33 密偵を殲滅2
「女の子をメスって呼ぶな。だから嫌われるんだよ」
俺は常識を教えてやる。バッカスは常識など受け付けないだろうが。
バッカスは腰に下げていたロングソードを抜く。
「貴様はオレ様が斬ってやる。メスどもはオレ様の強さに酔いしれろ。やれっ」
バッカスの合図で、ローブ姿の男たちが詠唱を開始。
こいつら魔法使いは敵地に少数で乗り込んでくるからには相当に強いはず。
「でやあああっ」
バッカスがオレに向かって斬り込んでくる。
動きが早い――
だが
キンッ――
俺もロングソードを抜き、頭上でバッカスの剣を受け止めた。
「なっ――」
バッカスが驚きの表情を見せる。
「俺が剣を使えるとは思ってなかったかな」
実は……俺は【剣聖】の能力を持っている。
レオーナと3回目に閨をともにした時に獲得した能力だ。
当然レオーナに授与しようとしたのだが……「【剣聖】は陛下がお持ちになってください。陛下の護身用に」とレオーナは止めた。
さらにレオーナは「陛下にもしものことがあったら、私は生きていけません」と顔を赤くする。そこまで言われたら断れない。
「ふんっ」
バッカスが後退して、間合いを取る。
剣を乱れ打ちしてくるが、俺は全て受け止めた。
「信じられん、ショボくれた外見の貴様に、なぜ?」
「外見で判断しないことだ。それにバッカス、お前のファッションセンスはおかしいしな」
「オレ様は美の女神に愛され男だああっ」
バッカスがほざきながら振り下ろす剣を、俺は全て弾く。さらに俺はバッカスに斬りつけた。
体が勝手に動いてくれる。これが【剣聖】の能力なのだ。
バッカスはよろめきながら、俺の剣を受け止めるのに精一杯。
「くっ」
バッカスは剣でかなわないと見て後退。
歩兵隊が敵魔法使いに剣で斬りかかる。
接近戦ならこっちのもののはずなのだが……
敵魔法使いの一人が火矢を乱れ打ちにしてくる。
とっさに歩兵隊員は盾で火矢を防ぐ。
「これじゃ近づけない」
敵魔法使いは、一人が素早く詠唱できる魔法で、歩兵隊の接近を阻止する作戦だ。残りは詠唱に時間がかかるけどもっと強力な魔法を放つつもりらしい。
「「「雷撃」」」
魔法使い隊が雷系の初級魔法を一斉に放つ。
敵魔法使いに雷が降り注ぐ。
だが敵魔法使いの一人が両手を上に掲げる。
ビキビキビキビキ――――
だが雷は敵魔法使いの頭上でバリアに防がれた。火花が飛び散るが、敵には電気が届いていない。
「くっ 魔力障壁だわ」
「私たちの魔法が通じなくない?」
魔法使い隊員が困っている。
今いる魔法使い隊員は新米なので、初級魔法しか使えない。
「ふはは、見せてやろう。雷魔法ってのはこういうものを言うんだ」
敵魔法使いのオッサンは余裕たっぷりに笑っている。
「「「「雷槍」」」
敵魔法使い4人の声がハモる。
「逃げろ!」
俺はヤバい気配を感じて叫んだ。
「「ひゃあああっ」」
女の子たちが散り散りに逃げる。
俺も後ろに跳んだ。
稲光がして、俺たちがいた地面に巨大な落雷。
びっしゃああああん――
轟音が耳をつん裂く。
地面が真っ黒にコゲている。
「くらってたら、死んでたんじゃないか」
俺は冷や汗が流れた。
「ううう……近づけない」
「私たちの攻撃が通用しないし」
歩兵隊も魔法使い隊も途方に暮れる。
「私が突っ込むから援護して」
副長のサーシャが、この場のリーダーらしく身を挺そうとする。
サーシャは【一撃必殺】の能力を授与されているから、敵魔法使いを倒せるかもしれない。でも接近する前に魔法をくらいそうで危険だ。
「しかたない。できれば温存しておきたかったんだが」
俺はサーシャの前に出て制止する。
「陛下、何を?」
「魔法を使ってみる。覚えたてだが」
「くはは、王様がダサい魔法を見せてくれるってよ。メスがさぞやがっかりするだろうなぁ」
バッカスが嘲笑う。
俺は、すうっと息を吸う。
「【神雷】」
詠唱なしで魔法の名前を呟いた。
だが雷系の最上級クラスの魔法である。
上空でゴロゴロゴロゴロという巨大な音がした。
次の瞬間――
バッカスら7人に滝のように雷が降り注いだ。
どおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおん
凄まじい雷鳴が耳を貫く。
「「「きゃあああああっ」」」
衝撃波の突風で女の子たちが悲鳴を上げた。
砂嵐が沸き起こる。
砂が収まると、バッカスたちがいた辺りはクレーターのようにへこんでいた。黒コゲの体が横たわり、プスプスと煙が昇る。
俺は、一撃で敵を全滅させた。
【神雷】は、ルナと2回目に閨をともにした時に獲得した能力だ。
当然俺はルナに授与しようとしたが、ルナが止めた。「陛下も魔法が使えた方がいい」と護身用に俺が持っておくことになった。
普段表情の乏しいルナが顔を赤くして、「陛下はずっと健在で、私とまた閨をともにしてほしい」と呟いていたのが印象的だった。
神雷は俺にとってはスタンガンみたいなものだと思っていた。
しかし予想をはるかに上回る威力である。
閨をともにして獲得できる能力は、相手の女の子の強さによる傾向がある。
ルナは百年に一人の魔法使いと言われる天才だから、それだけ強力な能力が獲得されたわけだ。
まさに神が天罰を下すような雷であった。
「ふはは、雷魔法ってのはこういうものを言うんだ」
俺は敵の魔法使いのマネをしてみた。
「すっごーい」
「陛下、素敵です」
女の子たちが歓声を上げる。
「お疲れでしょう。今夜は私が慰安をさせていただきます♡」
「私がさせていただくわ♡」
ビキニアーマーで抱きついて来る子まで。
バッカスをあっさりと葬ってしまった。
捕まえて拷問したかったので、ちょっと後悔する。
ノルデン王国の男を全滅させた呪いの真相を白状させたかったのだが、もはや闇の中か……
ところが死んでいると思った体が一つ動く。
「ぬおおおお」
上半身を起こして、
「小回復」
と声を出した。
体が光に包まれる。
光が消えた後、現れたのはバッカスだった。
神雷をくらって、髪の毛が爆発している。
黒ずくめの服はズタボロだ。
茶色に焼けた顔は煤で汚れている。
「生きてたのか……案外丈夫だな。バカは電気を通さないのか」
俺はバッカスを見下す。
バカは風邪を引かないというからな。いろんな耐性があるのかもしれない。
「捕えて」
サーシャが指示。
歩兵隊員が剣を構えてバッカスに歩み寄る。
「くっそ。この借りは必ず返す。リープ」
バッカスの姿が薄くなって行き、消えた。
「逃げたか。ゴ○ブリみたいな奴だな」
生命力といい、黒いところといい、逃げ足の速さといい、女の子に嫌われているところといい、そっくりだ。
俺は腕組みして物思いにふける。
「ふむ……」
ノルデン王国の男を全滅させた呪い……
拷問できなかったが、やはり首謀者はバッカスだと確信を深めた。
呪いが発生したのが冬だということが証拠になると思う。冬の間は、ノルデン王国が雪と氷で閉ざされるから侵略できない。
侵略を企む神聖ロマン帝国皇帝が首謀者だったら、呪いを春夏秋に発生させるはずだ。呪いでノルデンの男たちがバタバタ死んでいくところに攻め込む。
ノルデンの女たちは守りを固める時間がなく、蹂躙される。
バッカスは冬の間に呪いを発生させて、ノルデン王国に降伏勧告する。バッカスは手柄を認められて新しい王様にしてもらう。女の子を何百人か自分のものにできるだろう。
他の女の子は帝国貴族の側室や奴隷にされてしまう。バッカスは私利私欲に溺れて、女の子全員を不幸にするクズ野郎。
ルナの話では、呪いの発動には巨大な魔法石が必要だという。
バッカスは神聖ロマン帝国皇帝をくどいて、魔法石を調達したのだろう。
ハーレムを作りたいという邪欲に突き動かされて、バッカスは売国奴となったのだ。
一連の陰謀が明らかになってきた。
残る謎は、呪いを発動した女の魔法使い。
バッカスと手を組んだ裏切り者がはたして誰なのか。
魔法使い隊に紛れているかもしれない。
だけど女の子の本心がわからない俺には、見当もつかない。
背後で馬のいななきがする。
振り返るとレオーナとルナだ。
「北で暴れていた密偵は殱滅しました」
レオーナが馬から飛び降りながら報告する。
「こっちは6人倒した。バッカスは逃してしまった。すまん」
「いえ、陛下がご無事で良かったです」
レオーナはとても嬉しいみたいで笑顔を見せてくれる。
「これで密偵はだいたい殱滅できただろうね。帝国軍が攻め寄せる前で本当に助かるよ」
「はい、後顧の憂を絶てました」
バッカスがバカで良かった。手柄を立てようと独断専行してくれたおかげで、俺たちは国境の守りに集中できる。
「もうじき、戦いが始まるのか……」
俺は帝国軍がまず攻め寄せるノルデン隘路の方角の空を見つめて呟く。
夕焼けが血の色に染まって見えた。
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