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12 艦隊決戦の準備もしないと

 ◆◇◆


 翌日の午前中、俺は港に歩いてやって来た。

 雪が降り積もっている地面をブーツで踏みしめて歩く。ちらほらと粉雪が舞っている。


 めちゃくちゃ寒い。

 気温はマイナス20度くらいだろう。

 コート着て帽子をかぶり、マフラーしているけど、北風が吹き付けて、ぶるっとなる。


「寝不足が吹っ飛ぶな」

 俺は隣で歩くアイリに話しかける。

 アイリも俺同様にズボン履いて、コートにマフラーと厚着している。


「昨晩はお疲れ様でした」

「つらかった……」


 未亡人のサーシャはじめ女性歩兵たちは皆、愛する男性を失っている。身の上話を聞いていると心が折れそうになった。

 全員に能力を授与できたし、「陛下♡ 気持ち良かったです♡ 恋人を忘れられそうです♡」と喜んでくれたことがせめてもの救いだ。


 俺の周りにはレオーナ、ルナ、キキィも付き従う。我が国の最高幹部たちだ。

 港に来たのは海戦について、俺に説明するためである。


 レオーナはいつもどおりビキニアーマー。ルナは灰色のローブ。この二人は寒さを感じないらしい。ルナは体を温める魔法を使っているのかな。キキィはセーターで着ぶくれして、丸々としている。毛糸の帽子がかわいらしい。


 王都に隣接するノルデン湾はコの字型だ。

 コの縦棒の奥に王都がある。


「帝国艦隊はノルデン湾に必ず侵入してきまーす。我が国に大した軍備がないと思っていますからね。海上封鎖なんて時間がかかる作戦はやらずに、とっとと上陸して占領しようとするはずです」

 キキィが湾の彼方を指さして話す。


 海軍軍人はほとんどが男だった。男がみんな死んで、海戦に詳しい者はほぼいなくなってしまった。


 レオーナは陸戦のプロではあるが、海戦には詳しくないという。

 宰相のキキィが一番、海戦について詳しいらしい。


「ノルデン王国の軍船はあそこに停泊してまーす」

 キキィが港にある船の群れを指さす。


 木製の船が50隻。

 海が流氷で覆われているので停泊というよりも、動けなくなっている感じだ。


 船の横腹には四角の穴がたくさん開けられて、(かい)が出ている。櫂は流氷で壊されないよう上に向けて固定されている。


「この世界の軍船は、俺の転生前の世界でガレー船と呼ばれていたものなんだな」


 船の乗組員が櫂を()いで進むのだ。

 古代から中世ヨーロッパでは、帆船よりもガレー船が使われていた。


 帆船は風がないと進まないが、ガレー船は自力で進める。

 ガレー船は機動力に優れているので、船の先端を敵の船の横腹にぶつけて穴を開ける。それが海での戦い方だった。


 漕ぎ手は奴隷の男。

 奴隷頭に鞭打たれて、漕がされる。


「前にもお話しましたが、国の男はみんな死んでしまったので、軍船の漕ぎ手はいません。宝の持ち腐れ状態です」


 春になれば、海の氷が溶けて、ガレー船を動かせるようになる。

 だが……


「女性に重い櫂を漕がせられれないよね、はぁ」

 俺は深くため息。


 それに船が沈没したら、乗ってた女の子がみんな死んでしまう。


「ゴーレムに漕がせたら?」

 ルナがぽつり。

 

 俺は聞き逃さなかった。

「それだっ」


 全員がルナの方を向く。


「ゴーレムだったら従順だし、疲れを感じないからうってつけですねっ」

 アイリが息を白くしながら話す。


「全くだ。ガレー船の奴隷は裏切る心配があるからな」

 俺は腕組みしてうなずく。


「すごーい。漕ぎ手問題を一発で解決しちゃうなんてー」

 キキィが感嘆。


「ルナはゴーレムを作れるんだな。さすがだ」

 レオーナも感心する。


「作れない」

 ルナがまたぽつり。


「は…………」

 

 ひゅうううううううと一段と寒い風が吹き抜けていった。


「自分で言っといて、作れないのー?」

 キキィが呆れる。


「私は土系統の魔法が苦手」

 ルナは平然としている。私は何も悪くないといった感じ。


「じゃあ、ゴーレムを作れる魔法使いはいないってこと……?」

 俺はドキドキしてルナに尋ねる。

 いなかったらぬか喜びになってしまう。


「いない……今のところは」

「む、探さないといけないってことか。あるいは俺が能力を獲得して、授与する……」

 言うのがちょっと恥ずかしい。女性と閨をともにしないといけないから。

 しかし、能力授与でゴーレムを作り出す能力が偶然獲得できるとは思いがたい。


 今のところ閨をともにした女性の傾向からすると……

 アイリは補助系魔法、歩兵隊は物理攻撃系……


 相手の女性の属性で決まるのだ。

 やはり、ある程度は土系統魔法が使える女の子じゃないと。


「どうやって探すのよー 時間ないのよー」

 キキィはキレぎみ。


「幼年魔法学校の試験を国民に受けてもらうといい。適正のあるなしがわかる」

 ルナはぼそっと答えてくれた。


「埋もれている才能を見つけるってことだね。試験はルナに任せていいかい。適正のある人に……俺が能力を授与していくから」


「わかった」

 ルナは簡潔に答えてくれる。


「まったくー 間に合うのかしらねー」

 キキィは不安でたまらないようだ。


 口には出さないが、俺もアイリもレオーナも同じく不安でいっぱい。

 ルナが落ち着きすぎているから、心配になる。


「ルナに任せるしかないよ。魔法のことはルナが一番詳しいんだ」

 俺はキキィをなだめておく。


 俺は適材適所を心がけたい。

 あと、責任者間の調整が王の務めだなあと思う。


「うーん、でもゴーレムを作れるようになったら……本当にすごいことになるかも。鉱山労働もゴーレムにやらせればいいんですよー 鉱山の再興も成し遂げられちゃいまーす」

 キキィが声を弾ませた。


「おお、確かにそうだ」

 きつい労働は全部ゴーレムにやらせちゃう。奴隷を買ってこなくてよくなる。奴隷を酷使することに心が傷まないし、奴隷に反乱を起こされる心配もない。


 国民は労働から解放され、遊んで暮らせる。

 ノルデン王国が楽園となるのだ。


 俺は全ての責務を免れて、アイリとスローライフを送りたい。

 

 ゴーレムに労働をさせるのは非常に夢のある話だ。

 だからこそゴーレムを作るのは難しく、天才のルナでさえも苦手にしているのかもしれない。


 今のところ存在しない土系統魔法の天才的な使い手。そんな子を育成できるかに国の命運がかかっている気がしてきた。


 帝国が攻めてくるまであと45日ほど。

 果たして、ゴーレム使いの女の子を見つけ出せるのか。


 そもそも1万人しかいない我が国女性の中に存在しているのかわからない。

 焦るけど、今は魔法適性試験の結果を待つしかない。


 俺はノルデン湾を見渡す。

 幅およそ2000メルトル。


 この狭い海域で艦隊決戦だ。

 味方の船はゴーレムが漕ぐから犠牲者は出ない。


 人的損害を恐れず、俺が思ったとおりに船を動かすことができる。

 そう考えたら、胸が躍ってしまう。

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