37 悪役令嬢の闇堕ち
ルナは紫のローブ姿のメリッサを向く。
「メリッサは歩兵隊を支援」
「待ってましたー♡」
メリッサがぴょんぴょんと軽快な動作で崖の岩を飛び降りていく。
俺は振り返って歩兵隊を見下ろす。
火矢の雨をくらった歩兵隊に、騎士団が突っ込んできて乱戦状態。
かつてなく押しまくられて、歩兵隊員は必死に盾で騎士の剣を防いでいる。
崖の下に降り立ったメリッサ。
騎士が近くに大勢いる今はメリッサの能力を使うチャンスだ。
「【全員魅了】♡ ちゅっ♡」
メリッサは騎士団の方を向いて投げキスをした。メリッサから紫色の光が放射状に広がって行く。
紫色の光に呑まれた騎士団……
メリッサの方を向いて、呆然とする。
「なんていい女だ」
「やりてぇー」
騎士が剣や槍を放り出す。
騎士は大半が魅了状態。目をハートマークにした騎士が馬から降りて、メリッサに向けて走り出す。
「「「うおおおおおおおお」」」
「わーい、男だー あたしを犯してー♡」
メリッサが小躍りして、じゅるりとよだれを垂らす。
「今だ! 倒せっ」
レオーナが歩兵隊に指示。
我を忘れた騎士を、歩兵隊が楽々と槍で突きまくる。腹や背中を刺された騎士はメリッサにたどり着くことなく、次々と倒れて行った。
【全員魅力】は味方まで魅力状態にしてしまうことを俺は心配していたが、敵だけに効果がある。
「もっかい【全員魅了】♡ うっふーん♡」
再びメリッサは騎士に投げキス。メリッサから紫色の光が放射状に広がる。
最初に魅了状態にならなかった騎士も今度はほとんどが魅了状態になる。
騎士たちが武器を捨て、馬から降りる。
目をハートマークにした騎士がメリッサに向けて走り出した。
「ふふ、これは楽勝ね」
歩兵隊副長のサーシャが、笑顔で騎士を突き刺す。騎士はメリッサに心を奪われて、歩兵隊と戦っていることを忘れている。自分が刺されたことにも気づかずに絶命していく。
一時は攻め込まれていた歩兵隊だが、形勢が完全に逆転している。
メリッサの【全員魅了】は予想通り、敵部隊をあっさり壊滅させるほどの威力だ。
崖の上では、ゴーレムがじりじりとマルーを追い詰める。
「魔力障壁」
ルナが空に両手をかざして、唱える。
マルーと俺たちをドーム状の虹色の光が包んだ。
これでマルーはリープの魔法で逃げられなくなった。
マルーはアンデッド化したルナだけでも分が悪い。加えてルナには、仲間の魔法使いもいる。
多勢に無勢で、もはや絶対絶命である。
「ゾフィー、ちょっとゴーレムを止めて。マルーと話をしたい」
俺はゾフィーに頼んだ。
「あい」
ゴーレムが立ち止まった。
俺はゾフィーとルナの前に出て、マルーに向き合った。
「もう逃げられないぞ。ルナたちに討たれる前に聞かせてくれ。なぜノルデン王国の男を全員殺すなんいう呪いを発動させたんだ」
「あははははははは、復讐に決まっているでしょ」
マルーは高笑い。追い詰められておかしくなったのか。
「復讐……何のだ?」
「父が投資に失敗したことで、ノルデン中の貴族や市民が我が家を笑い物にしたわ。落ちぶれた元上流階級を叩くのは楽しいわよね。愚物どもは他人の不幸を笑い、ここぞとばかりに叩くしか楽しみがないんだから」
マルーは饒舌に話す。
「それで男をみんな殺してやることにしたなんて……」
「おかしいかしら。男がいなくなれば、女だけで国を守れるはずがない。帝国軍が攻め込んできて、女たちは凌辱され、地獄を見る。ざまあみろ、と思っていたわ。でも王様が現れたのは想定外だったな」
マルーの口ぶりに悔しさが混じる。
「悪かったな。復讐を阻止して」
「ふふ、まさか王様が寝た女の子に能力を授与するなんて思わなかったわ」
「……俺自身、困惑しているギフトだ。ところで、マルーはバッカス・ギルナーとどういう関係だ? 俺は君らが結託して、呪いを発動したと見ているんだが」
「気づいているなんて、さすがは賢明な王様ね。私とバッカスは幼なじみよ。小さな頃からよく遊んだ。バッカスだけは、我が家が落ちぶれた後も変わらずに優しくしてくれたわ」
「へえ、意外だな」
バカなバッカスにマルーに対する気配りができたとは信じがたい。
「もちろん、バッカスは私を自分の女にしようっていう下心があったのは気づいてた」
「だよな。バッカスが打算抜きで人に親切にするとは思えないからな」
「でも私は、表向き変わらずに接してくれるバッカスがちょっとは嬉しかった。だから私はバッカスに打ち明けたよ、私は実はすごい魔力を隠しているってさ。いつか魔力を使って国中の奴らに復讐しようと思っていることもね」
「で……バッカスが帝国に行って、男を全滅させる呪いの書かれた魔導書と魔法石を手に入れてきたんだな」
ついに真相が明らかになった。
マルーの復讐心とバッカスの野望。二人が結託したことで、悲劇が起きた。
俺にはマルーの気持ちがわからないでもない。社会から虐げられたら、仕返ししたくなるのは自然だ。
俺は前世で酷い目にあっていたからな。
トラックに跳ねられて死んでなかったら何をしでかしていたことか。
やけっぱちになって、大量殺人をやっていたかもしれん。
「私を捕まえてどうするつもりかしら?」
マルーが聞いてくる。
「君はノルデン王国の女性の父親、夫、息子、恋人を全員殺した極悪人だ。みんなが怒り狂って、君を惨たらしく処刑するだろうね」
「あら怖い怖い」
口調は落ちついていて、囚われることを怖がっている感じじゃない。
マルーは自分に魔法を掛けて、自殺するつもりかもしれないと思った。
「聞きたかったことは以上だ。ゾフィー、ゴーレムにマルーを捕まえさせてくれ」
「あい」
ゴーレムの群れが腕を伸ばしてマルーに近づく。
マルーは手足をゴーレムに掴まれて動けなくなるはず……逃げ場がない以上、無駄な抵抗はしないと思った。
「ククク」
マルーの顔が邪悪に歪む。
突然マルーのローブを突き破って背中から翼が生えた。コウモリの翼のようの皮膜のやつだ。鳥のように白い羽毛で覆われた美しいものじゃない。
マルーは黒色の禍々しいオーラに包まれる。
ゴーレムがマルーに殺到する。だがマルーの翼がはためき、浮き上がってかわした。
マルーは飛翔して、どんどん高く昇っていく。
「マルー、一体なんなんだ君は!?」
俺はびっくりしまくり。マルーの正体は悪魔だったのか。
「禁断の呪術を使ったら翼がはえてきたのよね。私、闇落ちしちゃったみたい」
マルーはあっけらかんとしている。
大量殺人に手を染めようと思う時点で、マルーは闇落ちしてると思う。呪術を使って、マルーは身も心も完全に悪魔になってしまった。
マルー本人は今さら悪魔に心を貪られても気にしてなさそうだ。
だがマルーから被害をこうむっている俺たちにとっては、迷惑極まりない。
「さようなら王様。いつかまた遊びましょ」
マルーは両手をかざして、ルナの張った魔法障壁に魔法を放つ。
パリンッとガラスが割れるような音がした。
マルーは魔法障壁の割れ目から翼をはためかせて出ていく。
呪術を使った代償で弱くなるどころか、マルーは強くなった。リープでは逃げ出せない魔法障壁を破り、悪魔の翼で脱出してしまった。
虹色の光が消えていった。ルナが魔法障壁は役に立たないと知って、消したのだ。
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