30 ゴーレム!
◆◇◆
毎晩、魔法使い隊の女の子と閨をともにする。
しかも途中、アイリが閨に乱入してくることもある。
また嫉妬にかられたらしい。
アイリに新たに授与された能力は――【睡眠不足解消】
寝なくてもやっていけるようになる能力だ。寝る間もなく政務に、軍議に、閨と大忙しだったから欲しかった能力だけど、本当に手に入れてしまった。
アイリは俺に【睡眠不足解消】を早速使う。
覚醒剤を打たれたように、俺は全く眠気を感じなくなった。
社畜だったら夢のスキル。
うれしいけど、これでいいんだろうかという腑に落ちない気分になった。
一週間ほどで、俺は50人の魔法使い隊全員に能力を授与した。
魔法使い隊員はみな個性豊かだった。
中でも群を抜いて潜在力の高い3人――
ゾフィーに【創造ゴーレム】、メリッサに【全員魅了】、マルーに【アルティマ】。
いずれも強力な能力を授与することができた。
他の魔法使い隊員にもそこそこの能力を授与してやることができた。
俺は大役を果たした気分だ。
結局、裏切り者が誰かはわからなかったが。
◆◇◆
晴れた日の朝。
俺はアイリら国の幹部と一緒に港にやって来た。
ゾフィーのゴーレムをテストするのだ。国の存亡がかかっていると言えるくらいの重大事項である。
港の辺りは雪が積もっている。
灰色のローブ姿のルナが杖を地面の方に向ける。
「火球」
小声で呟いた。
サッカーボールほどの火球が現れて、地面をゆっくり浮遊していく。
火球の熱で雪が溶かされて、地面が露わになる。
「お、あの辺が土だ」
俺たちが茶色い地面の辺りに歩いて行く。ほどよく粘土が混じってそうで、ゴーレムを作るのに適した感じだ。
「ゾフィーちゃん、お願いしますっ」
アイリがゾフィーを見つめる。
「あい」
ゾフィーがみんなの真ん中に立ち、両手を前に掲げる。手の平は地面に向けた。前髪に両目が隠れているから、表情がわからない。心なしか緊張しているような。
ゴクリ
みながゾフィーに注目して、固唾を呑んでいる。
「創造ゴーレム!」
ゾフィーが唱える。
ぼこっ
途端に地面が盛り上がる。
ぼこぼこぼこぼこ
みるみるうちに俺の背の高さくらい隆起して、人の形になった。
「すげえ、ゴーレムだ」
俺はこれだけでも驚く。
「まだですっ ガレー船を漕いでくれないとっ」
隣のアイリは真剣。
「創造ゴーレム」
もう一度ゾフィーが唱える。
2体目のゴーレムが作られた。
アイリが港に停泊しているガレー船を指し示す。
「では、ゴーレムを船の中に乗り込ませて下さいっ」
「あい」
ゾフィーは船の方を向く。
ゴーレム2体が船に向かって歩き出す。ゾフィーが心の中で念じたようにゴーレムは動くらしい。
桟橋の上を歩いて行くゴーレム。ゾフィーも後について行って、ゴーレムの動きをコントロールしている。ラジコンのようなものだ。
予めガレー船の扉を開いておいたので、ゴーレムたちが板を渡って入っていく。ゾフィーは扉の辺りで立って指示を出している。
「いいぞいいぞ」
俺は両手をぎゅっと握り締めて見つめている。
船の横の窓から出ている櫂が二つ動く。
ゴーレムが船内で着席して、櫂を動かしたのだ。
海は流氷に覆われているから櫂を水面下で漕ぐと壊れてしまう。櫂は漕ぐ真似だけだ。
櫂は二つとも全く同じ動き。きれいにシンクロしている。これなら無駄なく推力を伝えられるはずだ。
テストはこれで十分。ゴーレムに船を漕がせることができるとわかった。
「よっしゃああああああ」
俺はガッツポーズ。
「やったあっ」
アイリも飛び跳ねる。
ぱちぱちぱちぱち
レオーナも拍手する。
ゴーレムを何十体も作って、同じように櫂を漕がせればいい。きっと船が動く。
50隻のノルデン王国艦隊全てにゴーレムを乗り込ませて操船する。
帝国艦隊が押し寄せて来たら、ノルデン湾で決戦である。
ノルデン艦隊は湾で待ち伏せていればいい。
あとは、キキィが援軍を要請しに行っているハルザ同盟艦隊が動いてくれるかだ。
ハルザ同盟艦隊が帝国艦隊の背後を突いて、挟み撃ちにする。
ついに海戦の勝ち筋が見えてきた。
「ゾフィーのMPが足りるの?」
ルナが冷静な指摘をする。
「う……ゴーレム作るのってどれくらいMPを使いそうかな」
俺は恐る恐るゾフィーを見ながら尋ねる。
「ちょっとしか使わね。オラ、いくらでも作れそうだ」
ゾフィーはニコニコで答えてくれる。
「やはりゾフィーの潜在的なMPは膨大」
ルナが感嘆している。天才魔法使いルナでも計りかねるほどだったようだ。
農村にとんでもない才能が眠っていたものである。
使える魔法の種類や質ではルナの方が上なんだろう。でもゾフィーは量がすごいのだ。
本当にゾフィーにゴーレム艦隊を作ってもらえそう。
「ゾフィーは何隻分のゴーレムを操れるのでしょうか」
レオーナが別の問題を提起する。
海戦をやるには船ごとに方向を変えたり、スピードを調節したり、停止させられないといけない。
味方の船どおしが衝突したら目も当てられない。
「あああ、ゾフィー。船ごとに動きを変えられそうかな?」
俺は焦って確認する。
「うーん無理だ……ゴーレムには同じ動きしかさせられね」
ゾフィーが申し訳なさそうに答える。
「私が見たところでは、船の方向を変えるには誰かが乗って舵を操ればいいでしょう。問題はスピードの調節です」
レオーナが腕組みしながら話す。
「確かに……ガレー船のいいところは櫂の漕ぎ方でスピードを調節したり、バックできるところだからね」
俺も頷く。
「船ごとにゴーレムに櫂の漕ぎ方を指示できればいいってことですねっ」
アイリも話について来る。
「そうです。舵を操作する者がゴーレムに指示するんです。歩兵隊員がいいでしょう。泳ぎが得意な者たちなら、船が沈没する時に泳いで別の船に逃げられます」
レオーナがはきはきと提案してくれる。
「海はめっちゃ冷たいよ」
俺は歩兵隊員が凍え死なないか心配。流氷がなくなっても当分の間は海は冷たい。
「大丈夫です。普段から寒中水泳で鍛えていますから」
さすが……制服がビキニアーマーだしね。歩兵隊員の耐寒性には感心する。
「でも歩兵隊は海戦には詳しくないんじゃ」
「実戦までに、できるだけ訓練させます。歩兵隊の他に戦いのプロはいません。使って下さい。無論、私も船に乗ります」
レオーナが率先してくれる。
最前線で戦うのはめちゃくちゃ怖いはずだ。レオーナの言う通りで、歩兵隊ほど勇敢な人はいない。
帝国軍は陸と海から攻めてくる。
ただし恐らく、同時ではない。陸路の雪解けの方が先で、海の流氷が消えるのは後だ。
最初に帝国軍はノルデン隘路に陸路で攻め込んでくる。帝国軍は陸からだけで攻め落とせると思っているはずだ。海戦の準備はあまりしていないはず。
俺たちはまず陸の帝国軍を全力で叩く。
帝国は陸戦でまさかの敗北を喫してから、海戦の準備を始める。陸戦と海戦の間のタイムラグこそが、俺たちの勝利の鍵になる。
歩兵隊員には陸で戦った後で、一部を転用してガレー船に乗ってもらおう。
「わかった。歩兵隊の人たちに操船を任せるよ」
「はい、お任せください。全体の指揮は、陛下に旗で合図していただきます。陛下にはノルデン湾を一望できるあちらの高台にいていただきます」
レオーナが指さす先には小高い山がある。
俺は高台から全体を指揮する。
舵を握った歩兵隊員は俺の指示を見て、船の方向を変える。
そして歩兵隊員は船に乗り込んでいるゴーレムに指示して、スピードを上げたり下げたり、バックさせたりする。
でもって、帝国艦隊に突撃するのだ。
俺には大海戦の様相がイメージできてきた。俺が50隻の艦隊を手駒として操るわけだ。責任重大だが、わくわくする。
「てことは、ゴーレムがゾフィーちゃん以外の人の言うことを聞いてくれればいいんですねっ ねえねえ、ゴーレム君、私の言うこと聞いてよっ」
アイリが船に駆け寄って叫ぶ。
しかし船の中のゴーレムに変化はない。黙々と櫂を漕いでいるだけだ。
「アイリ、ゴーレムは他人の言うことは聞かないよ。聞いたら敵の言うことも聞いちゃうじゃないか」
俺は当たり前のツッコミをしておく。
「私ってバカっ」
アイリが軽く自分の頭を小突く。
「ゾフィーが他人にゴーレムを操る権限を委任できる必要があるわけだな……」
俺は頭を抱える。【創造ゴーレム】だけでは能力が足りない。
「あっ もしかするとゾフィーちゃんと陛下が閨をともにすると新しい能力で出てくるかもしれないですよっ」
アイリはすごいことを閃いたという風に叫ぶ。
「都合よくいくかな……」
「王様ガチャで当たりがでるまでやるしかありませんよっ 今晩、最初の閨の相手はゾフィーちゃんで決定ですっ」
アイリが宣言。
恥ずかしいから大声で言うのは止めてほしい。
ゾフィーが顔を赤くしているし。
お読みいただきありがとうございます。
よろしければブクマ、ご評価をつけていただきますと励みになります。




