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宴も酣

<開拓者等級>

個 : (炭)⇒鉛⇒鉄⇒銅⇒銀⇒金⇒白金 (名付きの犯罪者or犯罪クラン = 水銀)

連 : 鉛⇒鉄⇒銅⇒銀⇒金⇒白金

※連はパーティーと同義。光沢級(銅から)に入ってくると一人前。身分証明にもなる、それなりの地位。



<魔獣等級>

・灰(クラス1)

・鈍(クラス2)

・橡つるばみ(クラス3)

・墨(クラス4)

・黒(クラス5)

・漆黒(クラス6)

・黒銀くろがね(クラス7)

※等級の由来は採取される魔臓の色から。等級の中でも上位下位は「濃淡」or「上下」で分別されます。

「丈夫な体でよかったな」


 寝かされた妹の姿を見るや否や取り乱していたゼンネルさんも、クレアさんの命に別状がないこと、ひどい打撲だが数日で回復する程度であることが分かると次第に落ち着いていった。


 そして、妹が果たした成果を振り返る。


「アドミラドリアの中でもさらに巨大だな。まず間違いなく、普通よりも等級は上だろう」


 魔獣にはそれぞれ等級が割り振られており、それは強さと生まれる魔臓の価値で分類される。

 昔からある色等級と呼ばれるランク付けでは、下から順に、


(はい)(にび)(つるばみ)(すみ)(くろ)漆黒(しっこく)黒銀(くろがね)


 となっており、これらは魔臓の色を元にしていると言われている。

 魔獣から採れる魔臓は個体が強くなるにつれて黒色が濃くなり、普通の人間ならば生涯見ることなどないが、高位の魔獣は希少金属(レアメタル)のように黒光りし始めるらしい。


 しかし昨今は数字でクラスを表現することも多い。その場合、


クラス1:灰

クラス2:鈍

クラス3:橡

クラス4:墨

クラス5:黒

クラス6:漆黒

クラス7:黒銀


 となる。強大であるほど数字が上がっていく方式らしい。

 また、黒(クラス5)まではクラスの中でも上位下位でわけることが多い。


 色等級でいえば濃淡。数等級であれば上下。


 アドミラジであれば最低位の「淡い灰(色)」または「クラス1の下(位)」となどと呼ぶ。

 一段階強い高い魔獣の場合は「濃い灰(色)」または「クラス1の上(位)」となる。


 そして本来のアドミラドリアは「淡鈍色」。「クラス2の下」であり、アドミラジより二段階上、クラスでいえば一等級上である。


 だが、先ほどクレアが横から半分こにしたアドミラドリアは明らかに通常より大きく強力であった。

 最終的には開拓者協会または商業連合の鑑定士が魔臓を確認して決めることではあるが、あの雄のアドミラドリアは間違いなく「2の下」には収まらないであろう。


 村人によって抉り出された魔臓は、雌のアドミラドリアよりも確実に濃い黒をしていたからだ。



――


 篝火の焚かれた村の中心にある広場は、夜にも関わらずお祭り騒ぎだった。

 それも仕方ない。この国ではほぼ前例のない、二体のアドミラドリアが従えた群れを村の力で根絶やしにしたのだ。

 討伐したアドミラジは百以上。中堅の開拓(パーティー)が呼ばれてもおかしくないほどの規模だったが、それを村人と他村の助っ人一人のみで討伐してみせた。

 都市部の開拓者協会が聞けば真偽を疑われてもおかしくないだろう、いわば快挙だった。


 功労者筆頭は、全員一致でクレア。

 その機動力とその膂力を活かし、アドミラドリアが現れる前から視界に入った兎を狩ってまわった。


 そして夜のアドミラドリア戦。

 通常のアドミラドリアとは一線を画した、いやもはやウサギ目ウサギ科からも一線を画した巨大な獣を最後は一刀のもと分断して見せた。

 そのど派手な勝利は観た者を圧倒し、畏敬の対象にされるのも止む無しという圧巻の活躍であった。


 そして次点はヨウ。


 降って涌いたように現れた若き魔状師。ハイシェット村のこれまた謎多き魔状師マーリンの弟子である。


 ゼンネルや村長から漏れ聞いた話では、どうもハイシェット村にも突然現れたという。

 黒髪黒目やエキゾチックな顔立ち、物腰や雰囲気はまるで上流階級にしか見えず、かと言って話してみれば意外にも気さくで腰の低さも感じさせる。

 今もゼンネルと村長に囲まれて談笑している彼を、チラチラと遠巻きに見てはきゃいきゃい騒いでいる女子の群れが散見する。


 ―いや、彼の戦いはまだ終わっていないのかもしれない。アドミラジの群れよりもなお強大で(したた)かな一群が、まさか村の中に潜んでいたとは―


 というほどでもないが、魔状者というだけで優良物件と見なされる昨今で、ヨウはさらに一握りの「魔状師」を名乗れるレベル。そのうちハイシェット村を出るであろう身の上ということが分かったとて、逆に都市に憧れる若い少女の妄想は増すばかりである。


 今は魔臓による利益を見込んで、討伐の任を受けた功労者たちを慰労する宴の席。

 怪我人はいるが死者は一人も出ていない。宴の盛り上がりを遮るものなど何もない。村長も今日は無礼講。宴会の熱気はさらに高まっていった。



――

 ゼンネルは久しぶりの旨い酒を飲み、周囲の村人らと楽しく言葉を交わしつつも、その心を占めるのは妹のことだった。


 助けに行くことはできなかったが、観ていた者たちの証言ではクレアは本当に立派だったそうだ。

 今もクレアの周りには老若男女問わず多くの人が声をかけに出向いており、ここからでは本人の顔が見えない程である。


 妹が勇敢に戦った果てに勝利を手にしたことは、巨体の獣の亡骸を見ればすぐわかった。

 アドミラドリアの中でもさらに巨大な体躯。アレを頭から水平に叩き割っていたのだ。あのような斬り方、飛び掛かる巨獣を真っ向から迎え撃たなければ不可能だろう。

 『鬼子』であってもその力を十全に使いこなせる者は多くない。しかしクレアは間違いなく、自身の力を制御するであろう片鱗を覗かせていた。


 兄として、その事実は本当に誇らしい。


 しかし同時に心配事も多い。

 妹は剣士としてはまだまだな部分が数多い。今回の戦いでも最後の劇的な斬撃に隠れてしまうが、剣士としての腕がよければ、生死を駆けた一合に持ち込むことなく勝てたはずだ。聞いた話では、初撃の時点からクレアの欠点は露になっていた。

 『鬼子』ゆえの膂力に任せた斬撃。しかし人間相手であれば容易に吹き飛ばせた攻撃が、はるかに重く厚い相手には通用しなかった。


(自分で気づいてくれればいいのだが)


 妹は殊更に自身の力を誇示する傾向がある。その内面を知っている私や近しい者からすれば仕方のないことだとも思う。

 しかし、『鬼子』として生まれた人間ゆえの事情や心の有り様まで(おもんばか)ってくれる人は少ない。

 ましてや態度がいただけないのはクレアの方。一人ひとりに分かってやってくれと言って回るわけにもいかないし、妹だって余計なお世話だろう。私もそんなことをして難しい年頃の妹に嫌われたくもない。


 しかし、今回のアドミラドリア討伐は間違いなく周囲の賞賛を集める。

 それが、彼女の今までのやり方を助長させやしないか。私は間違っていなかったと、増長させはしまいか。


 考えるほどに酔えなくなってきたゼンネルは、いっそのことクレアを囲む輪に割って入り、ちやほやされてご満悦であれば説教しようと決心する。


 愛しい、たった一人の肉親である。

 しかしそれゆえに、妹自身の未熟さによって命を危険にさらす前に、例え嫌われたとて、死を遠ざける一手を惜しむつもりはなかった。

 と、妹のことばかり考えていたせいか、無意識に視線がクレアを探す。


 ―村人に囲まれた間から見えた顔は、酒に酔い己に酔った顔ではなかった。


 急速にゼンネルの頭が冷える。

 あの顔は、納得していない顔だ。


 それから何度か盗み見たクレアの顔は、ずっとその調子だった。

 一度として笑顔を見せない妹に今度は逆にハラハラするが、先ほどまであったゼンネルの焦燥はきれいに晴れていた。



**********************


 激戦から一夜明けた今日。

 村長宅で寝床を借りた俺はいつもの時間に目が覚める。


 昨日ゼンネルさんから、「毎朝素振りと打ち込みと型の訓練をしているんだろう?だったら明日はうちの稽古に混ざりなよ」と言われているので、すぐに訓練の支度を整える。


 昨日は誰もがハイテンション。俺もゼンネル門下とも言える人達と気軽に話ができた。

 酒を飲んだウィンとケイズさん(やはりケイズさんは年上だったのでさん付けで)の過剰な持ち上げには若干食傷気味だが、彼らのおかげで周囲も警戒することなく会話できたのでプラマイゼロだと思いたい。


 昨日の宴席で変なこと言ってしまっていないか反芻しながら廊下を歩き、挨拶してくれたお手伝いさんに声をかけてゼンネルさん宅へ向かうことを告げた。

 お手伝いさんは慌てて持って食べられる軽食を作ってくれた。いい人である。


 焼いた細切りの乾燥肉を小麦粉で作ったと思われる皮で巻いた、ブリトーやトルティーヤに近いものを食べつつ歩く。


「美味いな」


 前世でもかなり健啖家だった俺としては、朝の肉など恐るるに足りない。何の肉か気になる程度である。

 しかしお米が食いたい。味付けも、もっと複雑な味が食べたくなってきた。ハイシェット村に戻ったら、一度料理してみるのもいいかもしれない。


 十分ほど歩くと広い敷地のゼンネルさん宅が見えてくる。

 この村の自警団ともいうべき人材を育てるために、耕作地でもない訓練用の土地を広く取っているのだろう。


 俺の他にも人が集まってきている。鳩尾からくる震えが、中学の時の陸上の記録会を思い出した。

 あの時も、びくびくしつつワクワクしていたな。


「「ヨウ!」」


 後ろから快活に声をかけられて振り向くと、ウィンと、たしかヤハトという少年二人がこちらに向かって走ってきていた。


「おー、おはようウィン。とヤハト」

「そうそうヤハト。おはようさん」

「うーっす!」


 二人は俺が同じく十三歳と分かってから、すぐにくだけた口調になった。入れ替わりが激しかったので長く話せはしなかったが。


「今日って朝稽古が終わった後、マーリンさんが来たらすぐ帰っちゃうんだっけ?」

「いや、そこらへんまだ決まってないんだよ」


 以前マーリンさんは「一時的に預かってほしい」と言っていたから、それが今日という可能性も無くはない。


「仲良くなれそうだったからそのままいてほしいんだけどなあ」

「いや、お前が可愛いって言ってたメイリさん、昨日ヨウの話しかしてなかったけど大丈夫?」

「…―会えなくても俺らは友達。距離は関係ないな」


 燕返しの如く翻してきたウィンを軽く小突き、童心に返ったようなやり取りをしつつ敷地内に足を踏み入れた。

<開拓者等級>

個 : (炭)⇒鉛⇒鉄⇒銅⇒銀⇒金⇒白金 (名付きの犯罪者or犯罪クラン = 水銀)

連 : 鉛⇒鉄⇒銅⇒銀⇒金⇒白金

※連はパーティーと同義。光沢級(銅から)に入ってくると一人前。身分証明にもなる、それなりの地位。



<魔獣等級>

・灰(クラス1)

・鈍(クラス2)

・橡つるばみ(クラス3)

・墨(クラス4)

・黒(クラス5)

・漆黒(クラス6)

・黒銀くろがね(クラス7)

※等級の由来は採取される魔臓の色から。等級の中でも上位下位は「濃淡」or「上下」で分別されます。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 主人公が努力を苦に思わない性格なのが好きです。 [一言] 最近見つけて読ませてもらってます。 とても好きな作品ですので頑張って下さい!
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