ハイリスクならハイリターン
キリがいいところまでにしたくて、短くてすみません。
「は!? おい馬鹿!」
予想外の行動にクレアが面食らう。
普段は落ち着き払っているヨウであるが実際は十四の少年。タイミングを焦ったかと考え援護しようと全速力で近づこうとした。しかし、一瞬目の合ったヨウの視線で踏みとどまる。
クレアと反対側、ベリメリヌの左側面から仕掛けたヨウに対し、ベリメリヌは一度左腕で迎撃する姿勢を見せたものの、何故か動きを止めて反対の右手で攻撃しようと体をひねった。
その瞬間、クレアは弾かれたように地面を蹴り上げて爆発的に加速した。
(効いていた!)
ヨウは気づいたのだ、クレアの攻撃を防いだ左手が損傷していたことに。現に今ベリメリヌの左腕は下がったままだ。
しかし右腕だけの攻撃でもやはりそれは風の斬撃を孕んでいる。ヨウが『巡』の行使状態であれば上に飛ぶなり横っ飛びするなりで避けられるはず。その程度の対策もしないヨウではないと信じてクレアは死角からの一撃を狙う方針に踏み切った。
しかしクレアの予想はまたもや裏切られていた。
ヨウは『巡』状態ではないにも関わらず減速せずにベリメリヌに向かい、右手の空間斬撃が放たれた後も変わらず突っ込んでいたのだ。
少しでも斬撃が掠めれば深い傷を負うであろう風の刃が襲う中、ヨウの視界は吸い込まれるように眼前にフォーカスされる。
空間斬撃は確かに強力だが、数多く放られた中でいくつかわかったことがある。
一つ目。放たれた直後の空間斬撃はそれほど大きくないが、飛距離が伸びるごとに徐々に大きくなること。
二つ目。大気の影響を受けるのか斬撃の軌道が不安定に見えるが、これまた放たれた直後はほぼ真っ直ぐに飛ぶこと。
そして三つ目。熊の手の構造からか、人間で言う小指から繰り出された斬撃は他の指と比較して小さいこと―
(予想通りっ)
半ば確信をもって踏み込んだが、それでも一生に一つの命を賭けた特攻であったため予想が的中したことに胸をなでおろす。
そして次の瞬間には真横に振られた右掌から生まれた五本の斬撃に突貫しながら一番下段の一際小さな斬撃目掛けて滑り込んだ。
ヨウの狙いに気付いていなかったクレアとマーリンは、遠目から見るヨウの自殺行為に心臓を掴まれるほど驚愕する。
しかしヨウは持ち前の反射神経によって小指の斬撃の先端に触れるか触れないかの位置をスライディングしながら躱し、その勢いのままベリメリヌに直接攻撃を仕掛けた。
『巡』を行使せず飛び込むという賭けに勝ったヨウの手の平には構築済の『及』の魔状がパチパチと爆ぜていた。
「―『撥弾き』」
初めて覚えた初級雷魔が押し付けた左肩からベリメリヌを襲い、弾ける音と共に雷神が持つ撥で殴られたように吹き飛んだ。




