正体
<開拓者等級>
個 : (炭)⇒鉛⇒鉄⇒銅⇒銀⇒金⇒白金 (名付きの犯罪者or犯罪クラン = 水銀)
連 : 鉛⇒鉄⇒銅⇒銀⇒金⇒白金
※連はパーティーと同義。光沢級(銅から)に入ってくると一人前。身分証明にもなる、それなりの地位。
<魔獣等級>
・灰(クラス1)
・鈍(クラス2)
・橡つるばみ(クラス3)
・墨(クラス4)
・黒(クラス5)
・漆黒(クラス6)
・黒銀くろがね(クラス7)
※等級の由来は採取される魔臓の色から。等級の中でも上位下位は「濃淡」or「上下」で分別されます。
正門の簡素な軒先の下。雨脚は徐々に強くなっている。
「マーリンさんと、え、リュシー?」
「や、やっほー」
じろりと視線を寄越したマーリンと。そして何故かいるリュシーが居心地悪げに返事をした。
村長のゾブラが二人を見やってニヤニヤと笑う。
「いや、あのさ。最近村長さんのお仕事手伝ってて。ハイシェット村でもほらナハセ村のトマトゥル料理みたいに特色あるもの作れないかなーなんて考えててちょうど試作品出来たから立村祭の場で食べて感想聞かせてもらおうかなーと考えてて」
息継ぎなしに説明したリュシーの早口言葉を二秒ほど遅れて飲み下し、なるほどとヨウは頷いた。
「そうなんだ。料理上手かったんだっけ?」
「まあ、そんな誇れるほどじゃないけどさ」
謙遜するリュシーの言を否定するように、ゾブラが割って入った。
「何言ってんだ、リュシーはすごいぞ。手際もいいし味付けもいいし。何より意欲がある。料理が得意ったって、皆が皆それを名産にしようなんて考えん。見た目や作り易さ、独自性まで考えて売り出そうとする人間が村から出てきてくれたんだ。なにより家の中もパッと華やぐし、良い事尽くめだから色々村の運営も手伝ってもらってるよ」
照れたように顔を俯けて「もうその辺で……」と押しとどめようとするリュシーと、ガハハと呵呵大笑し、出来た我が子を自慢するようなゾブラを交互に見た後、ヨウの口から素直な感嘆詞が漏れた。
「知らなかった。すごいなリュシーは」
「そうだぞ。既にうちの村じゃ試作品も好評でな。よりその料理に合うような野菜を作れないか改良まで始まっている。ヨウの意見も聞きたいから、片手で食べれるから時間がある時に食ってみてくれ。―ちゃんと食べろよ。絶対だぞ? リュシーが作ったんだか―」
「まあまあまあまあ!もし見つけたら食べてくれればでいいってはなしなんで!」
「いや、そんなに念を押さなくても食べますって」
呼ばれたのはこの話をするためだったろうか、と首をひねってマーリンを見ると、いやに静かな白髪の壮年男は耳を澄ますように目をつぶっていた。
騒いでいた少女と村長も、ヨウの視線を辿ってマーリンの様子に行き着いた途端口を閉ざした。
数秒後に目を開いたマーリンは、俺を視界に映すとおもむろに言葉を紡いだ。
「ヨウ。かなり嫌な気配がする。状況を教えろ」
「――つい先ほど、森の一箇所から複数の魔獣が飛び出してきました。アドミラジ、ヒヒ、エリュマントスです。既にクレアさんが粗方討伐していて残るはアドミラジだけですが、未だに湧いているようですね」
「一箇所だけからか? 今日より前のこれまでも同じことはあったか?」
「今のところ一箇所だけです。今まではこここまでの事は無かったですが、森から出てくる魔獣は徐々に多くなっている、とゼンネルさんは言っていました」
ヨウの報告した通り、ヒヒやエリュマントスが森の端から出てくることなどヘケット村に来てから今日まで一度としてなかった。
マーリンは一つ頷く。
「やはり何か森で起きているな。しかし選りに選って立村祭に発生したのは偶然か?」
「「……」」
誰に聞いたわけでもない疑問は、そこにいる三人の他、遠巻きに話を聞いていたヘケット村の村長ホズル、兼業行商のロイの耳にも届いた。
「なんにせよ、いずれ他の森の端からも魔獣が涌く可能性がある。ゼンネルにも伝えて有事の連携態勢を整えたほうが良いだ―」
「―ありゃあ珍しい。マーリンもいるのかよ。お、リュシーじゃん?なんでいんだよ?」
マーリンがホズルに向けて意見を述べようとした矢先、無遠慮な声がそれを遮った。
目を細めて、雨の中歩いてきた二人にマーリンが視線をくれる。
「ゼンジとジンか。そう言えばいるんだったな」
「はっ……相変わらず興味がないか。そういうあんたはヘケットの立村祭ごときで何故出張ってきた。魔獣が出る気配でも感じたか」
「その通りだ。お前にはわからんだろうが」
―思わぬカウンターに、聞いたゼンジのこめかみがひくついた。
「俺はただの護衛だ。最近はハイシェット村でさえ弱小の魔獣が一体二体確認され始めている。道中強めの魔獣に襲われる危険もあると村で判断したので来ただけだ。ゾブラもリュシーも長居はせん。一時的に村を抜けるのも問題はないだろう」
「ならのんびり村長の護衛でもしていろ。涌いた魔獣は俺らが処理する。足の腐った時代遅れが出る幕なぞない。……ジン、行くぞ」
「へいへいっと。あーロイさーん。俺らの雨天用の靴取りたかったから、勝手に馬車上がらせてもらったぜー」
言い残して、門の軒下から二人が一歩踏み出した。その矢先。
―遠雷のような叫び声が村一帯に木霊した。
**********************
「なっ」「ひっ!?」
「きゃあ!」
明確なる敵対の遠吠え。
「……魔子の乱舞が激しすぎる。黒狼ではない。明らかに大型の魔獣だ」
マーリンの冷たい声が雨音と共に響いた。そして反応を待たずに皆を見回す。
「―誰でもいい。最近でも昔でもいい。いつもと違う魔獣や獣を見たという報告はあるか」
その言葉に、ハッと顔を上げた者が二名。
―そして、顔を背けた者も二名。
「ジン、行くぞっ!」
「あっ、ああ!」
駆け出した二人に胡乱気な視線をくれた後、他に反応の合ったロイとホズルに顔を向けた。
「何か心当たりが?」
「……はい」
二人は顔を見合わせ、代表してホズルが話し出す。
あまりに遅すぎる、マーリンへの報告だった。
「急いで話してくれ」
**********************
「熊の子の魔獣、だと」
以前起きたアドミラドリアの討伐とほぼ同時期。つまり九か月ほど前に兄弟とロイが出くわしている魔獣。
「はい。ただその、彼らは討伐したと言っていて、実際に魔臓も見せてきたので納得したのですが。ロイさんは実際に見ているはずです」
「ロイ。どういうことだ」
ロイは肩を落として目を合わせない。しかしやがて、懺悔するような細い声で事実を口にした。
「……二体いたんです」
「え?」
「―時間が惜しい。手短に教えてくれ」
冷静の声の裏で、マーリンは酷く焦っていた。
声の主は森の中から聞こえた。近くはない。が、遠くもないだろう。情報があるならば仕入れてからすぐ向かうべきだ。
「子どもの熊の魔獣で、どちらも小さかったです。止めたのですが、一体をあの二人が生け捕りにしようとして。―っ!」
ロイが恐怖によって引き付けを起こしたように息を止める。あまりにも愚かな真実を耳にしたマーリンの顔は、それほどまでに険しかった。
「底抜けの間抜けが……。すまん、続きを」
「は、はい。一度は生け捕りにしたのですが、……途中取り逃がしてしまいました。ひどい傷だったのですが、生きていれば、森に熊の魔獣は存在する、かと」
ため息を一つ付き、マーリンは頷いた。
「わかった、良く話してくれた。特徴は、何か覚えているか?」
熊の魔獣は何種か存在したはず。
最低でもクラス3。だが幸運な事にクラス3であれば対応可能な戦力が存在する。あのアドミラドリアを殺したクレアもいる。これは辺境の要所でも何でもない村に置いては奇跡とも言える。
しかし、確か最高クラスは―
「赤い眼でした」
沈黙が流れた。誰もがマーリンの反応を待っていたが、急いていた当人からの応答が無かった。
「―……なんだと」
「……おい、マーリン?」
既に聞こえている。しかし珍しくもマーリンの耳は、確かに聞いた言葉を拒絶していた。感情が抜け落ちたマーリンの眼がロイを捉える。ロイはわななく口を懸命に動かして伝えた。
「く、黒い毛の、赤い眼をした魔獣でした」
ぐらり、と立つ地面が揺れた。
―熊の魔獣は何種か存在する。
その通りだ。最低でもクラス3。―しかし最高は?
「マーリンさん?」
ヨウの声が聞こえる。
「最悪の状況だな。すぐに向かうぞ」
不安そうに聞いていた周囲に告げた。
「先ほどの声の主は熊の魔獣だ。『紅露熊』ベニメリヌ」
マーリン自身も驚くほど乾いた声はしかし、その場にいる誰の耳にもやけによく聞こえた。
「―クラス5の化け物だ」
信じたくない言葉を飲み込むのが遅くなるのは防衛本能であるが、聞きたくない言葉ほど聞こえ易いのは生存本能の賜物か。
マーリンの口から告げられた言葉を誰もが確かに受け取ったが、脳が意味を飲み下すまでには多少という言葉では余りある時間を要した。
<開拓者等級>
個 : (炭)⇒鉛⇒鉄⇒銅⇒銀⇒金⇒白金 (名付きの犯罪者or犯罪クラン = 水銀)
連 : 鉛⇒鉄⇒銅⇒銀⇒金⇒白金
※連はパーティーと同義。光沢級(銅から)に入ってくると一人前。身分証明にもなる、それなりの地位。
<魔獣等級>
・灰(クラス1)
・鈍(クラス2)
・橡つるばみ(クラス3)
・墨(クラス4)
・黒(クラス5)
・漆黒(クラス6)
・黒銀くろがね(クラス7)
※等級の由来は採取される魔臓の色から。等級の中でも上位下位は「濃淡」or「上下」で分別されます。




