表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

55/79

前衛クレア

「横からいく!」「はい!」


 魔獣の視界に入るよう真正面へ駆けていったクレアが叫ぶ。

 その途端、ヨウの視界から一瞬クレアが消えた。次に彼女を捉えたときは、ベニメリヌの向かって左脇を通り抜けるルートを奔っていた。

 ゆらりと魔獣の身体がクレアの方向に(かし)ぐ。動作が緩慢だ。まだダメージは残っている。


(思った以上に感電(スタン)は持続するのか?)


 しかしもう一度打つ猶予はないだろう。クレアはあと一歩、大きく踏み込めばベニメリヌとの射程圏内に入るところまで距離を縮めている。

 しかしそこで今度はベニメリヌが大股で一歩を詰め自ら戦闘圏に踏み込んだ。しかも鈍い動作ではなく俊敏な動作で巨体を動かしてきたのだ。


 しかしクレアは慌てない。予期していたのか、振り払うような鍵爪の一撃をバックステップで躱す。ベニメリヌが一歩詰めるごとにクレアは一歩下がり、徐々に向きを変え移動していく。第一目的であった村への損害を回避するために魔獣をずらしたのだ。


 何合目かの後、少しずつベニメリヌの攻撃が鋭くなっていくことをクレアは肌身で感じ取った。


(痺れが抜け切る前一発当ててえ!)


 しかし爪の斬撃は重い。クレアでなければ爪先が当たっただけで吹き飛んでいただろう。クレアの膂力と、十五の歳に兄から餞別として貰った硬度が取柄の重い大剣により、何とか注意を惹き攻撃を防いでいる状況だった。


「ぅうらぁ!」


 何とか怯ませるため、振り抜かれた熊の掌に合わせてこちらも大剣を振り抜いた。


「―なんっ」


 おぞましいほど可愛げのない巨大な肉球に間違いなくぶち当てたはず。しかし掌は斬れるでもなく吹き飛ぶでもなく、手掌を少し押し戻しただけで終わった。


 その時、魔獣の鼻から息が抜けたような音が聞こえた。気がした。

 クレアは一瞬呆気に取られた顔をした直後、こめかみが引き攣れるほど蠢いたのを自覚する。


「てめぇ……。舐めた態度取るじゃねえか」


 そこらの魔獣であれば危機を覚えるであろう濃い殺気。

 しかしベニメリヌは高みの視点からぎょろりと見下ろすのみ。二匹の肉食生物の視線が交錯した数瞬後、同じタイミングで危険区域(レッドゾーン)へ踏み込んだ。




「らぁあ!」


 風を巻く爪に自ら飛び込み、先ほどよりも数段早い逆袈裟をお見舞いする。

 至近距離で発生しそうな空間斬撃への恐怖心など、溢れ出したアドレナリンの前では障害にさえなりはしなかった。

 鬼子の鬼子たる所以(ゆえん)は力だけでない。好戦本能故の拮抗時の能力上昇は普通の人間の比ではない。


 斬撃のような風を引き裂き、再度大剣と掌が激突する。

 次はベニメリヌが少し目を見開いた。お互いの(・・・・)剣と拳が激しくノックバックする。


「ははっ!」


 流石に無視できなくなったか、ベニメリヌの注意はクレアに向き、徐々に手数が増え始める。

 クレアもそう何度も真正面から打ち合うことなどできないことは承知していた。先ほどのは興奮して勝負してしまったが、あんなことやってれば明らかに彼女か剣が破壊されることは目に見えていた。


 しかしクレアは今、一人ではない。


 再度風が舞う。

 空間斬撃が来るとき、ベニメリヌの周囲は決まってつむじ風のように風が揺らぐ。


(また来るか)


 対処方法は早めに潰すことだ。そのためには臆せず踏み込み自身の最速を以て拳目掛けて大剣を振り抜く。

 気合一発。息を止め踏み込んだと同時。



 ―目の前の熊がくぐもった声を上げた。


「! さすが!」


 氷弾を形成していたヨウが死角から弾幕のように撃ち込んだのだ。

 キャンセルされた爪の斬撃が消失し、ほんの一瞬ベニメリヌが無防備になった。

 この機を逃すクレアではない。


 気魄一閃。

 

 剛剣が風を鳴かせながら魔獣の肩口目掛けて振り切られた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ