3 妊活
◆◇◆
俺は王宮の執務室に立て籠もって、頭を抱えている。
女性たちの喧騒を鎮めるため、宰相キキィと対策会議。
といっても子種を授けるしか方法はなさそうなんだけど。
キキィは10才だが、宰相を引き続き任せることにした。
幼女ながら、国全体、いや諸国との外交関係まで考えられる視野の広さを持った人材は他にいない。
「ノルデン王国の女性は1万人。そのうち妊娠可能な年齢は7千人」
「とんでもない数だ……」
「さらに10代の少女1千人がこれから適齢期になって追加されていきます。10才未満の幼女1千人もいずれは」
キキィが顔を少し赤くしている。キキィ本人も10代で、いつか俺と子供を作りたいと言うのか。
「ううう……」
「よって、陛下には9千人を目標に子作りをしていただきます。なお女性1人につき、子供は3人以上でお願いしますねー それでようやくノルデン王国は元の人口の2万人を回復です」
この世界では平均寿命が短い。40才を超える女性は少ないという。だから国民の大半が妊娠可能だということはわかるっちゃわかるけど……
「待て。国が人口を増やそうと思っても、女性が産みたいとは限らない。出産しろって、無理強いはいけないんだぞ」
俺の前世では、女性に子供を産めって言うのはタブーだった。
「街で女性に聞き取り調査させたところでは、欲しい子供の数は平均5人でーす」
キキィが笑顔で即答。
「は?」
「ですから、みんな陛下のお子を5人は産みたいと。3人というのは、押さえ込んだ数字なんですよー」
キキィはこれでも少ないくらいだと言いたげ。
「子育ては大変なんだよ。知らんけど」
俺自身は前世を通じて育児をやったことがない。だが育児は死ぬほど大変だという話はよく聞く。
「大丈夫でーす。労働はゴーレムがやってくれるから、女性は育児に専念できまーす。夫がいないから、夫の世話も不要ですしねー」
キキィはニコニコし続けている。
俺の前世では、母親は仕事しながら育児をしないといけないのが無理ゲーだと言われていたな。夫はろくに家事をしないし、むしろ邪魔だから、いない方がマシ的な扱いを受けていたものだ。
俺はノルデン王国の女性たちに種を授けても、みんなの夫にはなれない。だって俺はアイリの夫だし、何千人もの女性の夫として接するなんて不可能。
女性たちは実質的に母子家庭となる。ワンオペ育児だ。
しかし……女性たちは仕事しなくていいからなんとかなるのか……
「陛下には一晩に10回は閨をともにしていただきまーす 一年間に3650回。それでも女性全員と一回は閨をともにするだけで2年以上かかります。すぐに妊娠するとは限りませんからねー 希望者全員が妊娠するのはいつのことやら、はあ」
なぜか、ため息するキキィ。
生々しい話だ。
「マジで、俺の子が2万以上産まれてくるってのか……」
前世で、史上最大の大帝国を作ったチンギスハンの子供は千人以上だったとか。
まあまあ信憑性のある記録が残っていて、最も子供が多かった王様がムーレイ・イスマーイルという人。そいつは千人くらい。どうでもいい世界史の豆知識が蘇ってきた。
俺は、そいつらをあっさり抜くのか……
「あのさー 男が俺だけって状況はおかしいでしょ。どっか別の国から男を呼んでくるべきなんじゃ」
俺としては至極まっとうな提案。
「え!? どんな男ですかー」
「王子様とかイケメンとか、運動神経がいい奴とか。女子はそんなのが好きなんだろ」
「全然好きじゃありませーん。陛下は女性の気持ちがわかってませんねー 女性は見た目よりも優しさとか、好感が持てる人柄が大事なんですよー」
「俺がそうだと?」
「はーい。陛下は外敵から女性を守ってくださった英雄。しかもかっこい。みんな、きゅーんってます。陛下以外の男はありえません。もし他の男の種を持ってくるなんてことをやったら、陛下の種と、他の男の種を宿した女性の間で格差問題が深刻化します」
「なんのこっちゃ……わけわからん」
俺以外だと親ガチャに外れたと言われるってことなのかよ。
「陛下が人気過ぎるってことです。他の男の種で産まれた子はダメな子って、イジメられます。あまりに不憫。母親や子供を不幸にしないためには、平等に陛下のお種を授けるしかありませーん」
一律平等ね。
俺の前世の国民が大好きだった言葉だ。
まさか異世界で聞こうとは思わなかったが、どこの世界でも子供は平等に扱うのが大事なんだな。
「またアイリに【催淫】と【精力回復】と【睡眠不足解消】の能力を使われる日々が再開するのかよ」
俺はうなだれる。
帝国軍との戦いが終わったというのに……また地獄になる。
ハーレム作って、女の子にいっぱい子供を産んでもらうって男の夢だと思ってた。
でも仕事としてこなさないといけなくなると、つらい。
◆◇◆
映えある妊活一番手としてみんなが納得したのは、20才の美貌の未亡人、歩兵隊サーシャ副長。ブロンドの長髪、推定Hカップでスタイル抜群。
亡き夫の仇を取るためと命懸けの戦いで敵騎士団長を討ち取る武勲を挙げた。
臨死体験で、亡き夫から、「王様から子供を授かって、幸せに暮らして」と言われたらしい。
そんな話を聞かされたら、みんな、サーシャが最初でいいとなる。
俺は拒否できない。
サーシャを独り身にしておくと、また死に急いで特攻してしまう。子供を授かって、母として長生きしてもらいたい。
サーシャと二度目の閨をともにする。
今夜は避妊の薬草を飲んでいない。
終わった後で、サーシャとベッドで横向きに寝そべって見つめ合った。
サーシャは涙ぐんでいる。
「私の奥でこんなにたくさん……ありがとうございます、陛下。亡き夫の願いを叶えてくれて」
「いやいや、妊娠したかわかんないでしょ」
「してる気がします。ぐすっ」
感涙にむせばれてしまった。
俺は複雑な気分。妻のアイリを差し置いて、他の女性が先に俺の子を……しかも元人妻。
「陛下は悩んでらっしゃるそうですね。陛下は、夫から私を寝とった悪い男だって」
サーシャは俺の気持ちをわかってくれている。
「う、うん。そうだよ。俺って最悪だよ……」
自己嫌悪でいっぱい。
「なりたくないのに悪い男になって下さって、本当にありがとうございました」
サーシャさんから大粒の涙が溢れ落ちる。
悪人になってすごく感謝されるなんて。
「夫を亡くした女はいっぱいいます。陛下は優しいからこそ、悪い男になってあげて下さいね」
俺が悪い男になるのが、女性に対する優しさだなんて……みんな、寂しくてつらいんだよな。
みんなが元気になれるって言うなら、俺は開き直って悪い男にならないといけないのかな。
「私、子供が産まれたら、歩兵隊を退役させていただきますね。歩兵隊は私の青春。苦楽をともにしたみんなと別れるのは寂しいですが……ぐすっ 陛下の子供を育てて、幸せに暮らします」
サーシャが泣きながら話す。
「戦いを捨ててくれたら本当にうれしいよ」
俺は二度とサーシャが死ぬ場面を見たくない。
サーシャの人生の選択に俺も涙が滲んでくる。




