34 防衛戦開始
◆◇◆
ついに街道から雪がほぼ消えた。
国境の見張りから、帝国軍侵攻を知らせる狼煙が上がる。国境近くの村の住人が王都に避難してくる。
元より敵襲を予想していた俺たちは、ただちにノルデン隘路に出陣する。
行軍中の俺に、帝国軍はおよそ10万人にもなるという報告がもたらされる。
敵戦力は想定どおり。俺たちは決戦に向けてできる限りの準備をしてきた。
ノルデン隘路で、300人の歩兵隊が整列。
ビキニアーマーの女性たちがずらっと並んだ様は壮観だ。
全員が右手に槍、左腕に長方形の盾。背中には剣を帯びている。
幅10メルトルの隘路を塞ぐため、横10人、縦30列の縦深陣形だ。
前の者が倒れたら、後ろの者が前に出て隊列を埋める。
全員が討ち死にするまで戦う覚悟。
隘路の入口の崖の上に俺は立つ。
左右の崖の上には魔法使い隊50人が半分ずつ陣取る。
俺がいるのは街道から向かって右側。
一緒に魔法使い隊長のルナ、ゾフィー、メリッサ、マルーら主力がいる。
ルナはいつもどおり無言。魔法使い隊員に檄を飛ばすことはしない。
ルナの右は副長のゾフィー。
田舎娘で、魔法教育を受けたことのなかったゾフィーだが、潜在的な魔力が大きかった。
俺から授与された能力もあって急成長を果たして、副長に選ばれた。
シスター服を着た神官隊20人が歩兵隊、魔法使い隊の後ろに控える。負傷した歩兵隊、魔法使い隊を回復させる役をするのだ。アイリも崖の下で、歩兵隊の後ろに立っている。
シスター服姿のアイリ。本来、体の線を隠すのが目的のゆったりした服なのだが、アイリの胸が大きすぎて盛り上がっている。
隘路にノルデン王国のほぼ全軍が集結した。
レオーナが正面で向き合って、檄を飛ばす。
「お前たちの職業は何だあああ」
「「「戦士だ――――」」」
歩兵隊員が大声で答える。
「帝国軍をぶち殺して、夫、兄弟、父親の仇を討つぞ」
「「「おうっ おうっ おうっ」」」
歩兵隊員は槍を突き上げる。
前方では砂煙が巻き上がる。
帝国軍の先鋒がもうやって来た。
旗印に棍棒の絵が描かれている。帝国軍最強の聖巨神騎士団の紋章だ。
ノルデン隘路は馬が通れる唯一の道。
ここを突破されればノルデンの国土は蹂躙される。
聖巨神騎士団の兵力は3万人もいるという。巨神というだけあって全員が2メルトルくらいある巨漢。騎士の背後には敵の魔法使いが続いているはずだ。
魔法使いは魔法使いどおしの戦いになる。味方の魔法使いが騎士を攻撃できるようになるのは、敵の魔法使いを圧倒してからだ。
騎士の中には魔法耐性のある者もいるらしい。騎士に対抗する主役はやはり歩兵。
長い時間、歩兵隊が騎士を食い止めなければならないのだ。
「ひるむな。真の戦士は我らの方が多い」
レオーナは敵の方を向いて叫ぶ。
「「「おうっ」」」
気合いでは負けてない。
「構え」
レオーナの合図で最前列が盾を構える。地面に盾の底辺を突き立て、左右の者どおしで隙間なく盾をくっつけた。
2列目は最前列の者の背中を支える。
突進して来る騎馬の衝撃を受け止めようというのだ。
レオーナは最前列の真ん中だ。頭を下げて縦に身を隠す。
果たして受け止められるのか。
棍棒や槍を構えた騎士の一団が横一列になって突っ込んでくる。
女性の歩兵より騎馬の方がずっと大きく見える。
どおおおおおおおおおおん
盾に馬が激突して、轟音が起こる。
砂煙がもうもうと立ち込めた。
隊列はどうなったんだ!?
レオーナたちは吹っ飛ばされたんじゃないか
俺は気が気でない。
「今だ、突けえぇ――――」
レオーナの声。
砂煙の晴れ間から見えたのは
最前列の盾が保たれて、後ろの列の歩兵が槍を突き出している。
槍は騎士の首に刺さる。
次々と落馬していった。
「押し返せ」
レオーナの掛け声で最前列が盾を構えたまま前進。
騎兵を失った馬を押して行く。
馬は嘶いて、振り向き、後ろに走って行く。
騎士の第二列が突っ込んで来たから、鉢合わせだ。
ヒヒヒーン
馬どおしがぶつかって、騎兵は大混乱。
「行けっ 殺せっ」
レオーナが走り、槍を突き出す。
騎士の兜の目元を突き破った。
副長のサーシャもレオーナの隣で奮戦。
槍が騎士の鎧を貫いた。
【一撃必殺】の能力が発動したようだ。
通常は破壊できない鎧を容易く指し貫いてしまう。
歩兵隊が騎士団の先鋒を圧倒している。
「すごい」
俺は感嘆した。
行ける。これなら行けるんじゃないか。
「魔法が来る」
ルナがつぶやいた。
正面――
騎士の上を無数の火球が飛んでくる。
火球は歩兵隊に降り注ぐ――
「【風衝】」
ルナが小声で唱えながら、杖を振るう。
風系統の上級魔法。
歩兵隊の頭上で突風が巻き起こり、火球を全て吹き散らした。
「よし。今だ」
俺は両手を振り上げる。
「【全員魔力向上】」
ドーム状の光に魔法隊が包まれる。
魔法使い隊全員の魔力を一時的に1.5倍に。
俺は全体補助の役割をきっちり果たす。
「私が守る。攻撃を」
ルナはぼそっとゾフィーに伝える。
「あい。目標500メルトル。全員で雷撃準備――」
ゾフィーが声を張り上げる。
ゾフィーは目がいい。前髪が長くて目が隠れているのに遠くがよく見えるのは不思議なのだが。
それに元気で声が大きいから、静かすぎるルナを補うのにもってこい。
「放て――」
ゾフィー自身、両手をかざしながら叫んだっ
稲妻が50本くらい前方に落下する。
俺は閃光に目が眩んだ。
落雷の衝撃音が鳴り響く。
「およそ50を黒コゲにしただ。残敵450」
敵の魔法使いは見えているだけで、こっちの10倍もいる。
前方から火矢が無数に飛んでくる。
火球より上位の火系統魔法。
指向性が強いから、風で吹き散らすのは難しいんじゃ……
火矢が歩兵隊に降り注ぐ――
「まずいっ」
「【全凍結】」
ルナの呟き。
氷系統の上級魔法。
火矢は白くなり、全て歩兵隊に刺さる前に粉々になって消えた。
「すごい!」
俺は両拳を握りしめる。
ルナの私が守る宣言は伊達じゃない。
たった一人で敵魔法使いの攻撃を完璧に防いでいる。
「もう一回、全員で雷撃準備。目標500メルトル」
ゾフィーの合図で詠唱する魔法隊員たち。
俺もやるぞ。両手を振り上げた。
「もっかい【全員魔力向上】だ」
再び光のドームに魔法使い隊が包まれる。
補助魔法は2回まで重ね掛けできると実験済み。
魔力は1.5掛ける1.5で2.25倍だ。
「放て――」
稲妻で周囲が真っ白になった。
耳をつん裂く轟音。
魔力向上効果で、一発目を上回る威力だ。
「およそ80を黒コゲにしただ。あ、でも増援が来ただ。残敵500」
敵が減らない。これは長い戦いになる。
俺は麓を見る。
突進してくる騎士を盾で受け止めるレオーナたち。
レオーナの背後から無数の槍が突き出され、騎士を貫く。
歩兵隊は一歩も引いてない。
むしろ押している。




