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42 王国の興廃、この一戦にあり

 ◆◇◆


 ノルデン湾を一望できる高台。

 俺は白色の王様服に赤いマント、ロングソードを腰に下げて立っている。


 俺が全ての船の配置を見て指揮。傍の歩兵隊員が俺の指示で大きな旗を掲げる。旗の色で、船に乗っている子が動く。


 港にいるゾフィーは約2500体のゴーレムを作り出した。さすがにヘトヘトで休んでいる。

 50隻全てを稼働させられるまで、ゾフィーが頑張ってくれて感謝の気持ちでいっぱいだ。


 歩兵隊長レオーナは自らガレー船の舵を握っている。

 ルナが港で、船に硬化魔法を施して出撃させる。


 アイリら神官隊は負傷者の救護のため、海岸沿いで待機。


 ノルデン湾海戦はまさに王国の興廃、この一戦にあり、と命運が賭けられている。


 一方、先に陸戦が行われたノルデン隘路では残りの歩兵隊員約200人と魔法使い隊員約40人が駐屯している。

 帝国艦隊の襲来と同時に陸路でも再び攻めてくることを警戒している。

 

 駐屯する魔法使い隊にはメリッサもいる。メリッサの【全員魅了】があれば、敵の大軍を大混乱に陥れられる。少ない戦力でも守り切れると俺は読んでいる。

 今のところ攻め寄せて来る気配はないが、戦力をノルデン湾海戦に引き抜くわけにもいかない。


 限られた戦力で海戦に勝たないといけないのだ。


 ゴーレム艦隊の威力は予想以上。

 圧倒的な帝国艦隊を相手に善戦してくれている。


 だが、やはり数で負けている。


 じりじりと押され始め、味方の損害が増える。

 マズイなと焦りを感じていた。


 突然、帝国艦隊の背後に新手の艦隊が現れる。


「ハルザ同盟の旗です!」

 目のいい歩兵隊員が教えてくれる。


「よっしゃあああ」

 俺はガッツポーズ。

 キキィがハルザ同盟との同盟を成し遂げて、援軍を連れて来てくれたのだ。


 歩兵隊員たちが抱き合って喜ぶ。

 帝国艦隊をノルデン艦隊とハルザ艦隊が挟み撃ちして必勝の陣形である。


 俺の目の前の空気が揺らぐ。

 人の姿が現れる。

 キキィだ。【全世界瞬間移動】を使って来た。


「ただいまー」

 ツインテール少女の可愛らしい顔が手の届く先に――


「よくやってくれた、キキィ」

 俺は感動に打ち震える。


 10歳の子が難しい外交交渉をやったなんて信じられない。


「陛下ぁー」

 キキィが俺に飛び込んでくる。


「おかえり」

「うえええええん こわかったよー」


 キキィが俺の胸に顔を押し付けて泣く。

 張りつめていた緊張の糸が切れたのだ。


 味方になってくれるかわからないハルザ同盟に乗り込んでいった。いや、ほとんど敵の中にいたと言ってもいい。キキィは捕縛され、処刑されても文句が言えない立場だった。

 大人の男でも怖くてたまらない状況に、キキィは一人でいたのだ。ガクガクブルブルだったろう。


「よしよし。ありがとうありがとう」

 俺は優しくキキィの背中を撫でた。


「ひっくひっく」

 キキィは泣き続ける。1か月間くらい怖いのを我慢していたのだ。溜まりに溜まった感情が溢れ出して当然。


 いざとなればキキィは【全世界瞬間移動】で逃げられるとはいえ、途中で帰って来なかった。

 キキィは一度でも帰ってしまえば、また行く気力が失われると思っていたのかもしれない。キキィは怖くても、つらくてもハルザに踏みとどまった。


「キキィのおかげで勝てるぞ。見てよ」

 俺は湾内に視線を移す。

 キキィも俺の胸から顔を離して振り返った。


 湾内ではノルデン艦隊とハルザ艦隊が帝国艦隊を包囲。

 帝国艦隊は動ける場所がなくなって、ほとんど動きを止めている。


 ノルデン船もハルザ船も次々と帝国船に突撃。横腹に大穴を開けて、沈没させていく。

 回避しようと動いた帝国船どおしで衝突して、勝手に沈んでいく。

 

 一方的な展開で、ノルデン艦隊とハルザ艦隊は全然被害が出なくなった。


「ぐすっ やったね。陛下を信じて、頑張って良かったよー」

 キキィが鼻を啜りながらしみじみする。


「ええと、ハルザ同盟はどういう条件で援軍に来てくれたんだい?」

 俺は恐る恐るキキィに確認する。


 国家予算の10年分の金を払うとかじゃないだろうな。あまりに大金を払わないといけないと、勝っても素直に喜べない。

 まあ滅亡の瀬戸際にいるから、足元見られてもしょうがないんだけどさ。

 

「ハルザ同盟に敵が攻めてきたらノルデン王国が助ける。以上。同盟を結ぶんだから、当たり前のことですよねー」

 キキィがあっさりと答えてくれる。


「え、それだけ? 本当に!?」

 俺は信じられない。

 もっと色々要求されるもんじゃないだろうか。


「はーい。ノルデン王国が帝国に攻め滅ぼされたら、北方の海上交通が帝国に脅かされます。ハルザ同盟が自由に商売できなくなりますからねー ハルザ同盟としてもノルデン王国には生き残ってほしいんですよー」

「な、なるほど」


「ノルデン王国にいる男は陛下だけですが、陛下は【能力授与】という特別なギフトを持っています。私自身が【全世界瞬間移動】のとてもレアな能力を授与されたことを示して、陛下がノルデンの女性に能力を無限に授けていけば必ず勝てると力説しましたよー」

 キキィの語り口は、ハルザ同盟の幹部を説得した時のように力がこもっている。


 「女性に能力を無限に授ける」がちょっと引っかかった。確かに能力は無限に授けられるのかもしれないが、女性と無限に閨をともにしないといけないってことだから。

 俺が女性と閨をともにするのは国家存亡の危機にある時だけで願いたい。平和が訪れたら、アイリと仲睦まじく暮らしたいのだよ。


「こほん。てことは、ハルザ同盟はキキィの訪問を待ってましたって感じだったのかい」

 俺は無限ハーレムから話題を変える。


「いいえ。最初は、お前何者だ、何しに来たって感じでした。はぁ」

 キキィはため息。やはり思い出すのがつらい苦労があったのだ。


「だよね……」

 10才児が現れたら、当然の反応だろう。


「警察に拘束されて、取り調べからスタートしました。刑事さん、警察署長、市役所の内務部長、外務卿と一歩一歩、上の役職の人を説得してようやくハルザ市長との交渉にこぎつけました」


「時間がかかったわけだ」

 俺の前世には可愛い子には旅をさせろということわざがあった。だが、キキィは旅どころじゃなくクエストだよね。モンスターのように立ち塞がるオッサンを舌戦で言い負かして行ったんだ。


「ハルザ同盟がノルデン王国を助けてくれたら、見返りに国家予算10年分の金を払うとかいう条件を私は言いませんでしたからねー」

 キキィが言っているのは、さっき俺が考えていた条件だ。

 俺が交渉をやっていたら、そういう売国的な条件にしていただろう。


「よくもまあ金で吊らずに済んだよね」


「交渉は強気が肝心でーす。こっちが卑屈な条件を出したら、そんなにノルデン王国はヤバいのか、同盟は止めておくかってなるじゃないですかー」

「あ」

 俺はキキィの説明に驚いた。


 キキィの言うとおりである。こっちが弱気ですがりつくようにすると、かえってハルザ同盟は不安にかられてしまう。大金を積めば積むほど、同盟してもらえなくなってしまうのだ。

 むしろ強気で押して行った方が、ハルザ同盟としては安心できるというものだ。キキィは相手の心理を見抜いていた。


 頭では理解していても、実際に交渉の場で堂々と振る舞えるかは別問題。キキィはオッサン達を相手にやってのけたわけだ。


 キキィは本当に聡明。大人でもキキィほど駆け引きに長けた者は多くはいないんじゃないかと思う。


「大した子だよ。いい子いい子」

 俺は右手でキキィの頭を撫でた。

 キキィに子供扱いしないでと怒られそうだけど、撫でたくなったのだ。


「ぐすっ……私、やったよー お父さん」

 またキキィが鼻を啜る。


 キキィはお父さんに頭を撫でてもらった時を思い出している。俺はキキィに怒られずにすんだ。


 帝国の侵略を阻止するためにはノルデン隘路での陸戦に勝つことに加えて、ノルデン湾海戦に勝つことが必要。

 キキィが最後のピースを埋めてくれた。


「見て、キキィ。君のおかげで帝国艦隊は全滅だよ。ふふふふふ」


 俺とキキィは高台から圧勝の様子を笑顔で見下ろした。

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