39 教え子の成長
「副長――――」
歩兵隊員が絶叫する。
親衛隊は全て倒した。
歩兵隊の勝利だ。だが、あまりにも大きな犠牲だ。
「サーシャ」
レオーナが駆け寄ってサーシャを抱く。
サーシャは安らかな死に顔を浮かべていた。
ギガンツを失って、残りの騎士団は逃げて行く。
敵がいなくなった街道で、歩兵隊員が膝をつき、涙を流した。
◆◇◆
ノルデン隘路の戦いは終わった。
聖巨神騎士団を粉砕したことで、敵全体が恐れをなして逃げた。
400人に満たないノルデン王国軍が10万以上の帝国軍を撃退したのだ。
俺たちの勝利と言っていいはずだ。
だがサーシャを失ったのが悲し過ぎる。
サーシャ自身が死ぬつもりだったと言っても、俺は死なせたくなかった。
俺は崖の下に降りる。
レオーナに抱かれたサーシャの傍で立ち尽くした。
体を重ねた女性が、命を燃やしてしまった。
俺のせいだ。俺がサーシャに【一撃必殺】の能力を授与したから。サーシャは捨て身の攻撃をしたんだ。
「どうお詫びすればいいんだ。ううう……」
俺は地面に両手両足をつく。罪悪感で胸が張り裂ける。
「陛下のせいではありませんよ。サーシャは敵を倒すという願いを叶えられたのです」
レオーナが慰めてくれる。
「俺は、俺が嫌だ」
地面に拳を打ち下ろす、
【能力授与】なんてやっぱりハズレスキルだ。女性を死に急がせる最悪のスキル。
「私に任せて下さいっ」
背後でアイリの声。
「どういうこと?」
振り返ると、アイリが緊張した面持ちで立っている。
「代わって下さいっ」
アイリがレオーナにどいてもらって、サーシャを抱く。
「サーシャはもう……」
レオーナが首を振る。
「やれる。私は、やればできるっ」
アイリが自分に言い聞かせている。
「一体何を?」
怪訝にする俺たちにアイリは構わない。
「【復活】」
アイリが唱えた。
天から光の柱が降りてくる。アイリとサーシャが光に包まれる。
「【復活】は、大神官と大賢者しか使えない能力のはず」
レオーナが驚いている。
「まさかサーシャが生き返るの?」
俺は立ち上がって、レオーナに聞く。
「成功率はよくて50%。上手くいくとは限りません」
レオーナが表情を硬くする。
アイリはいつの間に【復活】の能力を獲得したんだ。アイリと閨をともにして獲得した覚えはない。
俺は固唾を呑んでアイリを見守った。
光がますます強くなり、アイリとサーシャの姿が見えなくなった。だが次の瞬間、全ての光がサーシャの体に吸収されていって消えた。
サーシャの腹の傷が治っている。
「ど、どうなった」
俺は結果が怖い。
ぴく
アイリに抱かれたサーシャの体が動く。
「成功なのか」
俺はよろよろとサーシャに歩み寄る。
「んん……」
サーシャが目を開ける。
「やった。できた、私。できたんだっ」
アイリが大粒の涙を落とす。
「あれ、死んだはずじゃ」
サーシャが身を起こす。
「よっしゃあああああ」
俺はガッツポーズ。
ぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱち
歩兵隊員が嵐のように盛大な拍手をサーシャとアイリに送る。
サーシャは敵の大将を討ち取った。アイリは本当に大神官のような【復活】を獲得したのだ。
二人を称えずにはいられない。
サーシャとアイリが照れた顔で立ち上がる。
「サーシャ、ケガは大丈夫か」
レオーナがサーシャに声を掛ける。
「大丈夫。どこも痛くない」
サーシャが腹を撫でながら答える。
「良かった。見事な【復活】ですね。これは奇跡としか言いようがない……」
レオーナは感嘆する。
サーシャが俺の方を向く。
「私……気を失っている間に夫に会いました。夫に、君はまだ若いからこっちに来ちゃいけないって言われましたよ」
臨死体験を話してくれる。サーシャはまだ20才だ。
「うんうん、早まっちゃいけないよ」
俺は嬉しい。もう二度とサーシャには死を賭した戦いをして欲しくない。
「陛下」
サーシャが俺をじっと見る。
「え?」
俺は美しい未亡人に見つめられて緊張する。
「夫が言ってました。陛下の妻の一人にしてもらいなさいって。子供を授かって幸せになってって……」
サーシャは目に涙を浮かべる。
「いいいい」
俺は後ずさる。
アイリが隣で息を呑んでいる。
「亡き夫の願い、どうかお聞き入れ下さいね」
サーシャは笑顔で涙を流した。
故人の頼みと言われたら、俺もアイリも嫌とは言えない感じ。
「あたしも妻にしてほしー」
「私も陛下の子を産みたいなぁ」
「はーいはーい私も」
他の歩兵隊員も、手を挙げてはしゃいでいる。
俺は危ない空気を感じて、慌てて話題を変えることにした。
「いつ、どうやって【復活】を獲得したんだ?」
アイリは小回復しか魔法を使えないダメな子だったのに。
「さっき突然、声が聞こえたんです。私が【復活】を獲得したって」
「戦いの最中にレベルアップしたってことか」
神官隊の一員として、アイリは回復役を頑張っていた。でも、いきなり【復活】なんて高度な能力を使えるようになるなんて。
「きっと【王佐】のギフトが覚醒したんです。戦いで誰かが死んでもおかしくない状況でしたから、陛下を最も助けられる能力が獲得されるように」
「そっか……確かに助かったよ。サーシャが死んだら、俺も責任とって死なないといけないって思ったから」
「私をレベルアップさせてくれるなんて、陛下はやっぱり最高の先生ですねっ」
アイリが俺の右腕に抱きついてくる。シスター服姿には相応しくないおっきな胸で腕が挟まれた。
「俺は関係ないよ。アイリが頑張ってるんだ」
「違います。私だけだったらダメな子のまま。先生が来てくれてから、私はグングン伸びてますっ」
「アイリは最高の教え子だよ。【能力授与】と【王佐】のギフトが互いに反応し合ってるな」
「はいっ 私たちは最高の組み合わせですっ ずっと夫婦でいてくださいねっ」
「当たり前だ」
俺とアイリは抱き合って、キスする。
歩兵隊に見られてるけど気にしない。むしろ見せつける。いつも俺を助けてくれるアイリが愛しくて、愛しくて。
悪いけど、俺の妻はアイリだけなのだ。
ちゅっ ちゅ
「先生、大好き♡」
「俺も大好きだ」
「やったな、歩兵隊のみんな。魔法が効かない敵相手にすごい戦いしてて、オラはハラハラした」
ゾフィーの声。
振り返ると、魔法使い隊が勢揃いしている。ルナはゾフィーと肩組みしていた。神官隊もいる。
みんな崖から降りてきたんだ。
「もう、ちょっとは男を残しといてよね」
メリッサが頬を膨らませる。
「男は陛下だけがいい」
ゾフィーが言い返してる。
「みなさんっ よく戦って下さいましたっ ありがとうございますっ」
アイリが頭を下げる。
「俺からも礼を言いたい。全員が力を合わせなければ勝てなかった。本当にありがとう」
本来、俺は人前で演説するキャラじゃない。
でも今は熱くなってしまう。
一人も犠牲者を出さなかったから。
「勝ったんですよね」
アイリが興奮して震えている。
「ああ、俺たちの完全勝利だ!!」
右手を突き上げる。
「「「「「やったああああああああ!!!!」」」」」
全員が飛び跳ねて喜ぶ。
ルナも笑顔で杖をかざす。
初めて見るルナの笑顔で、俺は本当に勝ったんだと実感した。
10万字を超えました。文庫一冊に相当する量をお読みいただき、ありがとうございます。
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