3 俺だけを愛してくれる
一緒に祭壇に登り、ルナの前に立つ。
ルナが俺の方を向く。すうっと息を吸ってから声を出す。
「レイさん。あなたはアイリさんと結婚し、妻としようとしています。あなたは、この結婚を神の導きによるものだと受け取り、常に妻を愛し、敬い、慰め、助けて、変わることなく、その健やかなるときも、病めるときも、富めるときも、貧しきときも、死が二人を分かつときまで、あなたの妻を守ることを約束しますか?」
俺はルナの言葉を反芻する。
ん……妻だけを愛しますかって聞かれるもんじゃないのか。
もしかして、愛する女性が妻だけに限定だと、ハーレム建設に支障があるからアイリが削ったのかな。
まさかね。俺の考えすぎだ。
「誓います」
はっきりと答えた。
どんな時だって俺はアイリを守りたい。
次にルナはアイリの方を向く。
「アイリさん。あなたはレイさんと結婚し、夫としようとしています。あなたは、この結婚を神の導きによるものだと受け取り、常に夫を愛し、敬い、慰め、助けて、変わることなく、その健やかなるときも、病めるときも、富めるときも、貧しきときも、死が二人を分かつときまで、あなたの夫だけを愛し、夫を守ることを約束しますか?」
あれ……アイリの方には「あなたの夫だけを愛し」って聞かれている。アンバランスなんだけど、いいのかよ。
「誓います」
アイリの声は鈴が鳴るように澄んでいた。
ああ……アイリが俺のものになったんだという感慨が押し寄せてくる。
病めるときも、貧しきときも……どんなピンチの時だって、アイリは俺の味方でいてくれるということだ。
「では誓いのキスを」
ルナに言われて、俺は、うっとなる。
式の流れでキスするっていう説明は受けているけどさ。
実際にキスするのは……していのかよって思ってしまう。
アイリが俺の方に体の向きを変える。
ごくり
喉を鳴らしてから、俺はアイリと向き合った。
俺はアイリのベールを上げる。
アイリが目を閉じて唇をすぼめている。
俺は震えながら……
アイリにキスした。
前世を通じて、俺のファーストキス。
甘くて、甘い、甘すぎる味わいがした。
拍手の嵐が沸き起こる。
ひゅーひゅーと囃し立てる声も。
俺の人生でこんなに祝福されたのは初めてだ。
唇をアイリから離した。
アイリが目を開ける。涙が零れ落ちた。
「ぐすっ 夢みたい。先生と結ばれるなんて。夢じゃないですよね」
「俺は、夢であってほしくない」
「ふつつかな妻ですが、よろしくお願いいたします」
指で涙を拭いながら話すアイリ。
この娘はかわいすぎる。
何があっても俺はアイリを守る――本気で誓った。
◆◇◆
結婚式の後は、俺がノルデン王として即位する戴冠式が引き続き開催された。
ルナから王冠を頭に載せられて、本当に王様になった気分。
これでノルデン王国の女性を率いて外敵と戦う使命を背負わされたわけだ。
これ以上儀式は必要ない
結婚披露宴をやっているような悠長な暇はないのだ。
早速、国家防衛の職責を果たさないといけない。
王宮の執務室という小部屋で軍議が開催される。
俺とアイリは椅子に座っているが、幹部の女性たちは壁ぎわに立っている。
歩兵隊長レオーナが壁に貼った地図の前で説明する。レオーナが軍の最高指揮官を務めているという。
レオーナは、やはりビキニアーマー。寒そうな素振りは全くない。俺は服着てて、暖炉のそばにいるのに寒いんだけど。
「我らのノルデン王国は、大陸から北に突き出た半島の国です」
指示棒でツンツンする部分にはアホ毛のように左巻きにカーブした半島がある。
「ノルデンは太陽の日差しが弱い。女性はみな雪のように真っ白。美女しかいないと言われるゆえんです」
「本当だよね」
これまで俺が目にした女性はみなびっくりするほど美しい人ばかり。
「古来よりノルデンの美女を犯そうと外敵が幾度も攻め寄せて来ましたが、ノルデン王の下に男たちが結束して防いできました。しかし、今や守ってくれる男はいません」
レオーナは緊迫感たっぷりに話し続ける。
「大陸の大部分を支配しているのが神聖ロマン帝国。帝国はかねてより領土拡大の野心を剥き出しにしています。我が国に男がいなくなったことを知れば、攻め込んで来るのは必定。そもそも呪いを使ったのは帝国に違いありません!」
神聖ロマン帝国と記入された領土は陸地の多くを占める。ノルデン王国の100倍はありそうだ。
俺は転生の際にこの世界の言語を習得したようで、読み書きもできる。
俺は世界史の教師だった。
元いた世界だと、中世くらいまで、戦争で負けた国の男は皆殺しにされ、女はレイプされた。
こっちの世界も事情は変わらないらしい。ノルデンの男は戦う前に殱滅されているから、より非道とも言える。
「もっとも……ノルデンの女性は誇り高い。敵に犯されるくらいなら自ら死を選びます」
レオーナは、ぎゅっと右拳を握る。
「まぢで?」
「当然です。まして愛する夫や恋人、息子、父親を殺されたのです。鬼畜の毒牙にかかるくらいなら死にます。せめて一矢報いてから」
レオーナはヒートアップしていく。
話が本当なら、ノルデンの他の女性たちもみな熱い人たちのようだ。
寒い北国だからこそ、心は熱いのかなと思う。
「陛下、ノルデンの女はみな死ぬ覚悟は出来ています。我らを使って下さい」
レオーナは悲壮な決意を述べた。
「で、こっちの戦力はどれくらいなの?」
俺としては犬死はさせたくない。
机の上で手を組み、端的に質問する。
「我が国の陸軍は歩兵の女性が300人だけ。海軍の水兵は男ばっかりでした。全員が死んでます。海軍の艦隊は50隻まるまる残っていますが、船員がゼロで操船不能です」
「……敵の戦力は?」
想像以上に戦力が少ない。俺は冷や汗が出た。
「神聖ロマン帝国には、大陸最強と名高い聖巨神騎士団をはじめ、多くの騎士団がいます。陸軍は騎兵、歩兵を合わせれば約30万。海軍は約500隻もの軍船があり、無敵艦隊と呼ばれています」
「なっ――」
あまりの戦力差に絶句。
「ただし、帝国は広大で、多くの国と国境を接しています。我がノルデン侵略に割ける戦力は、陸軍10万、海軍200隻と想定されます」
レオーナの説明に、ちょっとだけホッとする。依然として100倍ほどの敵を相手にしないといけないのだが。
俺は前世の知識で、古来から戦力的に劣勢な状況で、勝利したケースをいくつも覚えている。
勝利の秘訣は、各個撃破。
分散している敵の一つを選んで、こっちは全戦力を投入。
一時的に有利な状況を作り出す。
真っ先に叩くべきは、最初に攻めてくる敵部隊というのが定跡だ。
「帝国軍の侵入経路はどこが想定されるの?」
レオーナが指示棒で地図をツンツンする。
「帝国軍が真っ先に攻め寄せるのはノルデン隘路です」
半島の付け根の部分だ。
「隘路は崖に挟まれて幅10メルトルほど。我が国に陸路で入るにはここを通るしかありません」
「ふーん、狭い道だね。そこなら敵の大軍を防ぐのにもってこいの地形なんじゃ」
「ご慧眼、恐れ入ります」
レオーナが感心しているけど、誰でも思いつくでしょ……
レオーナはじめ歩兵隊300人の戦力強化が最優先課題だな。
「た、大変です」
メイドさんが一人、部屋に駆け込んできた。
「何事だ」
レオーナが振り返る。
「はあはあ、野盗の集団が現れたと知らせがありました」
メイドさんが息せき切って報告した。
「なろう」は競争が激しすぎるので、ブクマ、ご評価を賜りますと本当に励まされます。
よろしくお願いいたします。