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君の名は

どなたかが初めて評価してくださいました。めちゃくちゃうれしいです。ありがとうございます。


これから一話をなるべく長くしていこうかと思います。

全てが初めての小説ですが、読んでいただけるとうれしいです。

 現実逃避からすぐに戻り、どう答えるのがベストだろうかと思案する。


 正直に言って、予想以上に友好的な態度で接してくれている。かといって率直に「意識不明になっている間にこの世界に来ました」と言えば一気に不信感を持たれるだろう。脳の心配さえされるかもしれない。


「んー、やっぱり何か訳ありかい?」


 黙り込んでいると、相手から話しかけてくれた。


「……申し訳ありません」


 明らかに容姿がこの地域のものではなく、さらに身なりも悪くなさそう、なのに身の上を話せない。となれば十中八九なにか理由が、と考えてくれたのか。やさしさに付け込んでしまったようで若干気が重いが率直にありがたい流れである。


 少し考えた後、奥さんAはさらに話しかける。


「正直さ、あんた様より怪しげな人を村に入れたこともあるし、判断するのは男衆だし、村に招くのは問題ないんだよ。ただ、連れて行ったとしても村に居られるかはあたしらにもわからないけど、それでもいいですかね?」


 良かった。チャンスがもらえるだけで充分だ。


「ありがとうございます! もちろん、それで充分です」


 この一言で一先ずひと段落ついたと誰しも思ったのか、少しばかり緊張していた空気が緩んだ。


「あの、奥さま方は子どもの俺にそんなに言葉に気を付けなくても大丈夫です。俺は上流階級の人間でもないですし、……えーと、年も下ですし」


 ミエナさんと呼ばれた奥さんBは苦笑いしている。最後に付け足した言葉は女性に配慮した言い方にしたと思ったのかもしれないが、自分を若いと行っていいのか迷っただけだ。


「そうですか? 高貴な身分の方な気がするので、念のためってやつですが。……まぁそうだね。あんたは素性のわからない人だもんね。じゃあ普通の言葉づかいにさせてもらおうかな。あとさ、子どもって言ったけどあんた何歳なんだい?」


「ああ、十三歳です」

「「ええ!!」」


 二人一斉に声を出して驚かれてしまった。もうお一方も目を丸くしている。


「見えないですか?」

「そうだねえ。十三にしちゃ身体も大きいし、若いなとは思ってたけど幼いとは感じなかったよ」


 奥さんAが答えてくれる。身体は大きいほうなのか。


「とりあえず仕事しながら話そうかね」


 奥さん方は野菜を洗いに来たらしい。


「手伝わせてください。一人だけ何もしないのも落ち着かないので」

「あらら、いい心がけだね。いいとこの坊ちゃんはそんなこと言わないよ」


 笑いながら大き目の野菜を渡してきた。キャベツにそっくりだな。見よう見まねで洗ってみる。


「……わたしの妹と同い年ですね」

「あ、そうだよ。シエルんとこの妹も十三だ。弟も一個下だろ」


 一番若い奥さんCはシエルさんというらしい。気になったので聞いてみる。


「あの、シエルさんの妹さんや弟さんは、村での仕事を任されていたりするんでしょうか?」


 シエルさんは話しかけられて少しビクついてたが真面目に答えてくれた。


「そ、そうですね。妹は家事もやってくれていますが、基本的には自分の家の畑と共同の畑の農作業を毎日しています。ここら辺の村では、十歳より大きくなると村の共同の畑の手伝いや開拓を任されます。でもそれは農家であった場合ですが。あ、私よりソラさんのほうが詳しいですよ」


 最後はなぜか助けを求めるようにソラさんと呼ばれた奥さんAを見る。これで三人の名前がやっとわかった。


「村の中でも開拓だけに精を出す人や、狩人として森にはいって食料を得る人、村長みたいに管理する人もいれば、ものを教える先生みたいな人もいる。何を生業(なりわい)にするとしても、村のためになる事をしてるって村長と男衆が認めれば、村で管理してる食料を分けてくれるのさ」

「なるほど。……例えば、俺が村長さんから村で暮らしてよいと言われたとして、共同の畑の手伝いや開拓を仕事とすれば一人でも暮らすことはできますか?」


 俺が聞くと、ミエナさんとシエルさんの視線がソラさんに集中した。


「そうだねえ。まあできるかできないかで言ったらできるよ。あ、暮らしてくことはね。たださ、あんたは体格はいいけど、それでも十三歳だし、二十超えた男らと比べて同じくらい働けるわけじゃないだろう?」


 若干言いにくそうにソラさんの言葉に俺は頷いた。


「そうなると、最終的には村長の裁量だけど、大人より少な目の食料しか回ってこないよ。共同の耕作や開拓以外にも何かやりながらじゃないとちと辛いかもね」


 最後の野菜を洗い終えて手渡すと、「助かったよ」とソラさんは言ってくれたが、表情は少しばかり苦かった。


「これは悪い意味で受け取らないでほしいんだけどさ」


 エプロンの前掛け部分で手を拭きながらソラさんは言葉を続ける。


「あんたはこの村で生まれたわけじゃないし、出入りは自由なんだよ。だから、よしんばここで働けたとしても、一生いる必要はないわけさ。共同の仕事をしつつ、少ししたらもっと実入りのよさそうな村か街に行くのが良いと思うよ」


「……ありがとうございます。それと、気を使わせてしまってすみません。本当に当てがないので、できればしばらく厄介になりたいと思ってますが、確かにどこか折をみて違う街に行ってみるのもいいかもしれないですね」


 ソラさんは少しほっとしたような顔をすると、勢いよく立ち上がった。


「そっか! ならまずは村長たちに認められなきゃね。じゃあ村を案内するよ」

「はい、お願いします」


 少々慌てたが、結局は思い描いた理想の流れになった。あとは村長さんたちが気難しくないことを祈るだけだ。

 村への道を歩き出したところ、先頭を歩くミエナさんがふと振り返った。


「そういえばさ、あんたの名前聞いてなかったわね」


 他の二人も「たしかに」みたいな顔してこちらを向いている。


「あぁ、そうでしたね。名乗らずに申し訳ありません」


 この世界も多分に漏れず貴族と一部の特権階級にしかファミリーネームは与えられない。よって本来の「波戸(はと)陽路(ようじ)」という名は使えない。


「俺はヨウといいます。ご迷惑をおかけしてすみませんが、よろしくお願いします」


**********************



 川に行く前に見た村が間近に迫ってきた。この世界の村の規模を知らないが、結構大きいのではないだろうか。


「この村って大きいように見えるんですが、どうなんでしょう?」

「そうだねえ。この何年かで大きくなってきてるね。ここ最近は気候もよかったしどの村も景気がいいけど、うちの村、あー、ハイシェット村は一番近い都市に繋がりがある商人さんみたいな人がいて、定期的に農作物やら買い取ってもらっているし、山や森も林も近いけど、魔獣の被害が抑えられるようになったことが一番大きいね」


 ふむ、魔獣の被害を抑制できるようになった理由は分からないが、大きくて余裕があるってことなら助かるな。

 気にしてるのがバレたのか、ソラさんが励ましてくれる。


「確かにあんたの素性はわからないけど、後ろ暗い人間には見えないからね。今は人手もほしいし滅多なことでもない限り大丈夫さ」


 そうだとうれしいのだが、現代日本人であった俺からすれば素性を明かせない時点で不審者だ。とりあえず誠心誠意お願いするしかないかな。



**********************


「別にいいぞ」

「えっ」


――


 村に入って奇異の目で見られつつ、村の中央にある村長の家にやってきた。

 どうやらソラさんは一緒に来て経緯を説明してくれるらしく、気負うこともなく扉を叩いて村長さんを呼び出した。

 ちなみに村長はゾブラさんというそうで、まだ村長としては若い方らしい。勝手に長老みたいな人かと思っていた。なぜだろう。異世界だからだろうか。村長は白髪の老人じゃなくてもなれるらしい。

 しかし戸口で呼んで出てきたのは、村長ではなくて美人な奥さんだった。傍で立っている俺に驚きつつ付いてきてくれたソラさんの説明を聞くと、俺を今一度ゆっくりと眺め、


「なんか、ここら辺じゃ見ないお顔立ちですね。それに髪の毛も目も黒いなんて、全然見たことがありませんよ」


 と言った。どうやら自分が思っているより黒髪黒目は珍しいらしい。


「どうも訳ありらしくてさ、ここにいた理由とかは話せないらしいんだ。でも悪い人には見えないし、若い人が村に来て仕事してくれたらこっちだって嬉しいから直接連れてきちゃったよ」


 その後、村長の仕事部屋に通してもらい、ここで初めて村長であるゾブラさんと対面して冒頭のセリフに戻る。ソラさんがフォローしてくれたとは言え、ほぼ一発回答だった。


「今は人手が欲しい時期だからな。……しかしあんたは一応上流階級ではないってことだが、だからと言って農作業してる人間にも見えん。やったことはあるか?」

「いえ……ありません」


 九州にある実家は農家でなくともそれなりの畑をデフォルトで持っているものなので未経験というわけでもなかったが、この世界の農業は何も知らないので経験ゼロと言っても過言ではなかろう。


「ま、そうだろうな。だが若くて体格もいいってだけで任せられる仕事は十分ある。他に特技があればそれを活かしてもいいんだが。今は本当に人手が欲しいんだ。最初は農作業と開拓の力仕事を頼みたい」


 言いつつ、目元に少し優しさが宿った。


「住む場所はすぐには用意できんし、最初はうちの家で預かることになっている。大したもんは出せんが、少しの飯と寝る場所はしばらく世話してやれる。それでいいか?」


 最悪の熟だろうと考えていた自分からすれば、至れり尽くせりの待遇である。


「そこまでしていただけるだけで充分です。ありがとうございます。よろしくお願いします」


 頭をしっかり下げると、ゾブラさんも鷹揚に頷いた。


「そうか、じゃあ早速なんだが働いてもらってもいいか。農業ではなく開拓場のほうで、切り倒した木を村に運び込んでほしいんだが」

「今からかい? もうちっと休ませてあげてもいいだろうに」


ソラさんはみんなのおっかさんという雰囲気そのまま、若い子に優しいようだ。


「いえ、お世話になる身ですし働かせてください」


 働かずに村長宅にいるのは肩身がせまい。こちとら奥ゆかしさが特徴のナチュラルボーン日本人だったのだ。もらいっぱなしは恐縮してしまう。

 ソラさんはちょっと不満顔だがしぶしぶ引き下がってくれた。


「助かるよ。ああユウラ。この子連れて行ってジズに預けて来てくれないか。事情は今聞いた通りだ」


 はいはい、と奥さんであるユウラさんが答える。

 それにしても、これは管理者たちの配慮なのか何なのか、ともかく近くにあった村が閉鎖的でなくて助かった。

 俺の異世界での初めての仕事、開拓お手伝い編の開幕だ。


 ……地味だな。

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