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天上の会話

 また別の場所の話。


「行っちゃったかねえ」


 ぽつりとつぶやいた声にもう一人は律儀に反応する。


「そうだな。無事移動できただろう」


 応えた声の向きに振り向いた顔は笑っていた。


「楽しみだねえ」

「ずいぶん期待しているな」

「というよりも、気に入ってるんだよ」


 どちらの声も先ほどまで精神しかない男と話していた声音とは違っていた。明らかに女性型の彼女と男性型の彼とで包み隠さない天上のやり取りが始まる。


「まあ楽しみにする理由もわかる」

「だよね。見た? あのスペック。波戸くんが聞いたら怒るだろうけど、あんな能力ある人間が運良く昏睡状態になってくれてよかったよ。いやー、適当な人選ばずに粘って地球ウォッチ続けてよかったー」


「確かに平均から乖離した能力だな。勿体ない奴め」


 その返しに彼女は我が意を得たり、とばかりに勢い込んだ。


「そうそう! 本当に驚きだよね。わかりやすいし発揮する場所なんていくらでもある能力と能力値なのにねぇ。なまじ他の基本性能も平均以上だったから、自分に向いてるかそうでないかとか、今まで考えることが少なかったんだろうね」


 言われた男性は、以前見た彼の能力レポートを思い浮かべていた。


「反応速度。反射神経か」


 しみじみとつぶやく。


「反応速度がモノを言う競技のトップアスリートにも劣らない数値だ。世界の上位数パーセントだろ。視覚系統の能力もいやに高い。身体能力も悪くない、どころか良い。……本当に勿体ないな。彼が十代にやっていたスポーツにほぼ役立たなそうだ」


「陸上トラック400mでしょ。絶対使わないでしょ。いやわかんないけどさ。でも県で入賞したりしてるし、向いてると思ってたんだろうね」

「確かに性格的には向いているといえるか」


 陸上400mは短距離種目で最も過酷な競技と言われており、スピードを求められるにも関わらず持久力とペース配分まで必要となる、理想の高い女子とのお付き合いに果敢に挑むMっ気が必要な大変魅力的な競技である。

 さておき、精神耐性の高い彼には会っているスポーツともいえるし、それは実績が証明しているが。


「そのせいで自分の最大の可能性を見失ってるんじゃなぁ」


 やれやれ、という言葉が聞こえてきそうな女性の声が続ける。


「知ってる?彼さ、本当は格闘技とか興味あって空手部入ろうとしてたんだよ。でも同学年で入部しそうな人がいなくて、一人で入るとこの先何かと困りそうだから、て理由であきらめてるんだよね。陸上よりずっと活かされただろうにさ」

「空手を選んでいたら、もう一つの才能も開花しただろうな」


 ぽつりと男性がつぶやくと、女性が笑いの含んだ声で請け合った。


「数値も参考値の、何ともあいまいな能力だけど、確かにね」


 彼のもう一つの、常人を大きく超えた数値にも興味をそそられる。

 人の命が軽く、奪い合いが当たり前の世界でなら、もしかすると反応速度より役に立つかもしれない。


 そう考えると確かに楽しみだと、彼は静かに頷いた。


「あと中村倫〇系のあの顔も好みだし。あっちの世界ではどう評価されるか知らないけどさ」


 ため息をつく。こいつは涼し気な顔が好きだ。この世界の住人からすれば神と似たような存在のくせに、思いっきり公私混同である。


「それとどうでもいいことだけどさ」


 しかし男性は女性の、このなんでもなさそうな言葉に身構えた。

 彼は知っている。女性がこんな言い方をするときは、割と重要であることが多い。


「―私的にはあの顔で無精ひげ生やして髪とか無造作な長髪にして後ろで一括りに結んでさ、無口で武骨な鍛冶職人とかになってほしいんだよね。本家トモヤと違ってガタイもいいし。……いやーやばい、絶対似合う。全女子が賛同する」


 違った。本当にどうでもよかった。


「まあとにかく」


 そして急に切り替えた。


「今まで冒険しなかった男が、そしてそのせいで日の目を見なかった力がやり直しの人生でどうなるのか。そしてそれが世界にどれほどの影響を与えるのか」


 ワクワクしたように彼女の世界よりも高い上に目を向ける。


「当人には申し訳ないけど、私たちの数少ない娯楽を彩ってほしいもんだあねぇ」

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