移動と『巡』 ―めぐり
もうちょっと書きたいのですが、文章書くって難しいですね。
「話が急すぎますが……もしかして、この方が以前連れてくると言っていた剣の先生ですか?」
俺の言葉に頷くマーリンさんだが、当の本人らしき人は固まっている。
絶対ちゃんと説明してないよね。そして隣のおじいさんはどなた。
「火急の用があってな。ついでに俺を訪ねて来てくれたらしい。ゾブラがいい橋渡しをしてくれた」
そう言って急ぎの用をざっと話してくれるが、聞くにつれて俺は焦りだす。
「いやいや、なら一刻も早く出発したほうがいいのでは?ナハセ村でもアドミラジの群れが出てるわけですし、被害が大きくなる前に動きましょう」
俺の意見は至極真っ当だったようで、ゼンネルさんという剣士とヘケット村の村長であるホズルさんが後ろで強く頷いている。
が、マーリンさんは鬱陶しそうに応える。
「そんなことはわかっている。さっき中で言った通り、準備でき次第すぐに向かう。だが俺は大して走ることができんからな、馬車がなければ話にならん。ゼンネルとホズルさんは早く帰る必要があるが、まだ俺の依頼について返答をもらっていないのでな」
そういって、ゼンネルさんを見つめた。
「……さっきから驚きっぱなしですよ。マーリンさんに弟子ができたことも、マーリンさんから依頼されたことも、頼みの内容が弟子のためだということもね」
マーリンさんは嫌そうな顔をするが、ゼンネルさんの目は俺に向いていた。
「いいでしょう。これまでマーリンさんにはお世話になっているし、昔から村の希望者には剣の稽古をつけてますしね。だが、俺は村を長く離れる気はないので、ヨウくんはこちらに来てもらうことになりますが」
「それでかまわない。一日のうち夕刻からしか魔状の指導をできなかったが、こいつは三か月で基礎的な『及』の工程を修得した。現状使える魔状はもちろん少ないが、あとは魔状を覚え、実践や訓練で使う内に習熟するだろう。次は剣だ。手間をかけるが、一度ヘケット村で引き取ってほしい。魔獣や厄介な獣が出れば、ヨウに任せてかまわん」
そう言って、今度は俺を見た。
「お前には基礎的な工程だけは全て伝え終えている。後は組み合わせと原理の理解と反復によって、魔状は行使できるだろう。日々の課題と訓練を課すので、ヘケット村に言った後も『及』の修練を怠るな」
「まあ尤も、今回の件でお前が魔状者として有益であることを証明できなければこの話も泡と消えるが」
話が急で最後は皮肉っぽく終わったが、マーリンさんが俺の成長のために何くれと道筋を立ててくれたことは十分に伝わった。
「わかりました。マーリンさん、ありがとうございます」
「礼を言われる必要はないんだがな」
そういってマーリンさんはまた目を閉じた。会話の途中で考え込むように目を閉じるのは、マーリンさんの癖だ。
「移動の道中、お前は『巡』を使って移動してみろ。自身の力に振り回される経験をもっと積まなければ、剣技を学んでも『巡』と合わせることはできないからな」
「はい!」
ゼンネルさんは苦笑いしていたが、何も言ってこないということは了承したということだろう。
この後、ヘケット村の2人は自分らの馬車に乗って帰っていった。
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―御者台に座るマーリンの口から、思わず息が漏れる。
「『及』か『巡』、普通はどちらかに偏るものだがな」
そうぼやいた声はどこか嬉しそうだった。
――
ゼンネルさんと会ってから次の日の朝には馬車がマーリンさん宅に届けられ、用意した荷物を荷台に放り込むとすぐにナハセ村に向けて出発した。
その道中はマーリンさんが宣言していた通り、俺だけ『巡』を使っての走行訓練となっていた。
『巡』は体内に存在する魔素の力を循環させ、身体能力を大幅に増加させる。
しかし欠点も多い。その最たるものが、行使者の能力以上の力が発揮できるが故に、自分が自分の力に追いつけないことだ。
魔獣を斬るために爆発的なスピードで接近したとしても、眼が目標の魔獣を捉えられない、あるいは斬る前に魔獣を通り過ぎてしまう、魔獣を斬った後転倒してしまうなどなど。超人的な力であることに変わりはないが、操れる素質のない者には過ぎた力となる。
馬車の近くで走っている今の俺は、『巡』の持続時間の確認と持続訓練、そして『巡』を操るための基礎的な練習をしていることになる。
『巡』を行使したままのストップ&ゴーの繰り返しを、村を出て一時間ほど経ってから開始していた。だが―
「次の段階に行くぞ。ジグザグに走ってみろ」
ジグザグに走る。残像さえ生まれそうな速度で急制動、急加速を繰り返す。
『巡』を行使している間は心肺能力さえ底上げされ、少しきつい程度にしか感じない。
「次だ。ジグザグの幅を大きくする要領で、道の片側だけでなく両側を反復移動しろ」
ジグザグを大きくし、馬車の通る道を何度も横切る。
「道を横切る際、馬車を飛び越える動作を入れろ」
急加速した状態で片足に力を溜めて大きく跳躍。
「っとわっと」
「飛びすぎだ。馬車を飛び越える程度であれば加速中に少し飛べばいいだけだ。それほど力を入れるな。感覚を覚えろ」
指摘に頷き、今度は調整して馬車を飛び越える。この動作も何十と繰り返した。
向上した心配能力も悲鳴を上げ始めるが、俺は止めなかった。
……楽しい。
一度加速すれば景色が一瞬で後ろに吹っ飛び、速いものだけに許された世界に踏み入るこの感覚。
ボルトもコールマンもきっとこの世界の住人だったはず。前世ならば十秒ほどで消えてしまうこの世界だからこそ、幾多もの超人たちがトラックの上で追い求めたに違いない。
それほどの全能感が、この領域には存在した。
ちなみにこの時俺は、本来であれば一年ほどの期間をかけてじっくり行う『巡』の順応訓練を強引にさせられているとは思ってもみなかったわけだが。




