第1巻『王国防衛』~1 JKの教え子と転生
「先生、私と結婚して下さい♡」
冬のセーラー服姿の女子高生が、顔を真っ赤にして告白している。
嫁にしたい女子ランキング一位の愛莉。
ポニーテールが初々しい美少女で、巨乳はHカップと噂されている。実際セーラー服は胸の辺りがぱんぱんに膨らんでいる。
ここは高校の屋上。
俺は氷河期世代の冴えない教師。正規の教員ではなく、一年契約だ。安物のグレーのスーツはよれよれ。
なんだこれは――ドッキリか!?
愛莉は素直な子だから、俺を罠に嵌めるとは思えないのだが。
俺は周囲を見渡す。
屋上には他に人はいない。
「な、なぜ」
「だって……大学に合格できたのは、先生のおかげですから。やさしい先生が大好きになっちゃいますよっ」
愛莉は親を幼い頃に亡くしている。児童養護施設、いわゆる孤児院育ちだ。
児童養護施設は保護を高校卒業で打ち切られる。
ほとんどの孤児は高校卒業とともに就職する。だが愛莉は大学進学を希望していた。
愛莉が一年生の時、俺は担任だった。愛莉はよく職員室に質問や進路の相談をしに来た。
俺は奨学金について調べて、愛莉が大学に行く方法があると教えてやった。
「きょ、教師として当たり前のことをしただけだが」
俺はドキドキを抑えながら答える。
決して愛莉の巨乳を間近で観察したかったわけでも、下心があったわけでもない。
かわゆい愛莉と話すことができる喜びよりも、なんで一年契約の教師が担任持たないといけないんだという憤りの方が大きかった。ものすごいやり甲斐搾取を感じていたものだ。
本校はヤンキーの男女が暴れ回る教育崩壊校だ。
教師は黒板に向かって授業を演じるふりをするだけ。
教室内は、生徒たちが宴会をしているように騒々しくふざけ合っている。
俺の授業を聞いているのは、愛莉ぐらいのものだ。愛莉は俺は教えるのが上手だと言ってくれていたな。
俺としてはせいぜい応えてやったが、頑張ったのは愛莉。
ド底辺から抜け出したいと必死に勉強をして、見事に地元の国立大学に合格。
「もうすぐ私は高校卒業です。卒業しちゃえば先生と結婚しちゃっていいでしょっ」
「いや、それは……」
俺はしどろもどろ。
高校教師が教え子の卒業と同時に結婚するってのはたまに聞く。
「私は大学生ですけど、家事はちゃんとします。だから先生のお嫁さんにしてくださいっ」
愛莉は深く頭を下げた。
「お、落ち着けよ」
俺は愛莉に言い聞かせる。自分も落ち着かせたい。
「私、大学を卒業したら働きますっ いずれは先生を楽にさせられるよう頑張りますから」
愛莉は目をちろっと上げて俺の反応を見ている。かわゆい。
「俺なんかと結婚したら、愛莉はド貧乏暮らしだよ」
恥ずかしくて言いたくないけど、言わないわけにはいかない。
「私は貧乏に慣れてますっ」
顔を上げた愛莉の目がキラキラしている。
むしろ自分の本領を発揮できると喜んでいるみたい。児童養護施設育ちだから、愛莉はたくましいんだろうけどさ。
「先生のお仕事が大変だったら、辞めて、お家にいて下さいっ」
「愛莉は俺がヒモでもいいのかよ……」
「はいっ 私だけでも働けばきっと子供を育てられます。私、先生の子供をいっぱい産みたいっ」
俺は主夫として、子育てをしていればいいのかな。
育児は大変そうだけど、ブラックな教員よりはマシかもしれない。
俺は童貞。
きっと人生で最初にして、最後のチャンス。
何と答えるべきだろうか。
愛莉は大学合格の嬉しさのあまり舞い上がっている。
この勢いで結婚してしまうか。
騙すようで気が咎めるけどな……
愛莉が左手の小指を差し出してくる。
「先生、指切りしてくださいっ」
「え……」
「高校を卒業したら、私をお嫁さんにしてくれるって約束してくださいっ」
「ま、まじで……?」
「はい。先生が他の女子に取られないように予約させてもらいたいんですっ」
「取られないと思うけどね」
「私、不安でたまらないんですっ 大好きな先生を取られちゃわないか」
愛莉は小指を俺の顔の前で揺らして催促する。
「う、うん……」
ひとまずは愛莉の言うことを聞くふりをしておこう。
そのうち愛莉は冷静になって考え直すはずだ。俺なんかと結婚したらいけないって。
俺は右手の小指を差し出す。
お互いの指を絡めた。
「指切りげんまん、嘘ついたら針千本のーます。指、切ったっ」
愛莉が歌いながら手を振る。
「やったー これで先生のお嫁さんにしてもらえるっ」
飛び跳ねている愛莉。
「あはは……」
俺は空笑い。
「先生、約束したんだから他の女子が迫って来ても相手にしちゃだめですよー」
「ないない」
「ふふ。私たちが一緒にいるところを他の人に見られたら怪しまれちゃうから、私、先に戻りますねっ」
愛莉は駆け出して行く。
何度も振り返って、バイバイした。
俺は微笑んで、屋上から去る愛莉を見送った。
◆◇◆
職員室に戻って、隅っこの自分の席に座る。
ドキドキが止まらない。
本当に俺が愛莉と結婚したら……
愛莉が大学生のうちは、俺は働いて生活費を稼がないといけない。2人で住めば生活コストは安くなる。愛莉がバイトすればなんとかなるだろう。
でもって愛莉と新婚生活。
18才の愛莉とエッチなことをしまくり!?
一応、俺が家の主人てことで、愛莉がご奉仕してくれる!?
大学を卒業した愛莉は就職して、外に働きに行く。
俺は教師を辞めて、主夫として愛莉を見送る。
玄関で愛莉と行ってきますのキスを交わす
主夫と言っても今どきは家電が発達しているから、大して家事をしなくてもいい。
家でゴロゴロしていればいいだけだろう。
子供が産まれたら大変なんだろうけど、3歳になれば幼稚園に送り込める。
楽勝で、幸せな暮らしになりそうだ。
…………
仕事が手につかない。
机に山のように積まれた書類を片付けないといけないんだけど。
ちっとも集中できなかったせいで、仕事が終わったのは夜9時くらいになってしまった。
いまだに興奮が醒めやらない。
校門を出て、夢遊病者のようにフラフラ歩く。
突然、ヘッドライトに照らされる。
はっとして横を見ると、トラックが突っ込んでくる。
「せんせ――――――――――っっ」
後ろで愛莉の絶叫がした。
俺が帰るのを待ってた!?
ドンッという衝撃で俺は宙に飛ばされた。
全身が痛い。
地面を激しく転がっていく。
「大変だ」
周囲が騒がしい。
はは、死ぬな……
バカだ俺……
でも、これでいいんだよ。
愛莉は俺なんかと結婚するよりも幸せになってほしい……
「二人、撥ねられたぞ」
え、二人!?
俺だけじゃなく、愛莉が追いかけてきて撥ねられたのか!?
俺が死ぬのは望むところだが、愛莉を巻き添えにしてしまったなんて……
申し訳ない気持ちでいっぱいになるが、俺の意識は薄れていった。
◆◇◆
「先生っ 先生っ」
愛莉の声だ。
生きているのか……
愛莉もトラックに撥ねられたが、助かったということか……
目を開けた。
「良かった。先生が目を覚ましてくれたぁ」
愛莉が覆い被さっている。
目には涙が溜まっている。
「ううう……先生……」
愛莉が俺の胸に顔を埋めて泣く。
俺のお腹あたりに愛莉のおっぱいが当たる感触。
確かに俺は生きているのだと実感する。
だが俺が目にしているのは見知らぬ天井だ。病院じゃない。
教会のようにアーチ状にカーブした高い天井。壁は白亜の大理石が組み上げられているようだ。
「ここは……一体……」
「ノルデン王国の大聖堂。先生は異世界転生したんですっ」
愛莉が答えてくれる。
「なに」
俺はがばっと上半身を起こした。
愛莉は俺の右隣でぺたんこ座りする。
愛莉は薄水色のドレスを着ている。お姫様のように美しい。愛莉は髪の色が銀髪になっているし、肌が真っ白に変わっている。でも髪型は、俺が好きだったポニーテールのままだ。
俺は自分の体を見る。貴族の男が着るような青色の服装だ。あちこち金色の飾りがついている。
「トラックに撥ねられた俺たちは、一緒に転生したってことなんだな……」
俺は愛莉を事故に巻き込んで悪かったと思う。転生できたのがせめてもの救いだ。この世界が前世よりマシな所であれば、だが。
「あ、いえ。私の方が先に転生したんです。ノルデン王国の姫に」
「へぇ、それでドレスを着てるんだね。似合っているよ。綺麗だ」
俺は率直な感想を述べた。
「もうっ先生ったら」
愛莉は照れて、顔を赤くする。涙を指で拭った。
「良かったじゃないか。お姫様だなんて、前世よりはずっと待遇が良さそうだ」
俺は愛莉が恵まれた境遇でうれしい。愛莉に好感を持たれている俺もおこぼれに預かれる。
「そうでもないんですけどね……私はとにかく、先生も一緒に転生してないか探し回りました。で、時空の狭間に漂っている先生を見つけて、魔法でここに転生してもらったんですっ」
「俺は本来、転生してなかったのか……どこまでもショボい俺を見捨てないでくれるなんて」
愛莉の優しさにジーンとなる。愛莉の口ぶりにはちょっと引っ掛かった。お姫様が楽ではないということだろうか。
「我がノルデン王国は滅亡の瀬戸際にあるんですっ」
愛莉が膝に置いた両手をぎゅっと握り締め、伏し目がちに話した。
「え、どうして!?」
「男性がいないんですっ 先生以外にっ」
「何だって!?」
のけぞった。
国に男がいなければ滅亡するっていうのは自明。だって子孫を作れないんだもん。
「何者かが……我が国男性の命を奪う呪術を使ったんですっ」
愛莉の口調には怒りと悲しみが入り混じっている。
「ノルデン王国中の男性全員が奇病におかされたように、のたうち、苦しんで死んでいきましたっ」
「世界中の男が死んだわけじゃないってこと? 俺は大丈夫なのか。呪いで殺されないの?」
「恐らくは……呪いが発生した時点で、国にいた男だけに効力があったと考えられますから。呪いには巨大な魔力が必要。もう一度使われるとは考えにくいです」
「俺は大丈夫なんだ。でも男がいないって……んん? ヤバくない?」
「ヤバいですよっ 他国の男が我が国の女性を凌辱しようと攻め込んできますっ」
愛莉が切羽詰まった感じで訴える。
ヤバいは危険の意味だ。愛莉はJKだったが、今はスゴいの意味ではない。
「しかもノルデンは美女しかいない国と言われていますっ 約1万人の美しい女性たちが獣のような男たちに汚され、種付けされそうになってますっ」
「おおお、なんて恐ろしい」
大勢の女性たちに男の群れが襲いかかる様を想像して、ぞっとする。
「先生だけが頼りですっ どうかノルデン王国の女性をお救いくださいっ」
愛莉は三つ指をついて頭を下げた。
完結まで書き溜めておりますのでエタる心配はございません。
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