19 レオーナとお風呂1
◆◇◆
夕方、軍議と政務を終えた俺はお風呂に行く。
王宮のお風呂はなんと温泉だ。
ノルデン王国は山がちな国だから、あちこちで温泉が湧くらしい。王宮の敷地にも源泉があってお湯を引き込んでいる。
寒い冬にあって、温泉は国民のなによりの楽しみだと言う。
俺も気持ちはよくわかる。
大理石張りの、広くて、湯煙の立ち込める大浴場に裸で入る。
お風呂の時間は一人で過ごすことにしている。
王様の俺は、ほとんどの時間を女性たちと過ごさないといけない。
女性と閨をともにするのは、能力を授与するための仕事と化しているからな。
男にとって、毎晩10人くらいの美女とエッチなことができるっていうのは夢のようだと思っていた。だが仕事として、こなさないといけないのは楽しくない。
女の子たちが「陛下、上手すぎる♡」とか「彼よりずっと上手♡」と能力を授与された以上に喜んでくれているけどさ……
俺は死んだ男たちから女の子を寝取った感じで罪悪感でいっぱいになる。
女の子と接するのがしんどくなってきてるから、せめてお風呂だけは一人にしてもらう。
いつも世話してくれているメイドさんたちが残念そうにしているが。
メイドさんたちにお風呂でご奉仕してもらうのはいつか心に余裕ができた時かな。
今は軍事に内政、対処せねばならん課題が多すぎる。
王様がこれほどブラックな仕事とは思わなかった。前世でブラック労働に慣れてたから、ギリギリこなせると言うものだ。
俺は湯桶に汲んだお湯でさっと体を洗う。
床がつるつる滑るのでゆっくり歩いて、湯舟に足を入れる。
ちょうど良さげな温度だ。
湯舟に浸かる。
「おおおおおおおおぉ」
体に温もりが染み渡る。
お風呂はいい。身も心も癒される。
俺は手ですくったお湯で顔を洗う。
窓の外を見ると吹雪いている。
露天風呂もあるが、外は超寒そうだ。
冬の間は室内風呂だけだな。
春になって、露天風呂に入れるのが楽しみだ。
浴場内を見渡す。
スーパー銭湯くらいの広さを俺が独り占め。
王様にしてもらって良かったと思えるひと時。
とはいえ春になれば戦争だ。
負けたら王様でいられなくなるし、露天風呂も入れない。
どんな手段を使ってでも、何としても勝たねば。
俺の地位も大事だし、アイリら女性たちを守らないといけないのだ。
「し、失礼します」
背後で女性の声。
扉が開く音がする。
振り返るけど、浴室中が湯煙に満たされてて誰かわからない。
メイドさんが気を利かせてご奉仕してくれようと言うのかな。
「あ、すみませんけど、一人にしてもらえないでしょうか」
俺は感じ悪く思われないように穏やかな声を掛ける。
近づいて来て、湯煙の中から姿を現したのは――
「陛下、私です」
歩兵隊長レオーナだ。
全裸で、胸と腰のあたりを手で隠している。
恥ずかしそうに顔を背けている。
「な、な、な、なんで、レオーナさんが」
俺は湯舟の中を後ずさる。
レオーナのおっきな胸がエロすぎるから見ないようにした。
混乱する頭を働かせて、状況を理解しようとする。
今晩、最初に閨をともにする相手はレオーナだ。
まさか待ちきれなかったとかなのか。
レオーナと閨をともにするのは2回目。最強の戦士であるレオーナには優先的に能力を授与する方針だ。
俺は前世で蔓延していた「出る杭は打たれる」という考え方が大嫌い。
強い人にはさらに強くなってもらう。突き抜けた能力の持ち主が戦いを勝利に導いてくれると思う。
「わ、私ができる陛下へのご奉仕は、お背中をお流しするくらいしかなくて……」
顔を真っ赤にして呟くレオーナ。
「あはは、いいよいいよ、気を遣ってくれなくても」
俺は遠慮する。レオーナの恥ずかしさが伝わって来て、俺も照れる。
「私は料理とか女らしいことは何もできません。何か私にできることはないかと副長のサーシャに相談したんです」
レオーナなりに真剣に考えてくれたというのは伝わってくる。
サーシャが、俺の背中を流せというアドバイスをしたんだな……全裸である必要はないと思うんだが。エロい未亡人のサーシャはウブなところのあるレオーナをだましている気がする。
「ええと、ありがとう。じゃ、じゃ、とりあえずお風呂に一緒に入ろうよ」
俺はレオーナを追い返すのは悪い気がした。
レオーナに背を向けて、湯舟の壁にもたれかかって座る。
「ま、まさか陛下と一緒にお風呂に入らせていただけるなんて♡」
なぜかすごく喜ばれている。俺ってそんな人気なの?
ちゃぽ
レオーナが湯舟に足を差し入れてくる。
めちゃくちゃ緊張するな。なんか話さなくちゃ。
「レオーナは強いよね。どうやったらそんな強くなれるの」
「私は師団長だった父が憧れでした。父みたく強くなろうと修練したんです」
レオーナは嬉しそうに即答してくれる。聞いてもらいたかったことらしい。
「お父さんも強かったんだね」
「はい。父は指揮官でしたが、必要と判断した時は先頭に立って戦います。まさに一騎当千の武勇。部下は父を尊敬して、父となら死ぬ覚悟ができていました」
「そっか。さぞや厳しい修練を親子でしたんだろうね」
「今くらいの冬は父と雪山にこもっていました」
「いいい……」
「粗末なテントで寒さを凌ぎ、襲い来る熊や狼と戦います」
レオーナの修練は想像を絶していた。ガチで死ぬレベル。
「よく生きて帰れたね……」
「私が幼い頃は父の足を引っ張るばかりでした。狼の群に襲われた時、立ちすくんで泣いている私を父は必死に守ってくれました。修羅のように狼を斬っていく父の姿は忘れられませんね」
レオーナは死んだ父親を思い出して少し寂しそう。
「ごめん。つらいことを話させて」
「いえ。大丈夫です。父の、国を守るという志は私の心の中でしっかり息づいていますから」
「俺はレオーナの子供の頃を聞けて良かったよ」
最強の戦士も、怖くて震えていた子供時代があったと聞くと微笑ましい。
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