27 娼婦に食べられる
◆◇◆
ゾフィーが退室して、魔法使い隊員の2人目が入ってくる。
透け透けの薄い紫のワンピース姿のスレンダーな美人。ヒールを履いてて、カツカツと音がする。
蠱惑的な香水の匂いが漂って来た。
20才くらいで、化粧をした妖艶な感じのする女性だ。
「わーい、久しぶりの男だ」
女性はベッドのそばにやって来て、ちろっと舌を出した。俺を見て舌舐めずりしたみたい。
「あ、あなたは……」
俺は蛇に睨まれた蛙の気分でちょっと怯えが入る。
「メリッサでーす。源氏名だけど」
「源氏名?」
「あたし、娼婦。うっふーん」
投げキスをされた。
「いいっ」
「ふふん。王都で一番売れっ子のあたしが、たぁっぷりサービスしてあげるからね」
メリッサがワンピースを脱ぐ。
美乳が露わになって、俺は目を逸らした。
身売りしようとしていたゾフィーに俺は心を痛めた。
なのに、娼婦のメリッサはあっけらかんとしている。
メリッサがベッドの中に入って来る。
「まっ待って。ちょっとお話しようよ」
俺はメリッサを遮る。
プロの女性が突然現れると、俺は心の準備ってものができてない。
「えー 早く食べちゃいたいのにぃ」
国中の女性が魔法適正試験を受けている。娼婦も例外じゃない。で、メリッサは適正ありってことで魔法使い隊に入ることになったのだ。
さらなる魔法能力向上のため、俺と閨をともにさせられる。
俺は差別が嫌いだ。娼婦だからってメリッサに偏見を持ちたくはない。
国難を乗り越えるために、力を合わせたい。できれば体だけの関係じゃなくて、ちょっとは心を通わせたいのだ。
「君は身売りされたんだよね」
俺は王として、メリッサの事情を知っておきたいということもある。
「身売り? あはは、してないしてない。あたしは娼婦になりたくてなったのよ」
「ほんとに? そんなことあるの?」
「うん。あたし、いっぱいエッチなことがしたかったんだ。結婚して、夫だけなんてまっぴらだから家出したの」
天性のビッチだ。
世の中にはメリッサみたいな人もいるんだな。
すごく社会勉強になる。
「帝国軍が攻めてくるんでしょ。戦いに負けて、あたしが敵の兵士に犯されるのが、めっちゃ楽しみ。想像するだけで、あーってなっちゃう」
「なななななんてことを言うんですか!? あなたは!?」
他の女の子はみんな辱めを受けないよう戦おうって言っているのに。
メリッサは引くほどの変態だ。
この人が裏切り者なのか。
……いや、んなわけないよな。
男が大好きのメリッサが、ノルデンの男を全滅させるはずがない。
俺はすぐに考え直した。
「さ、やろーよ」
メリッサが俺にしな垂れかかってくる。
「待って待って……あ、あのさ、メリッサさんは病気を持ってないよね」
俺はおずおずと尋ねる。
すごく失礼なことを言っているとは思う。
「はあ? あたしは元気だよ」
「だから、その……メリッサさんは性病じゃないよね」
俺は多くの女性と閨をともにしないといけない。他の女性にうつさないよう、性病予防はおざなりにできない事項だ。
ハーレムは気楽に考えられることじゃない。王様って、責任重大なんだよ。
「性病? 何それ」
「いやその……エッチなことしてるうちにお客さんから病気をうつされることがあるんじゃない」
俺の問い掛けに、メリッサは首を傾げる。
「んー 王様は一体なにを言っているの? 病気をうつされることなんかないよ」
「ほんとに? メリッサさんは大丈夫でも他の娼婦の子は?」
「みんな病気になんかならないよ」
即答するメリッサの口ぶりには嘘を感じられない。
「娼婦で病気になった子がいない……性病がないのか……まぢで……そんなことがありえるのかよ……」
俺は腕組みして考え込む。
ここは異世界だから病原菌の種類が違っていることはありえる。
単にそういうことかもしれないが……
あ、そっか。
転生前に世界史教師だった俺は、ハッとする。
元いた世界の怖い性病って、大昔は存在しなかった。
梅毒はコロンブスがアメリカ大陸に行って持ち帰ったもの。
エイズは数十年前にアフリカの奥地を切り開いた時に猿から人間にうつったという。
つまり中世には、怖い性病は存在しなかった。
こっちの世界は遅れているから、性病は出現していないのだ。
無論、ペストとか怖い病気は中世ヨーロッパにあった。
だが、ここノルデン王国は冬の間、氷に閉ざされる。何ヶ月も外国と往来がない。
しかも男が死滅して、人口が半減している。感染症はあまり心配しなくてよさそうだ。
あと軽い病気は、治癒魔法で直せるのかもしれない。
娼婦は汚れているとか感じるのは、やはり俺の偏見。
深く反省するべきだな。
それに……メリッサが娼婦であることは、アイリが把握しているはず。メリッサを寝室に送り込むことを許可したからには、アイリも大丈夫と思っているのだろう。
「さっきから何わけわかんないことゆってんのさ。あたしと遊ぼうよ」
メリッサが俺に右手の人差し指を向けてくる。
「ん、何?」
「ふふふ、催淫」
メリッサが唱えると、俺は額を射抜かれたみたいに衝撃を受けた。
「な――うおおぉ」
俺はドキンドキンとものすごい鼓動がしてきて、うめく。
アイリの催淫よりも、ずっと強力だ。
メリッサは元から催淫が使えるんだ。
娼婦として持っていると便利な能力。催淫を客の男に掛けてたんだ。客をメリッサにぞっこんにさせて、しかもメリッサ自身が愉しむために。
メリッサは魔法適正があって、魔法使い隊の一員。アイリよりも魔力が高いから、メリッサの催淫の方が威力があるのだ。
俺は薄れていく意識の中で理解した。
ああ……俺が俺でなくなっていく……
◆◇◆
俺は、はっきりと思い出せないが、メリッサと獣のように求め合っていたようだ。
催淫のせいとはいえ、アイリに対して罪悪感でいっぱいだ。
アイリは寝室を覗きに来なかった。メリッサ自身が催淫を使うと言っていたのかもしれない。アイリに見られなかったのが、せめてもの救いである。
俺はベッドで茫然と三角座りしている。
右隣でメリッサがうつ伏せになって、はあはあ息をしている。
「王様が上手すぎるよぅ。お客さんに、こんなにいっぱいイカされたの初めて♡」
商売女のお世辞だろう。
でも上気したメリッサの様子からすると、嘘には見えないような……
「新しい能力【全員魅了】を獲得しました。閨の相手または自分に授与してください。考慮時間は3分です。時間を過ぎた場合は自分に授与されます」
女の声が俺の頭の中に響く。
【全員魅了】は、娼婦のメリッサらしい人を幻惑する能力だ。
前世の俺は、休日はゲームばっかりやっていた。
RPGをわりとやったから、【全員魅了】についてはどんな能力か想像がつく。
敵グループ全体を魅了された状態にするのだ。
魅了された者は、仲間を攻撃するようになる。でもってこっちに回復魔法をかけたり、こっちを助けてくれるようになる。
敵が一時的に寝返るわけで、敵戦力は激減、こっちがその分強くなる。
魅了が得意なモンスターによって、パーティが何度も全滅した。
とても厄介な能力である。
成功率と、魅了を同時に何人に掛けられるのかわからないが、仮に100人の敵に70%の確率だとすると……
100人に全員魅了を掛けたら、70人が寝返る。魅了されなかった残りの30人をフルボッコ。
70人が魅了状態から覚める。
また全員魅了を掛けると49人が寝返る。残り21人をフルボッコに……
繰り返すことで、どんどん敵を減らしていき、いずれ全滅させることができてしまう。
恐るべき能力だ。
チートスキルと言ってもいい。
本当にメリッサに授与して大丈夫なのか……
メリッサが裏切って、歩兵隊に全員魅了を使ったら、大変なことになる。歩兵隊が同士討ちを始めて、収集の着かない大混乱に陥る。
帝国軍も攻めてくるから、挟み撃ちにあって全滅してしまう。
とても迷うが、俺は決断した。
「メリッサに授与」と心の中で念じる。
メリッサはかなり怪しいが、裏切り者ではない。
裏切り者だったら、怪しまれないようにするものだろう。
裏の裏をかくということはありえるが、考えすぎだ。
念のため俺がもらっておくということを考えないでもない……
だが結局、俺と閨をともにした女性に何も授与しないのは悪い気がして、メリッサに与えてしまう。
「あたしに【全員魅了】を授与って……」
メリッサが身を起こす。
「うん。メリッサさんの新しい能力だよ」
「やったー 敵の男たちに使えばいいのね」
「そうそう」
俺はメリッサの言うことに嬉しくなる。
裏切って、味方に使わないでほしい。
「敵の男たちが群れで、あたしを犯しに来るのね。きゃー」
悶えているメリッサ。
ちょっと違う気がするけど……
俺はメリッサにダメ出ししないことにした。
メリッサが使う全員魅了は、普通と効果が違っていて、掛けられた敵はメリッサにエロいことをしてくるかもしれない。
敵に使ってくれるならいい。メリッサに群がって我を忘れている敵を、俺たちが殲滅していけばいいのだ。
メリッサは、うきうきしながら部屋を出て行く。
うーん……
メリッサが裏切り者だったんじゃないかという一抹の不安がよぎる。
ルナに裏切り者を見つけろと言われたけど……
裏切り者を見抜くなんて俺には多分、無理だ。
俺は女性と接した経験が少ない。深い関係になったと言えるのはアイリくらいだ。
何より催淫で狂わされているから、まともな判断なんかできっこない。
できるだけ気をつけるけど、裏切り者を見つけられないだろう。
後で大変なことになるかもしれない。




