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帯電

 降りしきる雨の中、広場に集まった村人に向けて村長であるホズルは大声を張り上げ説明を繰り返す。

 全員が集まってからなど悠長なことはやってられない。説明を聞いた人間から順に、逃げられる者は逃げる必要があるのだ。


 平時の人々が日常から抜け出すのは難しい。

 いくら他人が危機だ有事だと叫んでも、連綿と続いた日常がそうすぐには変わるまいと高を括るのが我々という生き物なのだ。手酷い失敗や後悔や損害を経験しなければ実感できない。野生の欠如した霊長類。それが人間だった。


 しかし幸いというべきか否か、この村人は既に過去に経験し痛感していた。

 日常とは「有事ではない期間」というそれだけであり、徐々になのか突発的であるかなど誰も選ばせてはくれないことを。


 三十前の村民はまだ実感は伴っていないが、やはり三十を越えた大人の対応は早かった。緊急事態と知るや、必要な情報を聞いた後一目散に家に帰り、家族を集め物資をかき集め荷造りを始めた。それに倣って若い者たちも追従する。一人だけ逃げて馬鹿を見る事態を恐れる(いとま)さえ与えない、危機感を募らせる行動だった。


「大体には行き渡っただろうか」

「ええ、広場に来ていない者も、誰かしらから聞いてはいるでしょう」

「……それでも、我々が殿(しんがり)になることは避けられん」


 心底心苦しそうに言葉を吐いた村長に、男衆の一人は呵々(かか)と笑った。


「覚悟してますよ村長。逃げ遅れないためにも手分けして声出しながら一回りしてきますわ」

「すまん。……ありがとう」


 周りにいるまとめ役を買って出てくれた年長者たちにも一声掛けようとしたその時。



「―おい! 何だあれ!」

「なんだよ。 ―は!?」


 一角から聞こえてきた驚愕の声にその場にいた誰もが天を仰ぎ、そして一様に瞠目し悲鳴に似た声をあげた。

 顔に懸かる滴を拭い、ホズルも誰かが指さした自身の後方に急いで目をやる。


「……魔獣、ではないか?」


 こんなタイミングだけに思わず付いて出た言葉を己で否定する。

 何かが起きていることは分かる。それほどまでに異様な空の光景だった。



 先ほどまでは切れ間の無い雨雲に覆われた空だったはず。

 しかし今、その一部が分離し、周囲の雲を徐々に巻き込みながら巨大な球形を形作っていた。一面に広がった雲の天上の一部に突如として生まれた薄黒い球体。同じ雲であるはずなのに、周りの雲さえ忌避するほどの禍々しさを伴いながら回転している。 ―と。

 

「光ってないか、アレ……」


 誰かがぼそりとこぼす。ホズルも気付いた。


 見間違いではない。明らかに「帯電(・・)」している。

 そこにいる皆々が原初的な危機を覚えた次の瞬間。



 ―薄暗かった村を余すところなく照らす程の、爆発的な光と轟音が一帯を包んだ。

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