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このままでは地球が滅びてしまいます!  作者: 風戸輝斗
第5章 
25/29

25 『ストレートな妹と願い下げの兄』

 天が異様に懐くという収穫があったものの、他は取り分け変化のない一日を終えて迎えた金曜日。

 ここ四日、燦然と輝き続けた太陽もそろそろバテてきたようで、空には一面どんよりとした灰褐色の空が広がっている。天気予報士曰く、洪水確率は10%らしいが、どう考えても一雨降りそうな空模様なので、俺は傘を一本、折り畳み傘を一本鞄に突っこんで家を後にした。

 傘を二本用意しているのは万一の事態に備えてである。ほら、予報外れの雨に打たれるうら若き女性に無言で傘を手渡せたらカッコいいだろ? 名前を訊かれても名乗らず立ち去る。うむ、イメージトレーニングまで完璧だ。


「兄さん」

「ん、どした」


 隣を歩く天は、曇天に負けないくらい眉を曇らせている。


「その……みなさん、これまでのように接してくれるでしょうか?」


 前言撤回。昨日は天の変貌以外にも、天によるこれまでの事の顛末の告白が放課後に行われた。

 自分が本当は神ではなく悪魔だということ。俺の命を狙っていたということ。

 天が一連の話を終えた後に、非を鳴らす部員は一人としていなかった。

 百合は胸の内を明かした天の勇気を労い、姉貴は悄然とした天の雰囲気がいつもと違って素敵! としきりに抱き締め、ゆかりは魔力がいつかなくなるという事実にしょんぼりし、バトラーは会得顔で微笑んでいた。俺はというと、まぁバトラーと大差なかったかな。

 このように天の激白は騒動を起こすことなく去ったのだが、それでも本人の中では一抹の不安が燻っているらしい。


「大丈夫。みんないつも通り接してくれるよ。俺が太鼓判を押すんだから間違いない」


 けれど、それは杞憂ってもんだ。


「本当ですか?」

「ああ。もし根拠を提示してほしいってんなら、百合の反応を例にすればわかりやすい。あいつはあれで結構、粘着なタチだ。その百合が不満を漏らさなかったんだから大丈夫だよ」


 おちゃらけた外見とは裏腹に百合が几帳面であるということは、バトラー暴走デーの詰問攻めで天も痛感していることだろう。

 天は雲間の見当たらない、一面絵の具で塗りつぶされたかのような灰色の空を見上げ、


「そう……ですね。なら安心です」


 ようやく笑顔を見せた。

 うんうん、人生いつ如何なるときも笑顔を絶やしてはならんぞ。でないと、ネガティブ思考になっちゃうからな。と語る俺は、平時の顔が怖いと巷で有名である。


「それに、仮に世界中が敵になろうと兄さんが味方でいてくれるなら、わたしはそれだけで満足です」


 頬を朱に染めながら、囁くように天は独り言を漏らす。いやどうだろ、俺に向けた言葉か? 目は伏せられているが、念のため反応しておこう。


「恥ずかしいなら無理しなくていいのに」


 無視よりはマシだろう。無視されることが一番傷つくという統計データを前にTV番組で見た。まぁイジメの最終形態も完全無視だもんな。孤独は誰にとっても、耐えがたいものなのだろう。


「駄目ですよ先送りは。だって……いつ最後の瞬間が訪れるかわからないから」


 急に現実的……。

 どうやら独り言ではなかったようだ。コミュニケーションって難しいね。


「確かに天災なんかは予測がつかないけどさ。……けど、そういう言葉は未来のフィアンセのために取っておいた方がいいんじゃないか?」

「問題ないです。言質、意図的にばら撒いてますから」

「三等親は婚姻関係を結べないって法律知ってる?」

「はい。でも実際は血族関係にないので問題ないです」

「そういう問題じゃないんだよなぁ……」


 川野天が名義上の妹であることを知るのは当人含めて六人だけで、他の○億人から見れば、川野天は名実ともに立派な川野家の末っ子なのである。

 つまり親族。海外で出版規制がかかるほど今のご時世は近親相姦に厳しいので、妹エンドは勘弁していただきたい。姉貴エンドもしかりだ。


「なら、バトラーさんの『無殲剣』で……」

「そろそろ一雨来そうだなぁ」


 あの神具(バトラー曰く、神から授かった武器らしい)が厄介なんだよなぁ……。

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