう。

 

 天然の黒ギャルだからな。人工的に日に焼いたケバケバしさがない。気品が漂っていると言っていいくらいだ。


「――――っ!?」

 ミイナが俺を見つめて息を飲んでいる。


「ご、ごめん、女性の容姿をどうこう言うのはマナー違反だよね」

 いくら俺が黒ギャルが好きだからって、調子に乗りすぎた。慌てて謝る。


「ま、まぢでうれしすぎるだけどー」

 ミイナは満面の笑みを俺に向けてくれる。顔がめっちゃ赤い。

 

「ははは、ミイナが許してくれたら助かる。俺は正直、礼儀作法とか堅苦しいのは好きじゃないんだ」

 俺は悪ノリした気がしてならない。笑ってごまかす。


「落ち込んでいる時に言われると、効くよな。やばい」

 ミイナがうつむいてぽつり。


 ん……

 もしかしてフラグを立てちゃってない?


 俺は酔ってるから気のせいだよね。

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