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稽古(vs ウィン)2

仕事が忙しく、週イチの更新になってしまいました。

感想、ブックマーク本当にありがとうございます!

 これまでマーリンさんに教えてもらった型は主に()(せん)が基本であった。それがこの世界の主流なのかは聞いてないのでわからない。


 手合いが決まった途端、ウィンの顔は引き締まっていた。

 強くなければ簡単に死ぬこの世界。前世とは訓練への本気度が違う。


「じゃあ、―はじめ!」


 ヤハトが生来のゆるい声に、できる限りの真剣さを混ぜた声音で宣言した。


「―ふっ!」


 開始直後、過剰な掛け声もなく、最小動作で俺へと迫る。


 なかなかに速い。


 木剣に柔らかめな布を幾重にも巻いた模擬剣は速度も出ないが当たればそれなりに痛い。


 振りかぶった動作で最後の一歩を踏み出す。

 ウィンが稽古に参加して一年以上経つ。ケイズ同様、この歳で警護を任せられるのだ。

 歳の若さからすれば十分に鋭く、周囲の人も少年の成長に目を細める。


 だが、何故か俺は速いとは感じない。


 体より先に思考が加速する。この先どうやって討ち取ればよいか。

 しかし今の実力では後の先を取りたいと思っても、訓練していた型を現実に当てはめることは難しかった。


 ―とりあえず回避。


 ウィンの袈裟斬り。

 半身の構えから後ろ足を半歩のみ引き、最小動作で上体を後方に反らしてスウェーで避けた。


「うおっ」「上手いな」


 驚いたのは周囲。そこそこ速かった袈裟をあれほどキレイに避けるとは。

 ゼンネルさんから、「彼は剣技は始めてまだ間もなく実力は魔状ほどではない」とお達しがあっただけに、予想を大きく裏切る初手対応に思わず声が上がる。


 ウィンも同様だ。

 模擬剣が弾き合うこともなく、まして掠りさえしないことは想定外だった。しかしそれは表に出さない。

 外側へ回避したヨウの正確な位置こそ分からないものの、斜めへ振り切った剣の手首を素早く返し、低い体勢から片手の水平斬りをお見舞いする。


(当たる!)


 しかしその確信にも似た予測は、二度目も裏切られた。


 間を置かずの水平薙ぎは、再び抵抗なく空を斬る。と同時に片首へ衝撃が走る。

 ウィンの死角、すでにほぼ背面を取っていたヨウが、首を目掛けて剣を振っていた。


「止め!」


 先ほどよりも真剣味を帯びたヤハトの声が響いた。


 その瞬間、わっと声が上がる。

 たったの二合であったが、ヨウの動きは明らかにそこらとは違う才を感じさせた。

 ざわざわと周囲で感想が漏れる。


「なあ、もしかしてヨウくん『巡』使ってた?」

「いや、身体の速度はそれほどでもなかったろ」

「速いというより反応がよかったように見えたけど」


 観戦していたゼンネルも細目を見開くほど驚いた。


(見切りが早い。圧倒的にだ)


 そもそも魔状師として大成しそうな予感はあった。しかも開拓者でなく、国属となる未来すら想像できる大器。

 しかし今見た光景で、ゼンネルは剣の指導者としての欲求が激しく高ぶるのを感じてた。


(目がいい。そして反応が恐ろしく速い)


 木剣ではこうはいかないだろうが、それでも恐るべき見切りの早さだ。

 常人には真似できない柔軟性で避ける者、抜群の身体能力で回避する者、熟練の域に達し先々の先を取って読みで躱す者。


 そのどれでもない。どれかと言われれば身体能力だが、ヨウは持ち前の瞬発力で間一髪避けるような方法ではなかった。

 見て避けた(・・・・・)のだ。


(まさかの……前衛魔状師クラスか?)


 三か月で習得したとは思えない魔状の威力に、剣技というにはまだ未熟だが、それを補って余りある反射神経。


 国属魔状師とは基本的に後衛。遠距離で工程の複雑な『及』を行使し、広範囲の敵を削ることが主な役割である。

 対して前衛の魔状者は『巡』で通常兵以上の戦果を挙げることを求められている。


 しかし「前衛魔状師」は魔状師クラスでありながら前衛を任される存在。

 求められることは中近距離からの『及』と『巡』で「前線の敵」を削り、常に優位な戦局を作ること。

 だが前線は混戦だ。貴重な魔状師が、玉砕覚悟の攻撃や、敵味方関係なしの魔状により死亡することが容易に起こりえる。


 前衛魔状師に任命されるための重要な要素は一つ。


 死なないことだ。


 その存在は戦況を左右し、戦術にも大きく影響する。

 乱戦の中でも単独で生還できるほどの単体能力を持っていること。それが前衛魔状師の条件である。


 ゆえに前衛魔状師は、国属魔状騎士より、そしてさらに国属魔状師よりも圧倒的に狭き門である。そして今までの大戦で、戦局を変えてきた功労者も前衛魔状師に多い。しかし逆に戦犯として槍玉に上がることも多い。


 ゼンネルは息を吐いてつぶやいた。


「……この世界は、そういう風にできているってことかな」



 これほどの才能を持つ者が、一線から離れた隠居中のマーリンの前に現れた。


 運命、というと途端に夢見がちになる。私ももうそんな歳ではない。

 それよりも、入り乱れる人生の螺旋の中で力ある者同士が互いに引き合って混ざり合い同化し一本の縄となる。そんな法則があるのだと思った方がしっくりきた。


 ゼンネルは都市部で開拓者生活を送っていたため、開拓者時代のマーリンを知っている。

 マーリンはかなり珍しい、三十代で開拓者を始めたオールドルーキーであった。


 最初は単独で活動していたが、すぐに有力(パーティー)に誘われ、その連は数年で等級を駆け上がった。

 結局マーリンが開拓者として生きた年数は十年にも満たないが、その当時の評判をゼンネルは未だに覚えている。


―『もしマーリンが国の招集に応じれば、数年内に前衛魔状師に任命されるだろう』



(……そんなマーリンさんの初弟子もまた、前衛魔状師クラスとは)


 夢見がちとは言ったものの、やはり運命を感じずにはいられないゼンネルだった。

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