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中級雷魔

すみません、短いです。

「おいおいおい……なんだありゃあ」


 常識からかけ離れた異様な空模様にこんな場合でもクレアの口がぽっかりと開く。


「耳を塞いでおけ」


 口を慌てて閉じてマーリンのアドバイスに素直に従った。

 少し離れた場所ベニメリヌもまた空の球体に気付く。


 獣属魔獣の本能が宿主に、一刻も早く「離脱」するか、一刻も早く「殺す」かの二択を迫る。


 ベニメリヌは瞬時に選んだ。


 今すぐに、脅威の根源である魔状の匂い濃いあの人間を殺さなければ―



「させんぞ。『流砂の刃(オリスヘーク)』」



 以前であれば地面に棲む巨大な鮫の背びれが目標に向かって突進する魔状だったが、こちらも物理学に則った改良を加え、形状を変えて今魔獣に襲い掛かった。



 一本の縄を一度上下に振ると、縄を媒質として一つの波が反対側に向かって伝わっていく。この場合、縄を持って上下に振った場所が波源だ。

 これと『流砂の刃』は性質が同じであった。媒質は地面の土砂であり、波源は魔状者の操る魔子である。この魔状は特定の土を魔子によって固定化または強化するのではなく、「波が伝播して盛り上がった土」という条件に該当するもののみ硬質化していた。

 刃がいつ敵に当たるか分からないのであればこの条件付けは悪くは無いが、そうでないならば効率が悪い。速度も出しづらい。ということで二人は三点を改修する。


 一点目は波源。魔状師から土に与える魔子はこれまで刃が大きくなる目的でも使用されていた。しかし最初から大きな刃を形作る必要がないのであれば、その分の魔子を別の行使過程に使用するよう方針を変更した。

 二点目は媒質。ヨウの高校時代のうろ覚え知識であるが、波は媒質の条件が同じであれば、波長や周期に関係なく速度が一定となる。魔子による加速はあるもののそれに頼らずとも速度が上がるのであればそれに越したことは無い。媒質である土の状態を魔子により拡散し、より波動の速度が向上する仕掛けをした。幾分実験的な方法であったものの、これによって加速させるために使用する魔子の半分以下の力で以前と同速にすることが可能となった。

 三点目は『流砂の刃』という魔状自体の変型である。先に触れた通り旧来は「波が伝播して盛り上がった土」という条件式に該当するものを硬質化していたが、的が明確であるならば不要な条件だ。目標に当たる直前に盛り上がって着弾しても変わらないのであれば、その方が使用魔子が削減できる。

 

 以上三点の改良によって変容した新版の小さな刃が大地を切り裂くような速度でベニメリヌに迫る。

 危険察知により防御体勢に入ると同時、マーリンは地面から突き出した巨大な刃を顕現させ、そのままの速度で一直線に着弾させた。


「流石だ。まだ硬いか!」


 悔し気な言葉とは裏腹に、肉厚の巨大な大鉈と衝突したベニメリヌはガードしていた腕から縦一直線に鮮血が吹き出し、ノックバックで後ろに吹っ飛んだ。


「いやヤバすぎだろ。なんだこの爺さん……」


 この熊の魔獣はクラス5ではなかったか。

 今のところ出番の無いクレアが呆然とした声を出した、その矢先。


 目端に捉えたヨウがのそりと動いた。鬼子の身に激しく嫌な予感が点滅する。




「落ちろ。 ―『雷童子(エテメリカ)』」



 塞ぐことを忘れていたクレアの耳が、最大級に激震した。

 辛うじて目は守った。


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