43 愛妻の危機
◆◇◆
海戦は2時間ほどで終了。
帝国艦隊200隻は199隻が撃沈された。
1隻だけ逃がしてやる。ノルデン王国とハルザ同盟連合艦隊の強さを帝国に報告させるためだ。
ノルデン艦隊は15隻が沈没したものの、乗っていた歩兵隊員は全員救出された。
ハルザ同盟艦隊は5隻沈没。
ノルデン湾は砕け散った船の木材やら、転落した船員やらがたくさん浮いている。船員の多くはすでに息絶えていた。
海流が湾内の浮遊物を沖合に流し去ってくれる。美しいノルデン湾はすぐに元通りになるのだ。
「海に落ちたハルザ同盟の船員を助けろ。亡くなっている者は丁重に葬らねばならん。遺体も捜索せよ」
レオーナが船の上から大声で指示する。
「隊長、帝国の船員はどうしますか。まだ生きている奴もいるようですが」
「ほっとけ」
レオーナは冷たい。
侵略者を助けてやるほどノルデン王国の女は優しくない。攻めてきたらどうなるかを思い知らせるためにも容赦しない。
◆◇◆
夕方、ノルデン湾海戦が大勝利に終わり、ハルザ同盟艦隊の遭難者の救出も終了した。
レオーナら歩兵隊員が操る船が港に引き返してくる。
俺はキキィと高台を降りて、港に歩いていく。
港にはアイリら神官隊の女の子が立ち並んで、帰還する歩兵隊員を待っている。
みんな笑顔で、船の上の歩兵隊員と手を振り合う。
アイリが、俺とキキィに気が付いた。
「キキィちゃーんっ」
アイリが走って来る。
「た、ただいまー」
キキィとアイリが抱き合う。感動の再会。
「ありがとっ キキィちゃんのおかげで勝てたんだよっ」
「みんなが力を合わせたからですよー 私も力になれてうれしいです」
ツンロリちゃんにしては素直に気持ちを表している。まさに、みんなの勝利だからな。誰か一人欠けても勝利はなかった。俺たちは一体感に包まれている。
「キキィちゃんは死ぬほど疲れたでしょ。私はレオーナさんたちを迎えたいんだ。キキィちゃんは先に王宮に帰って休んでねっ」
アイリが身を離して、王宮の方を左手で示す。
「そうさせていただきますねー 結構疲れました、はぁ」
キキィは魂が抜けたように、本当にぐったりした感じ。
1ヶ月間以上、気を張りっぱなしで、しかも船に乗って戻って来たのだ。【全世界瞬間移動】を使えば一瞬で帰れるのに。
キキィは、ハルザ同盟艦隊が途中で気が変わって引き返さないように見張っていたのだ。船酔いがひどかったりして、さぞや大変だったろう。
俺も港に残って、船に乗ってくれた歩兵隊員をねぎらうことにする。
神官の一人にキキィに付き添って帰ってもらうことにした。
俺はアイリと並んで、海の方を見つめる。
日没で赤く染まった海が美しい。
レオーナの乗る船はまだ彼方にある。
「あ、あの、陛下」
アイリがモジモジした声を掛けてくる。
「なんだいアイリ」
「キ、キスさせていただけませんか。大勝利の日に思い出のキスをしたいんですっ」
「ああ、いいよ」
俺はアイリに向き合う。
アイリとキスできるなんて、俺の方こそお願いしたい。
だが突然、アイリの背後の景色が歪む。
「なっ――――」
アイリの真後ろに人影が現れた。アイリの首筋にナイフを突き出す。
「ひっ」
アイリが小さく悲鳴を漏らした。
「ククク、美の女神に愛された男の降臨だ」
黒ずくめの男バッカス・ギルナー。リープの魔法で瞬間移動してきて、アイリを人質に取った。
バッカスは左手をアイリの胸に回して、逃げ出さないように抑え込む。右手のナイフはアイリの首を切りそうなほど近づけられている。
「や、やめてよっ バッカス君、私のおっぱいに触ってるじゃないっ エッチ!」
アイリが引き攣った表情で嫌がっているが、ナイフが当たりそうで身じろぎできない。
「お前を見つけて飛んできてやったんだ。オレ様は王都のだいたいの場所にリープできるからなァ」
バッカスの左右の空間が歪む。
黒いローブをまとった男が2人現れた。バッカスに付き添ってリープで飛んで来た密偵だ。
男2人は背中に剣を帯びていた。剣を抜いて、俺に向けて構える。
「こいつらは魔法剣士だ。オレ様ほどじゃないが、剣の腕はなかなかのものだぞ」
バッカスがご丁寧に教えてくれてる。
全然大したことないようにしか聞こえないんだが。
「いやっ 離してよっ」
アイリは叫ぶが、バッカスが力を緩めはしない。
俺はバッカスと向き合う。
「さあ、これでこの前のふざけた雷魔法は使えないぞ」
バッカスが俺に言い聞かせる。
この前、バッカスが密偵の魔法使いと王都でテロ活動をした。俺が【神雷】を使って、一発でバッカスらを黒コゲにしてやった。
バッカスは俺の【神雷】を警戒して、アイリを人質に取ることにしたんだ。【神雷】を使えばアイリが巻き添えで死んでしまう。
「悪知恵ばかり働くゴミだな。んで、アイリを離してもらうには、何を見返りに差し出す必要がある?」
俺はさっさと人質解放交渉に取り掛かる。バッカスと関わるのは時間の無駄。
「アイリ?……名前を変えたのか」
バッカスは怪訝にする。バッカスはアイリが元の名前を捨てたことを知らないんだった。
「そうよっ 私はアイリ。陛下にアイリって呼んで欲しいから変えたの」
アイリが言い返す。
「ふん、イチャラブをみせつけやがってムカつく。まあすぐに俺がヒィヒィよがらせてやる。解放の条件は無論、王国全体の降伏だ」
バッカスはニタニタしながら話す。
多分、バッカスはちょっと前からリープして来て、アイリを探していたんだろう。帝国艦隊が雪崩れ込んできた時に、アイリを手籠にされないようバッカスが先にアイリを確保するつもりだった。
だが、予想外の帝国艦隊の大敗を目にして、方針を変えないといけなくなった。
アイリを人質に取って、俺に降伏を迫る。降伏させられればバッカスの大手柄だから、全てを賭けている。
次回で一区切りの第1巻完結です。
最後までお読みいただけるとありがたく存じます。




