41 無能なジジイは死になさい
帝国艦隊は横10隻、縦20列。
ノルデン艦隊は数で劣るが、横に同数を並べて対抗する構えだ。
バブルスが乗る旗艦は帝国艦隊の中央に位置する。帝国艦隊の最前列はまもなくノルデン艦隊と激突する。
「我が艦隊と遜色ない速度ですな。女が漕いでいるとは思えませんが」
副官も驚いている。
「数では、我が艦隊が圧倒的だ。このまま進め」
バブルスが前を指差す。
200隻 VS 50隻。帝国艦隊の優位は明らか。
ノルデン艦隊は距離1000メルトルで二手に分かれる。左右に旋回しながら接近。
「敵艦の速度が増しています」
見張りが叫ぶ。
「我らの最大戦速以上だ。信じられん」
副官がうめく。
ノルデン艦隊は帝国艦隊の横腹目掛けて突っ込んで行く。
艦首を横腹に衝突させて、穴をあけるつもりだ。
「ええい、全艦、回避だ。回避しろ」
バブルスが怒鳴る。
「ダメです。食らい付いてきます」
見張りが絶望的に答える。
ノルデン艦隊は絶妙に方向と速度を調節する。奴隷が漕いでいては櫂がぶつかるものだが、一糸の乱れもない。
「魔法を撃て。早くしろ」
バブルスは焦りまくり。
帝国艦隊の甲板には黒のローブ姿の魔法使いも載っている
「「爆裂」」
魔法使いたちが爆発系魔法をノルデン艦隊目掛けて放つ。
船を破壊して、衝突しないようにしようというのだが……
ぼおおおおおん
轟音がして、ノルデンの船が煙に包まれる。
「やったか」
魔法使いたちは固唾を飲んで見守る。
だが煙の中から船が出てくる。
速度が変わらない。
「なっ 無傷だと!?」
「まさか硬化魔法か」
ノルデンの船体は魔法によって鉄のように硬くされている。
「ぶつかるぞ」
「ひいいいいいい」
ノルデンの船首が帝国船の横腹に突っ込む。
どおおおおおおおおおおおっ
衝撃で船が激しく揺れる。
ガレー船の船首には衝角という鉄の角が取り付けられている。角が帝国船の側面の木材を突き破った。
突撃に成功したノルデン船はすぐにバックして衝角を引き抜いた。
帝国船には大穴が空いて、大量の水が入り込む。
「沈没するぞ」
「逃げろ」
帝国船内はパニック状態。水兵たちは次々と海に飛び込む。
極寒の海では、数分で絶命する。
鎖で繋がれて櫂を漕いでいた奴隷は溺れ死ぬ。
女を犯そうとしていた獣たちの無惨な最後であった。
「ぬうう」
バブルスは歯軋りする。
ノルデン艦隊の巧みな操船によって、帝国艦隊の最前列は壊滅。
第二列にも次々とノルデン船が突撃してくる。
帝国艦隊はノルデン船をまだ一隻も沈められていない。
「ノルデン船の動きは普通ではありません。なんらかの魔法を使っているのかと。容易い相手ではないのかもしれません」
副官がおずおず話す。
「くそう。多少の犠牲はやむをえん。ノルデン船がぶつかってきた時に、他の船が横腹を狙え」
バブルスが叫ぶ。
ノルデン船が帝国船の横腹に衝突した時、動きが止まる。
別の帝国船が逆にノルデン船の横腹に衝突しようという作戦だ。
味方の船を犠牲にしてでも勝つ。数で物を言わせる無能艦隊ならではの戦法である。
両艦隊入り混じっての海戦が繰り広げられることになった。
ノルデン艦隊はスピードで上回る。帝国艦隊の横腹に回り込み衝突し、次々と沈めていった。だが帝国船も時には、ノルデン船が止まった瞬間を捉えた。
横腹に大穴を開けられたノルデン船も沈んでいく。
沈みゆくノルデン船から逃げれ出すのは、女が一人だけ。
ビキニアーマーを来た女は颯爽と海に飛び込む。
「うひゃー いい女だ。捕まえろ」
帝国船から網が投げられる。
だが女は網をかわす。海を冷たがる様子もなく、仲間の船の方へ泳いで行く。
戦闘開始から1時間経過。
ノルデン艦隊は10隻沈没。残り40隻。
帝国艦隊は30隻沈没。残り170隻。
被害は帝国艦隊の方が大きい。しかしこのペースでいけば、ノルデン艦隊が全滅した時に帝国艦隊は50隻は残っている。
帝国の勝利は揺るがない。
バブルスは落ちつきを取り戻しつつあった。
「全くヒヤヒヤさせおって」
バブルスを顔を流れた汗を袖で拭う。
「多少苦戦した方が、手柄が大きくなるというものでしょう」
副官は揉み手でニコニコ。
「ふははは、抗う女を屈服させるのは、最高に愉快だ」
バブルスは再びワイングラスに手を伸ばした。
「たっ 大変です 後方に軍艦が見えます」
見張りが叫ぶ。
「なにい!?」
バブルスも副官も振り返る。
帝国艦隊の後方、ノルデン湾の入り口に、ずらっと船が並んでいる。
100隻ほど。こっちに向かって来る。
「まさかノルデン艦隊の別動隊が挟み撃ちしようというのか」
「旗はハルザ同盟のものです」
見張りが報告。
「なんだハルザか」
バブルスは胸を撫で下ろす。
「我が国への機嫌取りに援軍をよこしたのでしょう。来てもらわなくても良かったのですがね」
副官も気を取り直す。
バブルスたちハルザ同盟がノルデン王国の援軍に来たとは露とも思わない。なにしろノルデン王国に男がいない。絶対に負ける国を助けるはずはないのだ。無能は自分たちに都合のいい事実しか受け入れない。
ハルザ艦隊の船足は速い。突撃する時の速度だ。
「我らをすり抜けて、代わりにノルデンと戦おうというのか?」
バブルスは怪訝にする。
「せっかく来たのですから手ぶらでは帰れないでしょうね」
副官はハルザ艦隊をニコニコして見つめる。
ハルザ艦隊は帝国艦隊に追いつき、横側に回り込む。
衝突コースに入っている。
「ん、どういうことだ」
バブルスが目を剥く。
ハルザ艦隊が次々と帝国艦隊に激突する。
轟音を立てて、帝国船が揺らぐ。
「なぜハルザが攻撃する? 我らをノルデン艦隊と見間違えているのか?」
副官が喚く。
ハルザ同盟の旗艦らしき最も巨大な船が向かってくる。
艦首に、一人の少女が立っている。金髪ツインテールで、ピンクのドレス姿が目立つ。
少女は深呼吸して、声を張り上げる。
「私はノルデン王国宰相キキィ。ハルザ同盟とノルデン王国は同盟を締結しましたー ともに帝国艦隊を滅ぼすために戦いまーす」
「ば、馬鹿な、ありえん」
バブルスが狼狽するうちに、キキィの船がぐんぐん接近する。
ワイングラスが手から落ちた。ガラスが甲板で砕け散る。
「かっ かわせー」
副官の叫びも虚しく、衝角が船腹に衝突する。
「無能なジジイどもは死になさーい」
キキィが笑顔で言い放つ。
衝突の直前、キキィの姿は瞬間移動したように消えた。
どおおおおおおおおおん
激しく船体が揺れる。
致命的な大穴を開けられたのは見なくてもわかる。
「うおおお、死にたくない」
バブルスと副官は救命艇に走る。
「こんな冷たい海に落ちたらすぐ死ぬぞ」
水兵たちも救命艇に殺到。
「どけいっどかんか」
血相を変えて人混みをかき分けるバブルス。
「司令官は艦と運命をともにするものだろ」
水兵たちと揉みくちゃになる。
船体が急に傾く。
バブルスも副官も海に転落。
海の冷たさに心臓麻痺を起こし、ほぼ即死した。
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