鬼子
<開拓者等級>
個 : (炭)⇒鉛⇒鉄⇒銅⇒銀⇒金⇒白金 (名付きの犯罪者or犯罪クラン = 水銀)
連 : 鉛⇒鉄⇒銅⇒銀⇒金⇒白金
※連はパーティーと同義。光沢級(銅から)に入ってくると一人前。身分証明にもなる、それなりの地位。
<魔獣等級>
・灰(クラス1)
・鈍(クラス2)
・橡つるばみ(クラス3)
・墨(クラス4)
・黒(クラス5)
・漆黒(クラス6)
・黒銀くろがね(クラス7)
※等級の由来は採取される魔臓の色から。等級の中でも上位下位は「濃淡」or「上下」で分別されます。
「え、えげつないね……」
「自分でもびっくりしているんですけど」
まさか氷弾を固くすることと狙撃の意識を変えただけで、これほど顕著に変化するとは。しかし特に速度を上げたつもりもなかったが、これまでより着弾が明らかに速かった。照準の絞り方が速度に影響したのだろうか。
「いや!いや、すっげえよ!」
「なんだよ今の!まじでなんなの!?」
そこで我に返った若者二人のシャウトがこだまする。うわびっくりした。
すげえすげえ!と狂ったようにはしゃぐ二人は今さら血を見て興奮したわけでもあるまい。それほど衝撃の惨状だったのだ。
「ほんとに、これほどとは……。いや、絶句するよこれは。マーリンさんを変えただけはある」
言っておくが、俺から見ればマーリンさんは別に変わった形跡はない。
数えてみると二十匹以上を殺していた。
このプチ特攻を一瞬で終わらせたことで討伐は大きく進行したはずだが、一点俺には不安なことがあった。
「ゼンネルさん」
「うん?どうした?」
ウサギ虐殺事件以来、畏敬の念を込めて接してくるウィンとケイズを相手にしながら、俺はゼンネルさんに質問する。
「今回のアドミラジは大群です。なのでナハセ村と同様で、おそらくアドミラドリアがいますよね」
「……その通りだ」
「今回運良くまとめてアドミラジを狩れましたが、これによってマーリンさんが着く前にアドミラドリアが出てくることもあり得ますかね?」
二人も思い至ったのか、ハッとした顔をしてゼンネルさんを見つめた。
「高い確率であり得るな。雄も今のでかなり減っただろう。今日の夜にでも来るかもしれん」
そういって険しい顔をする。
「運よく俺のところに来てくれれば、アドミラドリア単体ならまあ勝てるだろう。だが、離れた場所に出現した場合、俺が移動するまでに被害が出るかもしれん。ここを森の正面として、右と左も少なからずアドミラドリアが現れる可能性がある」
抱いていただろう懸念を最後まで言い切った後、俺を見つめた。
「本当は右左どちらかをマーリンさんに割り振る予定だったんだ」
「だけど、ヨウくん。先ほどの魔状でアドミラドリアの襲撃は早まったかもしれんが、それでもいいかと思ってるよ。……左面を任せてもいいだろうか」
「……わかりました。大役ですね」
「お願いします!」「ヨウなら大丈夫だな!」と口々に励ますやかましい二人の声を聞きつつ、頭は現実的に可能かどうかを考える。
正直に言って、自信のある体力も先ほどの魔状で底をつく寸前。昼間ずっと走っていたため足の疲れもひどい。ぶっちゃけ厳しいのだがあのポケモン寄りの巨大兎はこちらの事情も知らずにズカズカ乗り込んでくるだろう。
おそらく一時間あれば戦える程度には回復できる、はず。
そういえば。
「森の真正面と右側の柵は誰が担当するんですか?」
その言葉にウィンとケイズは顔を見合わせた後ゼンネルさんを見る。俺も見つめるその当人は、ぽりぽりと頬を掻いた。
どうにも言いにくい、という顔をしたゼンネルさんが、ぼそりとした声を出した。
「真正面はもちろん俺が。右側は、俺の妹が担当する」
「へえ!妹さんですか。任せられるということは強いんですね」
ゼンネルさん、今度は鼻の頭を掻いた。どうも身内を褒めるのは苦手そうだ。
そんな兄に変わり、ケイズさんが割って入る。
「強いよクレアは。ハイシェットにはマーリンさんがいるけど、ヘケット村はゼンネルさんとクレアがいるからな」
マーリンさんを引き合いに出すほどか。しかしケイズさん、ゼンネルさんの妹さんに対してはフランクだ。
「まあな。強さは認めてるよ。剣技だけでいえばまだ俺にも勝てんが、膂力でいえば逆に俺は足元にも及ばんしな」
「は?」
言い間違ったと思い聞き返した俺を見て、気まずそうだった顔が少し和らいだ。
「本当だよ。ヨウくんはここらの人には見えないから、知らないのかな? この国では、生まれながらにして『巡』行使時と同程度の力を持つ人間が、ごく稀に生まれることを」
「え、本当にですか?」
鍛えられた体格のゼンネルさんよりも妹さんのほうが力が強いと?
「はは、そんなに信じられないか。でも本当に妹はそうなんだ。常人を遥かに超える身体能力を有した、『鬼子』と呼ばれる人間だよ」
『鬼子』
管理者からもらった常識にも、マーリンさんから教えてもらった知識にもなかったんだが。
――
左面、というか正確には東面の柵近くに座り体力の回復に努める。
一面を任された時から三十分ほど経っていたが、まだどこにもアドミラドリアは現れていない。近くにはあの二人とは別の少年が三人ほど常駐し、何かあれば伝令が走ることになっている。もちろん戦闘も手伝ってくれる。
(『鬼子』か)
ヨウは先ほどのゼンネルさんの話を反芻する。
『巡』行使時と同レベルの力を有する人間など、はっきり言って反則だ。それは特殊な魔状者ということではないのかと思ったが、少なくとも今の常識としては明確に区別されるもののようであった。
『鬼子』である彼らは『巡』のように行使解除を必要としていない。本当にそもそも力が強いのだ。
そして『鬼子』は魔状の素養がない。他人の魔状を感じることができないことからも明らかであり、世間からは魔状ではなく「鬼の膂力を宿した子供ら」とみなされている。
(そして『鬼』かあ)
そう、気になるのは『鬼子』と呼ばれる存在だけではない。
『鬼』である。『鬼』という魔獣である。
人間と比較するのも馬鹿らしいほどの強靭で巨大な体躯と額に生えた角。
肌の色は様々であるが、人型の魔獣の中でも最上位に位置する身体能力と、魔状と同等の特殊な力まで有する種。さらに、その中でも高位の鬼は人間の言語さえ操ったとされる。
まさに一度姿を現せば、災害として王都に即通達されるほどの上位魔獣。
それが『鬼』。
クラス6。漆黒等級の化け物の名であった。
聞く限りの外見的な特徴はまさしく日本の鬼である。虎のパンツだって履いてそうだ。
昔は『鬼子』は蔑称だった。可哀そうではあるが、昔の人の気持ちもわかる。生まれてすぐにリンゴを握りつぶせるほどの力を持つ子を、「ちょっと力の強い子」と受け取れる人はそう多くない。
しかも、この世界は近隣との関係が希薄な前世とは違う村社会だ。変わった子は目につくだろう。
その当時『鬼子』と見なされた子は、辛かったろうな。
―しかし、この『鬼子』の捉え方も時代と共に変遷する。世の有り様を変えるのはいつだって戦争が合図だ。
強い者を求める中で『鬼子』に目をつけることは至極順当だった。
今まで忌避されたその力は、戦争時では一の槍たりえる武器となる。
戦争が一旦落ち着いても国力維持のため『鬼子』は重宝される。そして魔獣と戦う日々も続く。
力こそ正義ともいえるこの時代。『鬼子』は未だ一部では忌避されつつも、世界中で畏敬の対象に変わり始めた。
今では『鬼子』は特に蔑称として使われてはいない。
有名な開拓者の連に『鬼子』がいることで、最近はさらに負のイメージが払拭されつつある。
(その『鬼子』さんはビジュアルもいいらしいしな)
というか『鬼子』は全体的にスタイルがいいとのこと。クレアさん、どんな人だろう。
ゼンネルさんは三十代半ば~四十の間に見えるから、やはり三十代あたり―
刹那。
俺の頭の中を甲高い音が走り抜けた。 ―警報だ。
(これは、アドミラドリアか?)
しかし、アドミラドリアとは似つかぬ軽快なステップ音が、森ではなく内の村の方から広いストライドで迫ってくる。
(森からじゃない、村からか)
と気づいたその時には、すでに柵近くで跳躍のために地面を蹴った音が聞こえた。
俺から少し離れた場所に派手な音も出さずに着地したのは、濃い赤髪で少し年上に見える女の子だった。
<開拓者等級>
個 : (炭)⇒鉛⇒鉄⇒銅⇒銀⇒金⇒白金 (名付きの犯罪者or犯罪クラン = 水銀)
連 : 鉛⇒鉄⇒銅⇒銀⇒金⇒白金
※連はパーティーと同義。光沢級(銅から)に入ってくると一人前。身分証明にもなる、それなりの地位。
<魔獣等級>
・灰(クラス1)
・鈍(クラス2)
・橡つるばみ(クラス3)
・墨(クラス4)
・黒(クラス5)
・漆黒(クラス6)
・黒銀くろがね(クラス7)
※等級の由来は採取される魔臓の色から。等級の中でも上位下位は「濃淡」or「上下」で分別されます。




