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アドミニストレータ共

じわじわと投稿します。

 また別の場所の話。


「最近動きあったの?」

「やっと村出るらしい」「お、楽しみ」


 まるで日本の企業の会議室のような場所で、ここにいない少年に関する雑談が広がっていた。

 ここは管理者たちの住まう場所。ここ最近急激に観察者数が増えたことに、一人の女性がため息をついた。


「なんだ。今の状況がお気に召さないか?」


 不機嫌そうな様子に気付いた男が声をかけると、女性はちらりとだけ視線をくれただけで憮然とした表情は崩さない。


「……べっつにー。皆で楽しく観戦するのも悪くないと思ってますとも」


 観察者が増えたという事は、それだけ少年と少年の人生が魅力的になったということである。しかし「面白いものが観たい」という彼女の願い通りになった割に、その表情には苛立ちが混じる。


「まあ、気持ちはわかるよ」


 ぼそりと呟いた言葉も聞き咎められる。


「―ああん? だれが、だれの気持ちをわかるって?」

「絡むなよ」


 転生した時からリアルタイムで少年(中身は大人)を追っていたのは彼も一緒。なので訳知り顔で少年を語る者へ湧く苛立ちは多少理解出来る。

 とそこで隣から舌打ちが聞こえた。


「ニワカどもが」

「声抑えてくれ」


 彼のほうがハラハラするが、彼女は意に介さず強火な言葉を投下する。


「一年追いかけてから語れよ。こちとら弱小魔獣倒すところから見守ってんだよ」


 愚痴った言葉が引き金となり、男は今までの歳月を思い出した。


「……スロースターターだったな彼は」


 男の言葉に彼女は虚を突かれた顔をした後、ややあって頷いた。


「移動しなかったしね。でも強くなった。マーリンの存在は大きかったよ」

「あれは狙ってたのか?」

「いや全然。国と大まかな座標だけ決めて後はランダム」


 ならば誰かが強運だったのだ。彼か、それとも目の前の女かが。

 男は一瞬考えて、それは神にしかわからないと早々に諦めた。


「ただ、もう終魔状を使った。のんびり田舎暮らしから急に英雄にジョブチェンジしたと思ったら、一試合目で選手生命終わりの怪我をした感じだ」

「まさにまさに。 ―でもそれもまた面白いよ。彼の本領は近接戦でしょ」


 その言葉に、しかし男は素直に頷かなかった。


「俺は『及』に興味があるからな。だからできれば魔状師として生きてほしかった。……マーリンと同じ気持ちだよ。惜しすぎる」

「えー? そりゃ出色の才能だとは思うけど、ぶっちゃけ彼よりすごいのいるじゃん」

「独自の進化を軽視するな。彼の『及』はブレイクスルーの種になる。俺は芽吹いたその先の世界が見たかったんだ」


 彼の熱い言葉はしかし、彼女の心を共振させることは無かったようで。


「もちろんそこは好みだけどさ。私はやっぱ『巡』派だな。肉弾戦最高。それにこの世界の剣戟は『巡』が合わさると超絶技巧の応酬じゃん。炎延リスラと土竜モグラサトリの対決なんて人間の頂上決戦。『及』も派手だし規模デカくて好きだけど、どこか大味なんだよなぁ。なんかズルいっていうか。人間らしく持ってる肉体を駆使してくれよ」

「人間が人の枠を超えるのがいいんじゃないか。ロマンだろ。世界の(ことわり)に手を出して彼らの言う神に迫ろうとするのは別段悪い事じゃあるまい」

「うーん平行線」


 彼女は不意によいしょ、と腰をあげると「この話は酒の席で」と言い置いた。


 そして、観戦可能な一室に集まった同僚たちに向かってやにわに声を張り上げた。



「っはいちゅうもーーーく!!!」


 和気藹々の雰囲気を吹き飛ばす大声によって、その場がシンと静まる。


「みなさん楽しそうで大変けっこうなのですが。ここで一つ至極基本的な前提事項を今一度共有します」


 静まった部屋が再びざわめく。しかしそこは娯楽を求める彼ら。皆不審そうだがワクワクを隠せない顔をしていた。


「大前提の一つ。個人的意図から世界に介入してはならない」


 ―ざわめきが膨張した。


 彼女の宣言はもはや「誰かが個人的に誰かに介入した」と言っているのと同じ。

部屋の中の誰も彼もが「やっちまったなだれなんだいそんな馬鹿は」という好奇心を隠そうとしない。そこかしこで息をひそめて隣の人間を指をさし、指された者は無言でぶんぶんと手を振り否定する。全員楽しそうである。

 だがそんな光景を冷めた目で睥睨している彼女に一人また一人と気づき、次第に場には再び沈黙が降りた。


 生命が死に絶えたような空気の中で、とうとう一人が観念したように声を上げた。


「やっぱりバレちゃったかー……」

「お前かよ!」


 再び喧騒に火が付きそうになったが、彼女の「黙れ」という一声で場は瞬時に沈静化する。


「で、なんでしたんですか?」


「いや、こわいよお姉さん。別に前例が無いわけじゃないし、観察者本人には手出してないし。別にいじったところで世界のパワーバランスには影響ないし」


 ここで大多数の頭上にハテナマークが浮かんだ。観察者とはヨウこと『波戸陽路』のことだ。しかし彼には手を出していないとは。


「言いたいことは分かりますが、ルールは守ってくれないと」

「え、意外ー」


 どちらかと目の前で威圧感無限大のこの女こそ、ルールより自分の好奇心を優先するタイプだと思っていたのだが。


「―それでつまんなくなったらどうすんですか」

「……おお、納得ー」


 ここに至って「あ、もしかしてそういうこと?」という声がちらほら聞こえてくる。


「誰のハナシ?」

「ほらお兄ちゃん」「「あー」」「あれ介入だったんかー」


 全員の理解が一致して一息ついたところで、誰かがポツリと呟いた。


「でもズルくね?」



 この言葉を皮切りに追従する声がそこかしこから挙がり始める。


「じゃあ私もリュシーに魔状付与してもいい?」

「なんでリュシーだよ、素養ゼロなのに無理がある」

「別にいいでしょ俺ら出来るんだし。人間どもが勝手に名前と理由付けるって。ほら、ゼンジ兄ちゃんも言ってたけど終魔状が効きすぎたっていうのあり得そうでしょ」

「俺はリュシーよりクレア派なんで。筋力を世界一にしていい?」


 いよいよ騒ぎが大きくなったところで、胸いっぱいに息を吸い込んだ彼女が一声発した。



「うーーぅぅるっせえええええぇ!!」



 三度(みたび)静まりかえった部屋内で、目の座った女型が仁王立ちしている。

 恐ろしい。


「……付与してしまったものは仕方ないです。でも私達管理者は、恣意的に操作かのうであるからこそ、今回のように俺も私もと手付が増えて収拾が着かなくなる。皆が皆好きなように介入してしまうと、盤上の世界を壊すことになります。それは誰も望んでいないはずでしょう」


 妥当で、充分に納得できる理由だった。


「……ごめんなさい。ペナルティあるなら受けます」


「シャーレの観戦は娯楽ですから、ルールを明文化していなかったのは私の落ち度です。よって今回だけは不問とします。しかし次誰かが勝手な介入をした場合、そいつの全星の観戦権をはく奪します」


 彼らの一番の娯楽を奪う地獄のような宣言に、周囲は声にならない声を上げた。


「以上です。異論は? ……無いようですね。良かったです。では皆さんルールを守ってより良い観戦生活を送りましょうか」


 にこやかな笑みに皆も引き攣った笑顔を返す。


 ―その中で、女性と親しい男だけが白けた目を彼女に向けていた。



(勝手な、介入ね)


 どうやら勝手ではない介入ならいいらしい。言葉遊びか? 違う、彼女は敢えてあそび(・・・)を残したのだ。

 例えば担当者であるお前が介入した場合、勝手だと判断するのは誰だ。観戦者全員か。お前は周知を怠らない、そんな律儀な性格だったろうか?


 男は誰にも知られないよう壁にもたれかかって鼻から息を吐いた。


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