40 いよいよ艦隊決戦
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春になり、北の海から流氷が消えた。
晴天の下、ノルデン湾での海戦に備えて訓練を行う。
港では灰色のローブ姿のゾフィーが地面に両手を向けている。
「創造ゴーレム! 創造ゴーレム! 創造ゴーレム!」
地面が盛り上がって、人間の男の大きさのゴーレムが次々と生み出されていく。
「他律ゴーレム!」
さらにゾフィーはゴーレムを操る権限を、歩兵隊の女の子たちに移譲していく。
「行くぞ」
レオーナが50体のゴーレムを率いて、ガレー船の方へ連れていく。
ゴーレムが桟橋をのしのしと歩いて、ガレー船の中に乗り込んでいく。全員が船内の長椅子に着席して、櫂を握る。ゴーレムたちが櫂を漕いで、船を進ませる準備完了。
レオーナは船の甲板に跳び上がる。レオーナは船の後尾の小屋に入って舵を握る。他の歩兵隊の子が、船を繋いでいたロープを岸から外す。
「漕げ。出航だ」
レオーナの指示でゴーレムが一斉に櫂を漕ぐ。全てのゴーレムが完璧に同じ動作をする。人間が漕ぐと動作に多少の乱れが生じるものだが、ゴーレムは機械のように正確さだ。極めて効率的に、船を動かすことができる。
レオーナの船が沖に向かってゆっくり進み始める。レオーナは船に乗ったことがほとんどない。まして舵を握ることなど初めて。だが、最前線で戦うのは歩兵隊の使命。隊長自ら率先して範を示す。
舵を実際に動かしてみて、どう動くのか確認する。
船はよたよたと左右に揺れながら進んだ。
レオーナの船に続いて、他の歩兵隊員が操作する船も続々と出航していく。歩兵隊300人から泳ぎが得意な者50人が選抜されている。船が沈没したら、泳いで逃げる。
海はまだ氷水のように冷たい。普通の人間なら数分で死ぬが、ビキニアーマーで寒さに鍛えている歩兵隊員なら耐えられるという。
俺は桟橋の先端に立って、女の子たちの頑張る姿を見守る。
ゾフィーは疲れ知らずで、ゴーレムを作り続ける。ゴーレムの寿命は1日しかない。今日の訓練が終わった後は、ゴーレムは陸に上がる。また土に戻ってしまって、こんもりと巨大な土の山ができることになる。ゾフィーは明日また、土山からゴーレムを作って訓練だ。
神聖ロマン帝国の艦隊200隻はおそらくもう出航して、ノルデン王国に向かっているはずである。一刻も早く訓練を終えて、戦える体制を作らないといけない。
やがてノルデン湾内で、全50隻のガレー船が勢ぞろい。
まずは全ての船が1列になって、同じ方向に続いて動けるように練習。湾内をぐるぐると周遊した。
歩兵隊員は選りすぐりの戦闘センスのある子たちばかりだから、舵の操作をすぐに覚えてしまった。
次は、ゴーレムに全力で漕がせる訓練。横一列になった船が、最大船速で前に進んでいく様は壮観である。ゴーレムは人間と違って疲れを知らない。最大船速をずっと続けられる。速度に緩急をつけて、船の動きを予想しにくくするという芸当も可能。
「これは行けるかもしれない」
俺は目を細めて見ていた。
陸戦に続いて、海戦でも勝つ。
勝つための材料は揃いつつある。
ノルデン湾に侵入してくる帝国艦隊200隻をノルデン艦隊50隻が迎え撃つ。数では圧倒的に負けているが、操船能力では勝る。互角とまでは行かないが、かなりいい戦いを繰り広げてくれると思う。
「あとはキキィだ。ハルザ同盟の艦隊を呼んで来て、背後を突いてくれたら勝てるんだが……やってくれると信じているぞ、キキィ」
使者として赴いている10才の少女に国の命運がかかっている。
◆◇◆
帝国海軍北方艦隊のガレー船200隻は阻む物のない海を悠然と進む。
艦隊司令官の55才のバブルスは、はげ頭の太った男である。帝国海軍の黒い軍服をまとい、甲板に鎮座してワインを傾けている。
バブルスの頭は、照りつける太陽を反射する。
神聖ロマン帝国にはかつてバブル景気という浮かれた時代があった。就職が楽勝すぎて、軍人になる奴はゴミと言われた。バブルスは五流の学校卒だが、バブル景気の恩恵で士官として軍人になることができた。極めて無能ゆえにこそ、無能な上官へのゴマスリに長けて、出世を果たす。後の世代の部下からはゴミのように嫌われているが、本人は気にしていない。
男が死滅したノルデン王国にはガレー船の漕ぎ手がいない。無能なバブルスが司令官でも余裕の戦いになるはずだ。
「まさに無敵艦隊だな、ふはははっ」
バブルスはワインを飲み干して、手の甲で口を拭う。酔って、顔を蛸のように赤くしている。
帝国内ではバブルス率いる艦隊は、無能艦隊と蔑まれている。頭を使わず、隊員に24時間働かせます的なブラック労働をさせて、ひたすら力押しをするだけだから。
だがバブルスは勝てばいいと開き直っている。
隣に座るバーコード頭の副官がワインを注ぐ。副官はバブル世代の一年後輩である。
「まったく、つまらないことですなぁ。ノルデン隘路には敵の歩兵隊が多少はいるそうですが」
「聖巨神騎士団が壊滅させられたそうじゃないか。我が艦隊の強さを見せつけるために海戦もやって欲しいところなんだがな」
「女にガレー船は漕げませんからねぇ。重い櫂を動かせるのは奴隷の男だけ」
副官は嫌味ったらしくため息をする。
「今日は我が奴隷たちの気合いが入っているようだな。鞭の音があまり聞こえてこないぞ」
「奴隷たちがおこぼれに与ろうと必死ですよ。いつもはお情けでデブスを与えられるだけですがねぇ。ノルデンは美女しかいない国。二度とこんないい女を与えられるチャンスはありませんよ」
「とびきりの美女はまずワシに回せよ。汚い奴隷たちに犯された女は嫌だからな」
「重々心得ております。それに奴隷たちに与えられるのは兵士がたっぷりと凌辱してからです」
「ぶははははははっ」
「ひひひひひ」
高笑いするバブルスと副官。
艦隊が旋回し、ノルデン湾に入っていく。
「前方に敵の艦影!」
見張りの男が叫ぶ。
「ほう」
バブルスはグラスをテーブルに置く。
「敵艦隊は約50」
「ノルデンの全艦ではないか。誰が漕いでいるんだ。まさか女か?」
バブルスは立ち上がって、前方を見渡す。
ノルデン艦隊は2000メルトル先。横10隻、縦5列の整然とした隊形で向かって来る。
櫂は力強く漕がれて、速い。




