15 バカとハサミは使いよう
「皇帝陛下が飽きたら、オレ様に譲ってくれるそうだ。美の化身たるオレ様の子を産めるとは幸運な女だなァ たくさん孕ませてやる。クハハハハ」
高笑いするバッカス。俺からアイリを寝取ってやるのが楽しみなようだ。
「私は嫌ですっ バッカス君を斬りましょうっ」
アイリが叫ぶ。
「そうです、陛下。使者を切り捨てて、我らの徹底抗戦の意を示すのです」
レオーナがバッカスへにじり寄る。
俺の許可があれば、バッカスを両断する構え。
「無駄だ。堕天使たるオレ様はリープで飛翔できるのだぞ。ビキニ女が斬る前に帝国に戻れるわ、クク」
バッカスは余裕の笑み。
中途半端に魔法が使えるというバッカスは、ちゃっかり逃げ道を確保している。ムカつく奴だ。
「魔法障壁を張った。リープは使えない」
背後でルナの声。
「なっ」
バッカスが驚愕して、空を見上げる。
中庭の上が、虹色の膜に覆われている。バッカスのリープは膜を通過できなくなったのだろう。
「ふ、これで逃げられん。陛下、こやつを斬るご許可を。あるいは拷問しましょう。こやつは呪いの真相を知っているはず。吐くまで痛めつけて」
「ま、待ってくれ」
バッカスが震えながら両手でレオーナを制止する。
顔が青ざめ、意味不明のセリフを言う余裕を無くしている。
古来より降伏勧告の使者を斬り捨てて士気を高める例は多い。
だが……使者を殺せば、敵は怒る。拷問を加えるのは魅力的だが、やはり敵を怒らせる。
後でやっぱり降伏しますと言っても許されない。
国民を後戻りできない状況に追い込んで、結束を固めるには有効。
背水の陣を強いて、全員に死力を振り絞らせることができる。
でも俺は精神論が好きじゃない。精神力に期待するってのは愚の骨頂だと思う。
冷徹に状況を見極め、勝てなければ降伏する。苦渋の決断を下すのも王様の務めである。
俺は、すうっと息を吸った。バッカスに告げる。
「帰って、皇帝に伝えてくれ。ノルデン王国は降伏しない。徹底抗戦するとな」
降伏はしないが、この場でバッカスを斬り捨てることもしない。これが今の最善手だ。
「ふううぅ」
バッカスが脱力する。
命が助かるとわかって、心底ほっとしたようだ。
「なぜです、陛下。なぜこやつを斬り捨てないのです」
レオーナは俺の決定に不服そう。
「ルナ、魔法障壁を解除してくれ」
俺はレオーナを無視。
「わかった」
ルナは素直に従ってくれる。
頭上の虹色の膜が消えていく。
「ふっ さすがはオカマの王様だぜ。リープ」
バッカスは逃げ道が再び閉ざされるのを恐れたようで、そそくさと消える。
「陛下、なぜバッカスを逃したのですか」
レオーナがムカつきを俺にぶつけてくる。
降伏の選択肢を残しておきたいのが、俺の本音だ。
だがレオーナに正直に言うと、俺を軽蔑するだろう。
言い方を工夫した方が良さそうだな。
俺はニヤリとして見せた。
「ノルデン王は腰抜けだと思わせるためさ。俺は使者を斬って気勢を上げることをしない軟弱者だと思わせる」
「なんと、陛下には策略がおありだったのですね!」
「うん。帝国を油断させるためだよ。使者を生かして帰したのは、後で降伏するつもりだと思うだろうね」
「なるほど。帝国が戦争準備の手を抜きますね」
レオーナが感心する。
物は言いようだ。俺は弱腰じゃなく、謀略に長けているとレオーナに印象づけられた。
バッカスが俺がショボい男だと帝国に帰って言いふらせばいい。
アイリとキスして見せたからな。俺のことをめちゃくちゃ悪く言うに決まっている。
本当に帝国を油断させる効果があるかもしれない。そうなったらシメシメだ。
バカとハサミは使いよう……前世のことわざを思い出す。
前世の記憶はとにかく役に立つな。
「陛下には深いお考えがあったというのに……失礼致しました」
レオーナが頭を下げる。
「わかってくれて、うれしいよ」
以前ちょっとツンとしてたレオーナだけど、閨をともにしてからは俺の言うことを素直に聞いてくれる。
「なんか疲れましたね。部屋に戻ってティータイムにしましょう」
アイリが促す。
「ああ、疲れる奴だな、バッカスは」
俺はアイリの右隣を歩く。
「昔から私の気を引こうとしてくるんです。変な服着て、わけわかんないこと言って。正直ウザいだけなんですけど、はぁ」
ため息をつくアイリ。
「ほんとイタい奴だよな。アイリがまともな感覚の持ち主で俺はほっとしてるよ」
世の中には、バッカスみたいな男がいいと言うバカ女もいる。
「私が好きなのは陛下だけですっ」
アイリが、ぴとっと俺にくっついて来た。
かわゆい。
俺たちは執務室に戻る。
メイドさん達にお茶とお菓子を持って来てもらう。
バッカスに邪魔されてしまったのを、気を取り直して政務再開だ。
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