雷魔状
庭に立つ2人。疾うに夏の気配は消え失せ、冬の到来を幾分感じさせる季節である。
青く熱を孕む風はすでになく、乾燥した空気は季節の変わり目を確かに告げていた。
「参考までに聞くが」
背中を向けていたマーリンさんが首だけでこちらを振り向いた。
「雷魔状を選んだのは直感だけが理由か?」
「まあ、そうです」
(いえ、嘘です)
可能性を感じたのは本当であるし、これを直感というのであれば嘘ではない。
雷魔状と聞いたとき、俺の脳裏に某漫画のワンシーンが閃光のように走り抜けた。
―あの漫画、連載再開してるだろうか
自身にスタンガンをぶちかます明らかな自傷行為によって電力を蓄え、念的な力と融合していたキャラクターが脳裏をよぎる。
もちろん俺はゾルディック家の出身ではないし波戸家は家庭の事情で拷問かますような変態家族でもなかった。よって彼の真似はできない。
(だが、この世界には魔子がある)
原子分子をいとも容易く意のままに操る物質が。
キ〇ア君のように体に電気を溜めずとも、空気中で電気を生み出し撃ちだすことができれば―
と、ここで俺は胡乱な目で見つめられていることに気付いた。
「率直に言えば、雷魔状に可能性を感じたってことですね。あと雷を操るってかっこいいなと思って」
探るようなマーリンさんの目つきに少々呆れの色が混ざった。
「確かに直感なんぞそんなものだが。格好良さで選ぶなど、お前でも年頃のガキと同じ部分があるんだな」
そう思ってくれればいい。実際その通りであるし。
「では始める。時間がかかるから、まだ楽にしてていい」
そう言うや、手のひらを上にして片手を少し持ち上げた状態で目をつぶり、マーリンさんは魔状の行使に入った。
――
目をつぶった状態で二分が経過しようとする頃。
虚空のリンゴを掴んでいるかのように立てられた五指の中で、一瞬火花が散った。
見間違えではない。
最初の火花を皮切りに次々と光が乱舞し、パチリ、パチリと、思わず身体が竦む音が鳴り始める。
―来る。
久々の感覚。今回はパリパリと毛先からはじけるような悪寒が首筋で爆ぜる。
依然として鳴りやまぬ帯電音。
もう限界だろ。と思った瞬間。
マーリンさんが目を開く。そして、持ち上げていた手を目の前の的当て用の厚い木板に押し付けた。
「――撥弾き」
刹那。
ひどく乾いた音と閃光が走り、触れた木板がきれいに割れて弾け飛んだ。
「…………まじか」
これは予想以上だ。
何がと言われれば、全てが。
威力は申し分ない。『添え撃ち』に似ているが全く違う。
雷撃が付加されたこの魔状を生物に当てれば、魔獣とて即座に行動不能だろう。
さらに行使速度。
遅いと言っていたので三、四分は掛かるのかと思っていたが、正味二分程度である。
まあ確かに実戦向きではない。雷魔状しか使えない魔状師が魔獣とばったり遭遇してしまえばほぼ詰みだろう。
しかしこれが早く行使できるならば、雷魔状は間違いなく有用である。
あとは射程か。これは他の雷魔状に期待だな。
考え込む間に近寄ってきたマーリンの目が俺を覗き込む。
「お気に召したようだな」
「ええ。せっかくマーリンさんがいるので覚えられるものは覚えたいですが、雷魔状には特に注力して育てていきます」
少しは苦言があると思った。
氷でもなく土でもなく、扱いにくいと伝えたはずの雷魔状を選んだのだから。
しかし、マーリンさんは特に気にした風もなく近づいてきて、俺の頭を強めに撫でた。
「そうか。しっかり励め」
雷魔状を知っている人間がいないか、知り合いに聞いてみる。
そう言って離れていくマーリンさんに俺は大きく頭を下げた。
この日から俺は、「雷」と「氷」を主武器とし「土」「風」も延ばす訓練に入った。
雷魔状単体で勝負するにはまだ早い。それならば現時点で明らかに威力のある氷魔状も延ばすべきとマーリンさんに言われ、納得してそうなった。
密度の濃い三か月は瞬く間に過ぎ、魔状の確かな手応えと割合ひどい怪我を携えてハイシェット村を再び離れ、ヨウはヘケットに戻った。




