『第3回 下野紘・巽悠衣子の小説家になろうラジオ大賞』シリーズ
サイコロよ、1の目を出して!
わたしは今、息を切らし、先輩のもとへと走っている。
それは、昼休み。大好きな先輩からの呼び出しだった。
「1分遅刻だ」
「だって、さっきの授業終わるの遅かったんだもん」
「だってじゃない。せっかくお前の気持ちに応えてやろうと思ってるのに」
「えっ!? 先輩それって、わたしと付き合ってくれるってことですか!?」
先輩はニヤリと笑うと、ポケットからサイコロを取り出した。
「1の目を出せたらな」
「えー! 意地悪ー!」
「どこがだ。確率は6分の1だぞ?」
今、この目の前のサイコロを振って、1の目が出る確率は6分の1。
1の目さえ出せたら、わたしは先輩と付き合える!?
わたしは願うようにサイコロを振った。
1が、1が、出なかった……!
「3……」
「残念だったな」
「そんな! もう一回! もう一回チャンスをください!」
「なら、また明日、昼休みにここに来い」
先輩はそう言うと立ち去った。
わたしは、翌日もサイコロを振った。
でも、1の目は出なかった。
わたしは、次の日も、その次の日も、サイコロを振った。
やはり、1の目は出なかった。
わたしには運がないらしい。
「今日こそは!」
「ホント、お前必死だな」
先輩は鼻で笑った。
「ひどい!」
「そんなに付き合いたいのか? 俺と」
「もちろん、付き合いたいです!」
「そんな奴、やめとけよ」
わたしの様子を見てたらしく、幼馴染のアイツが話しかけてきた。
「うるさいな、あんたには関係ないでしょ!」
「ったく、俺にでもしとけば?」
「な、何言ってんのよ! バカ!」
「残念。コイツ、俺のだから」
何よ! 付き合ってくれないくせに!
あぁ、もう!
今日も1が出なかったじゃない!
「先輩! さっきのなんなんですか! 俺のって。結局先輩は、わたしと……!?」
一瞬、何が起きたか分からなかった。
時が止まった気がした。
自分の鼓動だけが聞こえた。
先輩は、わたしがそれ以上何も言えないように、口づけで口を塞いだ。
「な、な、何するんですか!!」
「しっかしお前、ホント運のない奴だな」
「それは……」
「さっき出した目を足して、全部でいくつだ?」
「えぇ? えっと、最初の日に3を出して、次に5、それから……全部で21」
「ま、二重に1を出したってことにでもしといてやるよ」
「へっ?」
「何回も言わせんなよ。今日からお前は俺の彼女だ」
「ウソ! ホントに?」
「誰かさんに、取られても困まるからな」
先輩は少しかがむと、わたしの頭に手をのせ、わたしの目を見てそう言った。