21 レオーナに尊敬される
◆◇◆
翌日は、執務室でまた軍議。
レオーナが壁にノルデン隘路の詳細な地図を張り出して説明する。
神聖ロマン帝国からノルデン王国に続く街道がある。街道は平野を貫いているが、ノルデン隘路で左右を切り立った崖に挟まれる。
敵は狭い道を通っていくしかない。
道が狭いという地形を生かした戦いといえば……
前世の2500年ほど前にあったギリシャのテルモピュライの戦いというのを思い出す。
ペルシア帝国軍約20万を、わずか300人のスパルタ兵が迎え撃った。
テルモピュライは幅10メートルほどの隘路。大軍でも一度に攻め寄せる数は限られる。
スパルタはスパルタ式の語源になるくらい、過酷な訓練で、兵士を一騎当千に鍛える。
テルモピュライでスパルタ兵は降り注ぐ矢を盾で防ぎつつ、槍や剣で暴れまくる。
3日間、守り通したのだ。
結局、スパルタ兵の背後に回る抜け道をペルシア帝国軍が見つける。スパルタ兵は前後を挟み撃ちされると、さすがに防ぎ切れず、全滅した。
だがスパルタ兵が貴重な時間を稼いだおかげで、味方が戦闘準備を整えることができた。また300人の壮絶な最期は、味方の士気を最高に高めた。
奇しくも我が国の女性歩兵は300人。
彼女たちとは閨をともにして、どんどん物理攻撃系能力を授与しているところだ。
彼女たちにが無双してくれるんじゃないかな。
だがレオーナは楽観していない。
「隘路の麓には、歩兵隊300人が詰めます。ですが歩兵だけでは敵の攻撃を防げません。帝国軍には魔法使いが千人もいて、雨のように魔法を降らせてきますから。盾で防ぎ切れるものじゃありません」
「敵の魔法使いに対抗する必要があるんだね。味方の魔法使いに戦ってもらうのは?」
俺は腕組みする。
「しかし、陛下。我が国に魔法使いは、ルナちゃんとあと数名しかいませんよっ」
アイリが割り込んでくる。
「う……いくら百年に一人の天才でも無理かな」
俺は恐る恐るルナの方を見る。
「無理」
あっさりした答えがルナから帰ってくる。
ほぼ一人で、千人と戦えなんて、ひどいパワハラだよな。
「ええと、今、魔法使いの適正試験をやってるんだよね。魔法使いになれそうな子は何人くらいいそう?」
ゴーレムを作る土系統魔法の使い手を見つけるため、魔力の潜在力の高い子を選抜している。
「50人くらい」
「おお、結構いる。その子たちに能力授与していくから、戦えないかな?」
話の流れで魔法使い候補の女の子に能力授与するって言っちゃった。50人も閨をともにしないといけない。後悔が押し寄せるが、気にしている素振りは見せられない。
「戦えるかも」
ルナの答えはいつも簡潔。
俺がどれほどの能力を与えられるかは未知数なんだけど、ルナが戦えると言ってくれるなら希望はあるんじゃないかな。
「ノルデン隘路は、街道の両側が崖になってるんでしょ。崖の上に味方の魔法使いを配置だ」
俺は地図を指差して告げる。
地上では歩兵隊が敵騎士団と激突する。
歩兵隊の頭上を超えて、味方の魔法使いが敵に向かって魔法を放ってやる。
「魔法使いに支援してもらえれば歩兵隊は目の前の戦いに専念できます。あとは回復役ですね」
レオーナが頷きながら、次の課題を示してくる。
「私も神官を率いますっ」
アイリが唐突にしゃしゃり出る。
「神官?」
「回復魔法を使える神官の子が20人くらいいます。私も小回復だけは使えますし」
神官は、僧侶みたいな役割ってことだろう。
「回復役は確かにいるよな……」
俺は顎に右手を当てて考える。
歩兵隊はどんどん負傷していく。魔法使いだって、敵の魔法に被弾する。神官が背後に控えていて回復してくれたら、戦列に復帰できる。
だがアイリを危険にさらすことになる……
「みんなが命がけの戦いをしている時に、私だけ安全なところにいるわけにはいきませんっ」
アイリが真剣な目で訴えてくる。
「わかった。すまないけど、アイリが神官隊を率いてくれ」
俺は頭を下げて頼んだ。
「王妃として当然の務めですっ」
アイリはうれしそう。
「よし、まとめるぞ。ノルデン隘路の布陣は、地上に歩兵隊300、崖上に魔法使い隊50。背後に神官隊20だ。俺は魔法使い隊の中にいて、全体の指揮を取る」
俺は崖上にいた方が全体を見渡せる。
戦士が前衛で、魔法使いや回復術師が後衛という常識的な布陣。
「街道には横に茂みや岩陰のある場所もあります。そこに伏兵を配置するのはどうでしょうか」
レオーナが俺に確認してくる。
伏兵ね……
うーん。
ぶっちゃけ俺は伏兵の効果は怪しいと思っている。ヨーロッパの戦史で、伏兵が活躍したという実話をあまり聞かない。
伏兵が活躍するのは、フィクションの世界だと思う。現実に、敵の意表を突くのは難しい。それに伏兵を使うとこっちの戦力が分散するわけで、各個撃破されかねない。
アレクサンダー大王、ナポレオンなど、ヨーロッパの天才軍略家の実戦から学ぶ方が、はるかに合理的で再現性のある知見が得られるというものだ。彼らの戦略はやはり、味方を集中させて敵にぶつけるというものだ。
「伏兵はなしだ。全戦力をノルデン隘路正面の一点に集中させる。向かって来る敵をひたすらみんなで潰すんだ」
俺は極めて重大な決断を下す。
不安にかられると、色んな作戦に手を出したくなるものだ。だがどの作戦も中途半端に終わるだけ。
たった一つの作戦に全てを賭けるのは勇気がいる。
歩兵隊300人を中核として、帝国軍およそ10万を撃退する。
相手はほぼ全員が男なのに対して、こっちは俺以外全員が女子。
ぱっと見には絶望的な戦力差。
ただし狭い街道で真正面に向き合う敵の数は、こちらとほぼ同数。崖の高みから魔法使いが攻撃できる分、こっちの方がわずかに有利なくらいなはずだ。有利性を最大限に活かす。
「さ、さすがは陛下です。腹の座り方が違います」
レオーナが驚いたようで、尊敬の眼差しを向けてくれる。
一つの作戦に全てを賭けるという決断の重大性をレオーナはわかってくれたみたいだ。師団長だったというレオーナの父と俺を重ねているのかもしれない。
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