28 没落した悪役令嬢1
◆◇◆
メリッサが去った後、アイリが寝室に入って来る。
心なしかアイリの視線が冷たいような。メリッサに搾り取られたからって、俺のせいじゃない。彼女はプロのテクニシャンだった……
「はぁ お疲れ様ですねぇ陛下」
「うう……もうダメだ」
これ以上、魔法使い隊員と閨をともにするのは勘弁してほしい。
「精力回復っ」
アイリが俺を指差して唱える。
「鬼だ。俺は鬼を妻にしていたんだ」
俺の叫びを無視して、アイリはくるりと扉の方を向く。
「あれ、催淫もかけないの?」
「次の子も催淫を使いますから」
アイリが背を向けたまま答える。
「まじ? また娼婦じゃないよね?」
俺の身がもたない。
「いいえ、魔法が得意ですけど、とっても清らかな子です。先生を取られるんじゃないかと私が一番心配になる子。ぐすっ」
アイリが微かに震えている。
泣いているのだ。
涙を俺に見せないようにしている。
今、アイリは俺を先生と呼んだ。
アイリが先生と呼ぶ時、アイリは心の底を明かしている。
俺を次の女の子に奪われちゃうんじゃうんじゃないかと本気で心配している。
「次の子って誰なの? まあ誰であっても俺の心が奪われることはないけどさ」
俺が愛するのは妻のアイリだけ。絶対に揺らぐはずはない。
「私のこっちの世界での幼馴染です。とっともいい子ですよ。神官学校の落ちこぼれだった私と違って、魔法学校の秀才」
アイリは俺に顔を見せずに扉を開けて出て行った。
アイリは俺より先に転生した。
幼い頃からノルデン王国でお姫様として育てられたという。
次の子とアイリは幼い頃に一緒に遊んだのだ。仲良しなようでいて、アイリは劣等感を抱いているっぽい。
嫉妬するくらいならアイリは、その子を閨に送らなきゃいいのに。
しかし我が国は人材不足。魔法学校の秀才なら当然、魔法使い隊に入ってもらわないといけない。確か魔法学校に通えた女の子は特別な才能のある子だけで、ほんのわずかしかいないと聞いたし。
アイリは王妃兼宰相代行として辛い立場だな。
だが俺を奪われるなんていうのは、アイリの杞憂だ。
俺を巡って、幼馴染が取り合いをするなんていう三角関係のラブコメにはならない。
ラブコメの男は優柔不断で、どっちの女の子にもいい顔して決められない。
しかし俺はアイリ一筋に決めているから大丈夫。
アイリが、男は心と体が別な生き物だと理解してくれるといいのだが。
コンコン
扉がノックされる。
「どうぞ」
俺はベッドの上に座って応える。
「失礼します」
扉が開いて、青いドレス姿の女の子が入って来た。
女の子は両手で裾をつまんでお辞儀。
「マルー・サザンと申します」
整った顔立ちを見て、俺は息を呑んだ。
アイリに匹敵する美少女。
ノルデン王国は美人ばっかりだが、アイリとマルーは群を抜いている。アイリは夫フィルターがかかっている部分があるかもしれない。
でもマルーは贔屓目なしに見て、美しい。
長いブロンドの髪を三つ編みにしているのが可愛らしい。
青い目をしているから、お人形のようだ。
年はアイリと同じ18才くらいだろう。
マルーは確かに男を惹きつける。
アイリが心配して、焼き餅焼くのもわかるわー
いかんいかん、俺が心を奪われてはいかん。
俺はぶんぶん頭を振る。
マルーがしずしずとベッドに歩み寄る。
「あ、あの……陛下、私をお召しになっていただき、ありがとうございます」
マルーはモジモジしている。
顔を赤くしているのがかわゆい。
嫌がられなくて、俺はホッとする。
「こちらこそありがとう。国を守るため、一緒に頑張ろうね」
「貴族として、国の危機に立ち向かうのは当然の務めです」
マルーが堂々とした口調で答える。
「お姫様のアイリの幼馴染だもんね。マルーは立派な家柄のお嬢様なんだね」
「いえ……我がサザン家は没落しています」
一転してマルーが悲しげになる。
「そ、そうなんだ」
気まずい。
「父が投資に失敗しまして……社交界に行くことができず、アイリとは疎遠になっていました」
「うう……気持ちはわかるよ」
俺は前世で、金がなくて人付き合いを年々しなくなっていた。なんかマルーに親近感が湧く。
「今日、久しぶりにアイリと会えて良かったです。これからまた仲良くしようねって」
「アイリはお姫様だけど国を率いないといけなくて大変なんだ。マルーに助けてもらえると俺もうれしいよ」
「はい。落ちぶれたとは言え、元上流階級。誇りを持って、アイリたちとともに戦います」
マルーは毅然としている。
ノルデンの女性が誇り高いというのは本当だな。
マルーはドレスのホックを外し始める。
あれ、指が震えている……
ホックを上手く外せなくて困っている。
マルーは言葉とは裏腹に、内心では怯えているようだ。
きっと閨をともにするのは初めてなんだろう。
「す、すみません。お待たせして」
「いいよいいよ」
時間がかかってホックを外し終えたマルー。ドレスを恥ずかしそうにちょとずつ脱ぐ。
俺は横目で見ていた。
下着姿のマルー。
胸が盛り上がっている。
Hカップだというアイリよりも大きそう。てことはIカップだ。
おっぱいの大きさでもアイリはマルーに劣等感を抱いているのかもしれない。
アイリとマルーは仲良くしようって言い合っても、女心って複雑なんだろうな。
「し、失礼いたします」
マルーは下着姿でベッドに入ってくる。顔が真っ赤だ。
「本当にいいのかい。俺と閨をともにして」
俺は色々と申し訳なさでいっぱいになっている。
うぶなマルーを抱くことは気が引ける。
あと、アイリとの関係をややこしくしないためにはマルーと閨をともにしない方がいいのではと思える。
「もちろんですよ、陛下」
マルーが笑顔を作って見せる。
「困ったなぁ」
俺は頭を掻く。
「陛下が気に病むことはありませんよ。元より私は王様の側室になるつもりでいましたから」
「ええっそうなの!?」
「はい。父は私を側室として王様に差し出すつもりでした。私が王様の子を産めば、サザン家を再興できます」
「でも俺は入婿だよ」
俺との間にできた子はノルデン王家の血を引かない。
「サザン家はノルデン王家の親戚。王家を引き継ぐこともありえる名家です。元名家ですけど」
マルーがクスリと笑う。
「ふふ、ちゃっかり王家を乗っ取る策謀をしてたんだ」
俺はサザン家の父娘のたくましさに笑ってしまう。
「ですから陛下はご遠慮なく私を好きにして下さいね」
マルーは俺に背徳を勧めてくる。
おずおずと俺の右腕に抱きついて、巨乳で挟む。
処女でも男がされてうれしいことは知っているみたいだ。
落ち着け俺。
マルーが裏切り者なんじゃないか、疑ってみないといけない。
魔法使い隊で閨に送られる順番は、ルナの見立てで魔力の潜在力が高い順番。
非常時の我が国は、身分や家柄にとらわれない実力主義だ。
強くなれる可能性の高い女性に優先的に、俺が能力を授与する方針を徹底している。
田舎娘のゾフィー、娼婦のメリッサの方が、マルーより魔法使いとしての潜在力は上ということになる。
ただし裏切り者は正体を隠しているだろうから、真の実力はわからない。
マルーは落ちぶれたとは言え、元上流階級。
ぶっちゃけ下賤の者であるゾフィーとメリッサの後塵を拝するのは嫌なはずだ。
でもマルーは表向き文句を言わない。
国を守るためには仕方ないとわかってくれているのだろう。
人柄はとてもいい。
王国を乗っ取る野心を抱いていたマルーは、怪しいと言えば怪しい。
一方で貴族としての誇りがあり、国を守ろうという愛国者でもある。
アイリがヒロインとすれば、マルーは悪役令嬢的な立ち位置になるんだけど……マルーは良い子そう。
結局、わかんないんだよなー
俺は投げ出した。
女の子に裸になってもらっても、肌に”私は裏切り者ですっ”て書いてあるわけじゃない。何の証拠もないから、全ては憶測。
「ふふ、陛下ぁ 私は側室になって王様の寵愛を得られるようにエッチなことを勉強しているんですよ。催淫」
マルーが唐突に俺に指を向けて唱える。
俺はドキンドキンとものすごい鼓動がしてきて、かあああああっと体が熱くなる。
アイリの催淫よりも、ずっと強力だ。さっきメリッサにくらったやつ並み。
「逃げろ。俺が俺であるうちに――」
「ふふ陛下、何をおっしゃってるんです。ちゅっ」




