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立村祭2(晴れの日)

「相変わらず調子に乗ってるみたいだし、もっかい転がして自分の立ち位置思い出させてやるよ」


――


「……あーそう。相変わらずてめえみたいな鬼女に助けてもらわねえとどうにもならねえとは、この村も全く成長してねえなぁ」


 ジンの言葉にピタリとクレアの足が止まる。


「断言するね。斑の森に近いくせにいつまで経っても鬼頼り、引退したおっさん頼り。だから村が半分無くなるような目に合うんだよ。次通りかかった時に村が消えてても俺は驚かねえな!」


 挑発的な言葉により、彼女の目が殺意の光を帯びる。


「よく知りもしない馬鹿がまぁベラベラと喋ってんな。てめえごときの弱者がイキった言葉吐いて分かったような口聞いてんなよ恥ずかしい」

「てめえぇ……!」


「ていうか相変わらずなのはどっちだよ。相変わらず成長してるのは自分より弱い奴見分ける力くらいだろ? お前フーフォンテまで行って何してたの?」

「!っぶっ殺す!」


 ジンが闘場の縄を飛び越え一足飛びでクレアの元へ突進し、クレアも後ろに重心を取り臨戦態勢となる――


「っが!?」「!」


 しかし両者がぶつかり合う前に、ジンが90度の方向に跳ね飛ばされる。

 クレアも驚いたのは束の間。進行方向を逸れて転がるジンと位置が入れ替わるようにして現れた男を注視する。


「はしゃぎすぎだジン。いくら祭りだからといってもな」


 そして今度はクレアに視線を寄越す。


「今日は祭りだからな。喧嘩はつきものだろう。……普段言わない本音が混じったとしても少しは受け流してほしいもんだ」


 明らかな挑発。クレアは喧嘩が売られたことを察知する。


「弱い弟の喧嘩にやさしいお兄ちゃんが出張ってきたわけだ。格好いい登場しすぎても後で恥かくだけだから、今なら一言謝ってくれれば許してやらんでもないけど?」


 ゼンジのこめかみがピクリと波打つ。が、予想に反して身体ではなく言葉で応えた。


「ジンの言葉をただの挑発と流すのはどうかと思うが。そのうちゼンネルも年老い、斑の森に相対できる人間はお前しかいなくなる。お前がいつまでヘケットにいるかもわからん。誰でもわかる懸念を放置していれば、村として成長していないと言われても仕方のないことだろう」


 ゼンジとしてはヘケット村に長年横たわる問題を引き合いに、クレアとの戦闘を回避できればそれでよかった。


 どうせこの村には、クレアとゼンネル以外は農夫に毛が生えた程度の者しかいない。クレアも、ここで喧嘩を買えばそれを認めたと同意であることはわかるはず。

 

 ここで舌戦に勝利し、悠々と祭りに戻ってやる。

 そのような算段をしてほくそ笑むゼンジがクレアを視線を戻した時、彼は虚を突かれた気な顔をした。


 ―何故か。


 クレアも同じ顔をしていたからだ。


「―成程なるほど」


 クレアは間違いなく笑っていた。


「そこまでヘケット村について考えてくれていたわけだ。そりゃありがとよ。じゃあ私と兄貴以外の誰かがお前らをぶっ飛ばせば、さっきの村が成長していない云々(うんぬん)の話は撤回してくれるわけか?」


「……そんな奴がいればな」


「決まりだ。お、噂をすればだな」


 一度視線を切ったクレアが誰かを見つけ、再びこちらに向かって含み笑いで言った。


「選ばれたやつは、良いときに登場するってのは本当だねぇ」


 そして眩しそうに上を向く。


「きっと神様も観たいんだろ」



**********************


「おーいヨウ!」

「?はいよ」


 暴漢と一触即発な状況だと言われて無理やり連れてこられたが、近づくにつれてそれほど剣呑な空気では無いようで「どうしたものか」と考えていた直後、クレアからお呼びがかかってしまった。とりあえず適当に返事をする。


「ヨウ……?」


(どこかで聞いた名だ)


 その名を覚えたときの言いようのない怒りが、ゼンジの胸に不意に立ち昇る。


「ガキじゃねえか。なんだっつーんだ、あいつが俺らに勝てると思われてんのかよ」


 ヨウの身体は大きい方だが、それは同年代と比べてのこと。

 ジンも体格は人並み以上に大柄であったため自身より小さいヨウをみて軽んじるような言葉を吐いた。


「おい」

「ん、なんだよ」


「そいつはマーリンの弟子だろうが……知らないとでも思ったか? そいつが貴様らの村の成長とどう関係がある」

「ああ、知ってたんだ」


 不正を指摘されたはずのクレアはしかし、大して動揺したそぶりも見せなかった。


「私は一応あんたらの実力について、一定の評価はしてるよ。金等級並みのでっかい態度の割にはくそ弱いけど」


 ナチュラルに煽るクレアに、事情に着いていけないヨウは少しハラハラする。


「ジンと同じくらいまで育ってるやつもいるけど、まだ実践という意味じゃどっちに転ぶかわかんないし、それであんたらが勝って調子乗らせるのも(しゃく)だしね。 ヨウは確かにハイシェットの人間だけど、この村で私たちと成長してきた人間だ。マーリンに教わっているのは基本魔状だし。村の成長を見せろってんなら、ここで力つけたヨウを出したっておかしかないだろ」


 まあそれとも、とニヤニヤしながらクレアは続ける。


「ヨウと対戦するのが嫌だってんなら他の奴ら呼んでやってもいいぜ」


「……は、だれが」

「まー待てよ兄貴」


 クレアを()め付けたあと、ジンは嗜虐心の溢れる顔でヨウを見た。


「まずは俺からいっちょう揉んでもらおうじゃねえの。陰気な黒髪おにいさんにさあ」


「だってさ」


 クレアがこちらをワザとらしい笑みで振り返る。


「こいつらヘケット村の行く末が不安らしくてな。村人が訓練でどれだけ伸びたか知りたいんだと。ヨウはここで剣術学んでそろそろ一年だろ。この村での一年でどれくらい冒険者に迫れるかいい指標になるぜ」


 ああ。と今思いついたような風で付け足す。


「一年ばかり頑張っただけの年下に敗けたら恥ずかしくて死んじゃうんじゃないか、とかはあんまり気にしなくていいから」


 途端、ジンの顔が鬼のように変わる。


「村人のくせに……!さっさと闘場にあがれや!顔の形が変わっても文句はそこの鬼女にいえよ」


 何かしらに巻き込まれた気がするヨウは、ため息をつきつつ言われるままにロープをくぐった。

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